【まとめ版】⛓囚われの勇者⛓ -明日にかける鎖-

良音 夜代琴

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【囚勇02】囚われの勇者 -17歳

閑話◇ スケールが違う / 迷信

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 ロッソが何やら見慣れないカタログを開いている。
 何だろう。と思ったリンデルは、机に向かう小柄な従者を後ろからそうっと覗き込んだ。

 気配に気づいた従者が顔を上げて振り返る。
 うーん、自分的にはかなり慎重に近づいたつもりだったのに、この従者にはまだまだ敵いそうにないな。
 リンデルは内心で負けを認めながら素直に尋ねた。
「何してるんだ?」

「御姉様へのご祝儀を手配しております」
 答えて、ロッソはカタログの表紙をリンデルに見せた。
 そこには『王室御用達ご祝儀カタログ』と書かれている。

 ……嫌な予感がする。

 リンデルは慌ててロッソが書きかけていた発注書を見る。
 そこには『花篭搭載祝い象』と書かれていた。

「象!? と、鳥じゃなくて?」

 遥か昔は馬と呼ばれる生き物がいたらしいが、現在人々の生活を支えているのは主に鳥だ。
 食用に乗用に農作業にと様々な用途で、人よりも若干背が高く大きな嘴をもった姿の鳥が利用されている。

 それに対して象というのは、サーカスとパレードでしか見たことがない。
 こんなものを贈られては、村だってその処遇に困ってしまうだろう。
 食費だけでも馬鹿にならない気がする。

「俺んち小さな村だから! これはない! 流石にない!!」
「しかし国王様よりという形になるのですから、あまり貧相な物では困ります」

 顔色の変わらないロッソにそう返されて、リンデルは自分が間違っているのかと狼狽える。
「そう言われると俺も困るけど……」

 じゃあこれはどうだろうか、と俺は隣のページの花輪を指す。
 かなり大きそうではあるが、花なら村でもそう困らず処分できるだろう。

「これは1mではなく10mですよ?」

 さらりと言われて、俺は頭を抱えた。


 ***


 王城にある勇者専用の部屋。
 ベッドの上に両手足を放り出して大の字に寝転ぶリンデルの視線の先では、広い室内を音もなく右へ左へと動き回り、カーテンを閉めたりリンデルの明日の服を整えたりと休みなく働くロッソの長い黒髪が揺れていた。

 今日は豪雨の中での討伐で、リンデルは他の隊員と違い水を含んで重くなったマントや大仰な甲冑のせいで随分と疲弊してしまった。
 けれどそんな俺にずっと付いて、雨で足を滑らせた俺を支えたり、とどめを刺しきれなかった魔物を屠ったりと、動き続けていたロッソだってもう随分と疲れているはずなのに。

 俺よりずっと小柄なロッソは、いつもと変わらない無表情な顔で黙々と仕事をこなしている。
 揺れる長い黒髪からぽたりと雫が落ちて、俺はまだロッソが自分の髪すらきちんと拭けていない事に気づいた。

「ロッソ、髪が濡れてるよ」
 俺の言葉にロッソは「申し訳ありません」と答えると、自身の髪を布で包むようにして小さく束ね、素早く床を拭き上げにかかる。
「待って待って。床はいいよ、俺は気にしないから。ロッソが風邪をひかないか心配しただけで……」
 余計に仕事を増やしてしまったようで、俺は慌ててロッソを止める。
「そうはまいりません。このお部屋は代々勇者様がお使いになるお部屋ですので……」

 ああ、やっぱりダメか……。
 それならせめて……。と、俺は重い体に鞭打って乾いた雑巾を手にとると、広い部屋の反対側から拭き始める。

「勇者様はお休みになっていてください。お疲れでしょう」
「疲れてるのは俺だけじゃないんだから、ロッソだって早く休んだ方がいいよ。せめて髪だけでも先に拭いたら?」
「……私の髪は長いので、毛先の方は濡れたままでも風邪をひくことはありません」

 言われてなるほど、と思う。
 自分は生まれてこの方ずっと髪が短かったので思いもしなかったが、確かに地肌に当たらない部分は濡れていても困らないのかもしれない。

「ロッソの髪は本当に長いよね、どうしてそんなに伸ばしてるの?」

 俺の言葉にロッソは珍しく、わずかにだけど肩を揺らした。
「お、お世話役は勇者様のお傍へ立っても目立たないよう、小柄であるべく育てられるのです」
「うん?」
「で、ですから……、これは、父が、髪をこう下の方で括っていると、背が伸びにくくなると……」
 最後は少し聞き取れなくなったほどにか細い言い訳は、ロッソが既にそれが迷信だったと気付いている証拠なのだろう。

 しかし、気付いていたならせめてもう少し、彼の髪は短くても良い気がする。
 今の長さでは戦闘の邪魔になるだろうに……。
 そう思ってから、リンデルは小さく首を傾げる。
 いや、実際そんなことはないか、と。
 ロッソはコントールや身のこなしが良すぎて、あの長い髪が美しくなびく事はあっても、仲間をたたいたり邪魔になったりしたことはなかった。

 それなら一体、彼はいつごろそれが迷信だと気付いたんだろうか。

 ……もしかしたら、意外と最近なのかもしれない。

 リンデルは、自分よりもずっと小柄で優秀な従者がほんの少し見せた意外な部分に、なんだか少しだけ彼との距離が縮まった気がして嬉しくなった。

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