119 / 161
6巻 春の嵐と新学期
元聖女コミュニティ
しおりを挟む
オレはしばらく考えてから、玲菜……『キリアダン出身』宛のDMを書き始める。
つーかキリアダンに愛着があるのは分かるが、お前の出身はこっちだろ。
玲菜とオレはLINEは繋がってねーけど、コミュニティにいるこいつはキリアダンで300年以上過ごしてたってコミュ内でも言ってるし、こないだの捜索コミュにも「お世話になりました。無事戻ってこれました」って返事してるし、玲菜で間違いねーだろ。
兄貴はもう玲菜に話したんだろうか。
どんな説明をして、何を言って、何を言わなかったのか。
ちなみにオレのHNは『紫』だ。
元々オレはこのSNSにはアカウントを持っていなかったので、コミュニティのためだけにアカウントを作った。だから聖女の時のイメージカラーから取った。
兄貴は友達の関係で既にアカウントを持っていたが『ケイ』とそのままに近い無難な名前だ。
咲希は部活繋がりで始めたとかで『咲希』と本名のままだった。
少しずつ、玲菜の持つ情報を探りながら、フロウリアの起源や政治に関する部分なんかを聞き出しているうちに、危ないことはしない方がいいと止められてしまった。
やっぱオレ程度じゃ、300年以上のキャリアを持つ元聖女に腹の探り合いで敵うはずねーか……。
やっぱ玲菜には腹割って話す方がマシかもしんねーな。
こいつなら、全員救うとかそんな無謀な理想じゃない、現実的な妥協点を探せそうだしな。
『貴方達には貴方達だけが守れる人がいるでしょう?』
その文章に、オレは視線を上げる。
セリクはやはり、真剣な表情でペンを動かし続けていた。
『もしあの時、私に彼とゲートに飛び込む勇気があれば……って、今でも思うわ。貴方達には私の分も、その人達を大切にしてほしい。それに、元聖女は貴方達だけじゃないでしょ。このコミュニティには、こんなにもたくさんの元聖女がいるんだから』
玲菜の言葉に心が揺れる。
それは……、そうだ。
フロウリアを心配する元聖女は、オレや兄貴だけじゃない。
オレがやるべきことは、フロウリアを守ることじゃないはずだ。
セリクと兄貴とディアを守れるのは、オレだけなんだからな。
ここだけは、絶対にオレが死守しねーと。
はぁ……。
オレは内心で大きくため息を吐く。
ったく、本当に七凪ってやつは余計なことを知らせてくれたもんだよな。
これが八つ当たりである事はわかっているが、オレはそうする事でしか平静を保てそうにない。
なんだか精神的にとてつもなく疲労を感じて、ぐったりとベッドに体を預ける。
片手に握ったままのスマホは腹の上に伏せた。
ああ、疲れたな……。
ただオレは、セリクと一緒に居たいだけなのに。
……なんでこんなに難しいんだよ……。
顔だけで机を見れば、セリクは変わらない姿勢のままでペンを動かし続けている。
本当に、すげー集中力だな……。
オレは視線でセリクの輪郭をたどる。
ふわふわと撫で心地の良いプラチナブロンド。
セリクは頭を撫でられるのが好きだ。
撫でられた時の嬉しそうな顔は、見てるこっちまで幸せになる。
細くて長い首は、快感を浴びると大きく仰け反るのを知っている。
薄い肩と背中は、オレの愛撫に繰り返し震えて応える。
その下には、意外と締まった腹筋を備えた細めの腰に、スラリと綺麗な脚が続く。
滑らかな肌に包まれた足を抱え上げてやると、セリクは期待に満ちた瞳でオレを見つめるんだよな……。
……ああ、こいつを片時も離したくないのにな。
傷付けたくないし、危ない目に遭わせたくない。
もっと、……お前がなんの役にも立たない奴なら良かったのに。
そうすりゃ、遠慮なく安全な場所に閉じ込めておけるのによ。
お前はちょっと、有能過ぎるんだよ……。
オレはまた心の中でため息をついた。
眼鏡を外して、画面の小さな字を追う事に疲れた目をぎゅっと閉じる。
眼鏡を握ったままの腕を顔の上まで伸ばして、そのまま瞼の上に乗せた。
腕の重みと視界の暗さが少しだけ心を落ち着かせる。
しばらくそうしていると、腹の上でスマホが小さく振動した。
億劫な気持ちを無理矢理堪えて、オレは眼鏡をかけ直しつつスマホを開く。
届いていたのはコミュニティの通知ではなく、兄貴からのLINEだった。
『今からリビングで父さんに色々説明するから、蒼も下りておいで。一度に済ませておこうよ』
ああ、兄ちゃん達帰ってたのか。
もしかして部屋に声かけてくれたのかな。音消してて気付かなかったな。
……いや、多分、帰ったら速攻父さんにつかまったんだろうな。
二階に上がる間もなく……。
スマホには現在時刻が16:03と表示されている。
兄ちゃんのガイダンスって一日がかりだったんだな。
「セリク、オレ下に行ってくるから。悪ぃけど扉のロック外してくれるか? 部屋の遮音の設定も元に戻しといてくれ」
「あ、うん、分かった」
セリクはそう言いながらもペンを走らせている。
「キリのいーとこでいーからな」
「ん」
セリクの右手が速度を上げて何やら慌ただしく3行ほど書いてから、ようやく椅子が回ってセリクがこちらに向き直る。
「扉のロックはオレが出たらすぐかけ直しとけよ。オレが戻る時は声かけっから。オレ以外は入れんなよ」
「ケイ様も?」
「んー……、最悪父さんが兄ちゃんの声真似で侵入を試みるかもしんねーからな。オレの声なら、本物かどうか、まあ判断できんだろ?」
「ぇっ。う、うん。頑張る……っ」
セリクが一瞬顔を引きつらせる。
おい。自信ねーのかよ。
「愛のない言葉に騙されんなよ?」
「うええ、ハードル上げないでよぉ……」
「わかんねー時は鑑定使えよ」
「あ、そっか。そうする」
こいつ、頭は良いくせにこーゆーのはイマイチだよな。
まあそんなとこも、ちょっと抜けてて可愛いんだけどな。
……いや、違うか。
言われたとおりに、オレの声だけで判断しないとと思ったのか。
ったく、可愛い奴だな……。
立ち上がると不意に尿意を感じて、そういやセリクも部屋にこもりっぱなしだよな。と思う。
「一度トイレ行っとくか? オレが下までついてってやるよ」
「んー、じゃあ浄化してもらっていい?」
ああ、老廃物も不要物として浄化で消去できんのか?
利用範囲広いよな、浄化。
オレはセリクの下腹部に浄化をかけて、ついでにセリクのこめかみに唇を寄せる。
セリクはくすぐったそうに小さく笑う。
その少し恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔がまた可愛い。
けどペットボトルのお茶は全然減ってねーな。
つか一度も休憩挟んでねーよな、こいつ……。
午前中もずっとこうだったんだろ?
……戻ったら、無理矢理にでも一旦休ませるか……。
オレはセリクにしっかり水分を取るよう言い含めてから部屋を出た。
つーかキリアダンに愛着があるのは分かるが、お前の出身はこっちだろ。
玲菜とオレはLINEは繋がってねーけど、コミュニティにいるこいつはキリアダンで300年以上過ごしてたってコミュ内でも言ってるし、こないだの捜索コミュにも「お世話になりました。無事戻ってこれました」って返事してるし、玲菜で間違いねーだろ。
兄貴はもう玲菜に話したんだろうか。
どんな説明をして、何を言って、何を言わなかったのか。
ちなみにオレのHNは『紫』だ。
元々オレはこのSNSにはアカウントを持っていなかったので、コミュニティのためだけにアカウントを作った。だから聖女の時のイメージカラーから取った。
兄貴は友達の関係で既にアカウントを持っていたが『ケイ』とそのままに近い無難な名前だ。
咲希は部活繋がりで始めたとかで『咲希』と本名のままだった。
少しずつ、玲菜の持つ情報を探りながら、フロウリアの起源や政治に関する部分なんかを聞き出しているうちに、危ないことはしない方がいいと止められてしまった。
やっぱオレ程度じゃ、300年以上のキャリアを持つ元聖女に腹の探り合いで敵うはずねーか……。
やっぱ玲菜には腹割って話す方がマシかもしんねーな。
こいつなら、全員救うとかそんな無謀な理想じゃない、現実的な妥協点を探せそうだしな。
『貴方達には貴方達だけが守れる人がいるでしょう?』
その文章に、オレは視線を上げる。
セリクはやはり、真剣な表情でペンを動かし続けていた。
『もしあの時、私に彼とゲートに飛び込む勇気があれば……って、今でも思うわ。貴方達には私の分も、その人達を大切にしてほしい。それに、元聖女は貴方達だけじゃないでしょ。このコミュニティには、こんなにもたくさんの元聖女がいるんだから』
玲菜の言葉に心が揺れる。
それは……、そうだ。
フロウリアを心配する元聖女は、オレや兄貴だけじゃない。
オレがやるべきことは、フロウリアを守ることじゃないはずだ。
セリクと兄貴とディアを守れるのは、オレだけなんだからな。
ここだけは、絶対にオレが死守しねーと。
はぁ……。
オレは内心で大きくため息を吐く。
ったく、本当に七凪ってやつは余計なことを知らせてくれたもんだよな。
これが八つ当たりである事はわかっているが、オレはそうする事でしか平静を保てそうにない。
なんだか精神的にとてつもなく疲労を感じて、ぐったりとベッドに体を預ける。
片手に握ったままのスマホは腹の上に伏せた。
ああ、疲れたな……。
ただオレは、セリクと一緒に居たいだけなのに。
……なんでこんなに難しいんだよ……。
顔だけで机を見れば、セリクは変わらない姿勢のままでペンを動かし続けている。
本当に、すげー集中力だな……。
オレは視線でセリクの輪郭をたどる。
ふわふわと撫で心地の良いプラチナブロンド。
セリクは頭を撫でられるのが好きだ。
撫でられた時の嬉しそうな顔は、見てるこっちまで幸せになる。
細くて長い首は、快感を浴びると大きく仰け反るのを知っている。
薄い肩と背中は、オレの愛撫に繰り返し震えて応える。
その下には、意外と締まった腹筋を備えた細めの腰に、スラリと綺麗な脚が続く。
滑らかな肌に包まれた足を抱え上げてやると、セリクは期待に満ちた瞳でオレを見つめるんだよな……。
……ああ、こいつを片時も離したくないのにな。
傷付けたくないし、危ない目に遭わせたくない。
もっと、……お前がなんの役にも立たない奴なら良かったのに。
そうすりゃ、遠慮なく安全な場所に閉じ込めておけるのによ。
お前はちょっと、有能過ぎるんだよ……。
オレはまた心の中でため息をついた。
眼鏡を外して、画面の小さな字を追う事に疲れた目をぎゅっと閉じる。
眼鏡を握ったままの腕を顔の上まで伸ばして、そのまま瞼の上に乗せた。
腕の重みと視界の暗さが少しだけ心を落ち着かせる。
しばらくそうしていると、腹の上でスマホが小さく振動した。
億劫な気持ちを無理矢理堪えて、オレは眼鏡をかけ直しつつスマホを開く。
届いていたのはコミュニティの通知ではなく、兄貴からのLINEだった。
『今からリビングで父さんに色々説明するから、蒼も下りておいで。一度に済ませておこうよ』
ああ、兄ちゃん達帰ってたのか。
もしかして部屋に声かけてくれたのかな。音消してて気付かなかったな。
……いや、多分、帰ったら速攻父さんにつかまったんだろうな。
二階に上がる間もなく……。
スマホには現在時刻が16:03と表示されている。
兄ちゃんのガイダンスって一日がかりだったんだな。
「セリク、オレ下に行ってくるから。悪ぃけど扉のロック外してくれるか? 部屋の遮音の設定も元に戻しといてくれ」
「あ、うん、分かった」
セリクはそう言いながらもペンを走らせている。
「キリのいーとこでいーからな」
「ん」
セリクの右手が速度を上げて何やら慌ただしく3行ほど書いてから、ようやく椅子が回ってセリクがこちらに向き直る。
「扉のロックはオレが出たらすぐかけ直しとけよ。オレが戻る時は声かけっから。オレ以外は入れんなよ」
「ケイ様も?」
「んー……、最悪父さんが兄ちゃんの声真似で侵入を試みるかもしんねーからな。オレの声なら、本物かどうか、まあ判断できんだろ?」
「ぇっ。う、うん。頑張る……っ」
セリクが一瞬顔を引きつらせる。
おい。自信ねーのかよ。
「愛のない言葉に騙されんなよ?」
「うええ、ハードル上げないでよぉ……」
「わかんねー時は鑑定使えよ」
「あ、そっか。そうする」
こいつ、頭は良いくせにこーゆーのはイマイチだよな。
まあそんなとこも、ちょっと抜けてて可愛いんだけどな。
……いや、違うか。
言われたとおりに、オレの声だけで判断しないとと思ったのか。
ったく、可愛い奴だな……。
立ち上がると不意に尿意を感じて、そういやセリクも部屋にこもりっぱなしだよな。と思う。
「一度トイレ行っとくか? オレが下までついてってやるよ」
「んー、じゃあ浄化してもらっていい?」
ああ、老廃物も不要物として浄化で消去できんのか?
利用範囲広いよな、浄化。
オレはセリクの下腹部に浄化をかけて、ついでにセリクのこめかみに唇を寄せる。
セリクはくすぐったそうに小さく笑う。
その少し恥ずかしそうな、でも嬉しそうな顔がまた可愛い。
けどペットボトルのお茶は全然減ってねーな。
つか一度も休憩挟んでねーよな、こいつ……。
午前中もずっとこうだったんだろ?
……戻ったら、無理矢理にでも一旦休ませるか……。
オレはセリクにしっかり水分を取るよう言い含めてから部屋を出た。
13
あなたにおすすめの小説
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
魔王城の清掃係ですが、ラスボスに懐かれて世界を磨くことになりました
由香
恋愛
異世界に転移したら、なぜか魔王城の清掃係に就職していました。
巨大な玉座、血のついた回廊、禍々しい装飾品の数々。
今日も黙々と床を磨いていたら――
「お前の磨いた床は、よく眠れる」
恐怖の象徴と名高い魔王様に懐かれました。
見た目は完全にラスボス。
中身はちょっと不器用で、独占欲強めの努力型。
勇者は帰還の道を示し、魔王は隣を選べと願う。
光と闇のはざまで、選ぶのは――ただの清掃係。
戦争よりも、まず床。
征服よりも、まず対話。
これは、世界最強の存在に溺愛されながら
世界平和を“足元から”始める物語。
甘くて、少し熱くて、ちゃんと選ぶ恋。
【完結】たぶん私本物の聖女じゃないと思うので王子もこの座もお任せしますね聖女様!
貝瀬汀
恋愛
ここ最近。教会に毎日のようにやってくる公爵令嬢に、いちゃもんをつけられて参っている聖女、フレイ・シャハレル。ついに彼女の我慢は限界に達し、それならばと一計を案じる……。ショートショート。※題名を少し変更いたしました。
婚約破棄の慰謝料として『王国の半分』を要求したら、本当にくれたので、今日から私があなたの女王様です
唯崎りいち
恋愛
婚約破棄の慰謝料に
「王国の半分」を要求したら、
ゴミみたいな土地を押し付けられた。
ならば――関所を作りまくって
王子を経済的に詰ませることにした。
支配目当ての女王による、
愛なき(?)完全勝利の記録。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる