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6巻 春の嵐と新学期
ロイス=エル=ロンドリド
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定年間際の騎士ならロイスの他にもいるだろうが、騎士団内でも金髪碧眼は珍しい。
それに、ロイスはオレ達を守るためなら何度でも躊躇いなくオレ達の前に身を投げてくれる奴だったからな……。
……なんだよ。
老後は可愛い娘達とのんびり暮らすんだとか言ってただろ……?
4820年……ってことは44歳か。
もう来年には定年だったのかよ。
ったく……。この一歩届かない感じが、ある意味ロイスらしいよな。
…………なんでそこで、無茶すんだよ……。
2年の巡礼で幾度となくオレを守ってくれた、ロイスの広い背中が瞼に蘇る。
セリクに贈る指輪をオレに買わせてくれたのも、それを渡すのを見守ってくれたのも、ロイスだった。
すぐカッとするオレを茶化しつつも的確に諌めてくれて、判断に迷う時にはそっと背中を押してくれた。
オレの頭を撫でたロイスの大きな手。
それを振り払ってしまった自分に向けてくれた、柔らかな苦笑。
オレを庇って刺された時ですら、ロイスを失う事に怯えて無様に震えるオレの手を撫でてくれたのは、やっぱりロイスだった。
……なあロイス……。聖女はそっちで死んだって死なねーんだぞ……?
まあ、お前は知らされてなかったんだろうけどさ……。
いつの間にか滲んだ涙でじわりと視界が歪む。
悲しみと同時に腹の底から怒りが込み上げてきて、オレは叫び出しそうな衝動を堪えるのに奥歯を噛み締めた。
くそっ!!
なんで命張ってるお前らが、そんな事すら知らされないまま死んでくんだよ!!
オレが居た頃、せめてロイスにだけでも教えてやってれば、ロイスはまだ生きてたんじゃないか……?
そんなどうしようもない後悔が、いくつも浮かんでは容赦なく胸をえぐる。
「……っ……!」
堪えきれなかった小さな嗚咽に、セリクがなぜか振り返る。
「アオイ……?」
……んだよ、オレが話しかけてもまるで聞いてねーことすらあんのに、何でこんな時だけこっち向くんだよ……。
オレはベッドの上でセリクに背を向けて答える。
「……なんでもねーよ。作業に戻ってろ」
セリクは小さく息を呑んだ。
「そんなの……何でもないような声じゃないよ……。何があったの……?」
チッ。声が震えてたか、それとも固かったか……。
兄ちゃんみたいに器用にはできねぇな……。
「いや……。もう、どうにもなんねーことだから。夜に話す」
全力で平静を装って答える。
今、感情のままセリクに話したら、みっともなく泣き喚いてしまいそうで嫌なんだよ。
「そっか……。わかった」
セリクはそれ以上聞かずに、キィと小さな音を立てて机に向き直ると、作業に戻ってくれたようだ。
部屋には、サラサラとペン先が紙を撫でる静かな音だけが続いた。
……土日だったんだから、ディアだけでも帰らせときゃよかったんじゃねーか。
せめて、聖女の体を作るより先に、ゲートを開けておけば……。
くそっ。こんなん全部後の祭りだろ!!
考えてもしゃーねーことはもう考えんな!!
オレは握りしめたままのスマホにもう一度視線を落とす。
ロイスは、一体どこに置いていかれたのか……。
今すぐ行ったってもう遺体は腐ってんだろうが、せめて次に向こうへ行った時には骨だけでも拾って、あいつの大好きな家族んとこに……届けてやりてーな……。
……兄ちゃんは、この投稿に気づいただろうか。
兄貴はSNSに張り付いたりしないタイプではあるが、ともすれば咲希が直接知らせてくる可能性はあるな……。
まあ、兄ちゃんから何か言ってこない限りは黙っとくか。
……今更、どうにもなんねー話だしな……。
オレは息を吐いて、気持ちを切り替えるように視線を動かす。
勉強机に作り付けられた本棚の右上。
元々オレの教科書や参考書が並んでいたそこには今、浅い皿の上に小石が5つ並んでいる。
5つの石は公園に張っている聖力の探知結界と繋がっていて、公園内に聖力を持った奴が入るとそれぞれの石が反応するらしい。
公園へは昨日の夜、兄ちゃん達が父さんと話してる間に、オレとセリクがこっそり抜け出して仕掛けてきた。
別にオレはコソコソする必要ねーんだけどさ。
玄関あたりでセリクが父さんに鉢合わすのも嫌だったんだよな……。
あーあ、早く七凪とやらが現れてくんねーかな。
そうすりゃもっとハッキリ色んなことが分かんのにさ。
オレは沢山のモヤモヤを抱えたまま、電池の減ったスマホを充電器に繋いで、布団にうつ伏せた。
それに、ロイスはオレ達を守るためなら何度でも躊躇いなくオレ達の前に身を投げてくれる奴だったからな……。
……なんだよ。
老後は可愛い娘達とのんびり暮らすんだとか言ってただろ……?
4820年……ってことは44歳か。
もう来年には定年だったのかよ。
ったく……。この一歩届かない感じが、ある意味ロイスらしいよな。
…………なんでそこで、無茶すんだよ……。
2年の巡礼で幾度となくオレを守ってくれた、ロイスの広い背中が瞼に蘇る。
セリクに贈る指輪をオレに買わせてくれたのも、それを渡すのを見守ってくれたのも、ロイスだった。
すぐカッとするオレを茶化しつつも的確に諌めてくれて、判断に迷う時にはそっと背中を押してくれた。
オレの頭を撫でたロイスの大きな手。
それを振り払ってしまった自分に向けてくれた、柔らかな苦笑。
オレを庇って刺された時ですら、ロイスを失う事に怯えて無様に震えるオレの手を撫でてくれたのは、やっぱりロイスだった。
……なあロイス……。聖女はそっちで死んだって死なねーんだぞ……?
まあ、お前は知らされてなかったんだろうけどさ……。
いつの間にか滲んだ涙でじわりと視界が歪む。
悲しみと同時に腹の底から怒りが込み上げてきて、オレは叫び出しそうな衝動を堪えるのに奥歯を噛み締めた。
くそっ!!
なんで命張ってるお前らが、そんな事すら知らされないまま死んでくんだよ!!
オレが居た頃、せめてロイスにだけでも教えてやってれば、ロイスはまだ生きてたんじゃないか……?
そんなどうしようもない後悔が、いくつも浮かんでは容赦なく胸をえぐる。
「……っ……!」
堪えきれなかった小さな嗚咽に、セリクがなぜか振り返る。
「アオイ……?」
……んだよ、オレが話しかけてもまるで聞いてねーことすらあんのに、何でこんな時だけこっち向くんだよ……。
オレはベッドの上でセリクに背を向けて答える。
「……なんでもねーよ。作業に戻ってろ」
セリクは小さく息を呑んだ。
「そんなの……何でもないような声じゃないよ……。何があったの……?」
チッ。声が震えてたか、それとも固かったか……。
兄ちゃんみたいに器用にはできねぇな……。
「いや……。もう、どうにもなんねーことだから。夜に話す」
全力で平静を装って答える。
今、感情のままセリクに話したら、みっともなく泣き喚いてしまいそうで嫌なんだよ。
「そっか……。わかった」
セリクはそれ以上聞かずに、キィと小さな音を立てて机に向き直ると、作業に戻ってくれたようだ。
部屋には、サラサラとペン先が紙を撫でる静かな音だけが続いた。
……土日だったんだから、ディアだけでも帰らせときゃよかったんじゃねーか。
せめて、聖女の体を作るより先に、ゲートを開けておけば……。
くそっ。こんなん全部後の祭りだろ!!
考えてもしゃーねーことはもう考えんな!!
オレは握りしめたままのスマホにもう一度視線を落とす。
ロイスは、一体どこに置いていかれたのか……。
今すぐ行ったってもう遺体は腐ってんだろうが、せめて次に向こうへ行った時には骨だけでも拾って、あいつの大好きな家族んとこに……届けてやりてーな……。
……兄ちゃんは、この投稿に気づいただろうか。
兄貴はSNSに張り付いたりしないタイプではあるが、ともすれば咲希が直接知らせてくる可能性はあるな……。
まあ、兄ちゃんから何か言ってこない限りは黙っとくか。
……今更、どうにもなんねー話だしな……。
オレは息を吐いて、気持ちを切り替えるように視線を動かす。
勉強机に作り付けられた本棚の右上。
元々オレの教科書や参考書が並んでいたそこには今、浅い皿の上に小石が5つ並んでいる。
5つの石は公園に張っている聖力の探知結界と繋がっていて、公園内に聖力を持った奴が入るとそれぞれの石が反応するらしい。
公園へは昨日の夜、兄ちゃん達が父さんと話してる間に、オレとセリクがこっそり抜け出して仕掛けてきた。
別にオレはコソコソする必要ねーんだけどさ。
玄関あたりでセリクが父さんに鉢合わすのも嫌だったんだよな……。
あーあ、早く七凪とやらが現れてくんねーかな。
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