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6巻 春の嵐と新学期
届きそうなセリク
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「ただいまー」
オレが玄関のドアを開けると、父さんが玄関に椅子を出して待っていた。
「おお蒼おかえり! これを見てくれ!」
当初、兄ちゃんの入学式を見たら旅立つはずだった父さんは、結局それから10日経った今日もまだ家にいる。
先週の初めは結局、兄貴の大学についていくリンにくっついてって、ずっと聞き取りを続けていた父さんだが、ひとまずの聞き取りがようやく完了したとかで、そこからはずっと魔法について学んでいた。
魔法の基礎についてはリンが2日かけて教えていたが、考古学者としての知識のある父さんは、この世界に昔から伝わる民族模様にも魔術陣に酷似した形が残されているとかでしばらくは大興奮で自室にこもっていた。
その間は束の間の平穏がリビング訪れていたものの、その後また父さんは部屋から出てきて、先週末の土日もびっちり使って兄ちゃんから中級範囲の魔法をゴリゴリ学んでいたようだった。
そういや兄ちゃん部活に入ってもいいかって悩んでたよな。
元々兄ちゃんは演劇部に入るのを目標に入った大学だってのに、何遠慮してんだよって、今日にも背中押してやんねーとな。
昨日も兄ちゃんは家に帰ってからずっと父さんに捕まってたしな……。
確かにこんな毎日じゃ部活もバイトもできやしねーよな。
一方で父さんから解放されたディアは、先週の終わりから時間さえあればひたすらに魔力制御の訓練に励んでるようだったが、どこまでできるようになったやら……。
バッと目の前に広げられたノートに、オレは眉を顰める。
「いきなりなんだよ……」
父さんの見せてきたノートには、びっちりと魔術陣の式と構造図が書き込まれていた。
「はぁ!? もうここまでのもんが分かんのかよ!」
「しかし書くだけでは面白くない。動くところが見たいのだよ」
「つーかこれ規模がデカ過ぎんだろ。うちで展開したら隣近所まで吹き飛ぶからな!? 絶対使うなよ!!」
つーか、なんでこんな竜巻みたいなもんが出る風魔法の陣を書いてんだこいつは……。
これ……発動したらマジで家ごと吹き飛ぶって……。
想像してしまった未来に、オレの背を冷たい汗が伝う。
「そう言われても、私にはその魔力がないから試しにともいかんのだよ」
「あっても使うなって言ってんだろ!」
「いやそれでここなんだが、これはこう書くよりこのように書く方が効率的じゃないかね?」
「はぁ!? ん……? あー……、そうだな。けどそっちだけ早く回るとこっちが間に合わねーんじゃねーの? それ三重陣なんだろ? 速度とバランスが大事だって聞かなかったのかよ」
「なるほど、そういう事情でこうなっているのか……。いやその実行速度というのがいまいちピンとこなくてなぁ」
まあ一度も魔法を使ったことがなきゃそうだろうなとは思うが……、それでここまで、実践なしで理解できるってのもまた違う意味でヤバイな……。
「なあ蒼、ちょっと試しに使って見せてくれ」
「なんか見せるにしても、それは絶対ダメだからな!?」
叫んでから、オレは失言に気づく。
「うん? 蒼はこの魔法も使えるって事なのかい……?」
オレは、オレと兄貴がセリクの魔力入りブレスレットを持っている事を父さんに言わないようにと、兄貴達に口止めしていた。
じゃねーと絶対奪い取って自分で試そうとするだろうからな。
「向こうではな。とにかくオレには父さんに構ってる暇なんてねーんだよっ。大人しく兄ちゃん達が帰るのを待ってろって!」
叫んで、オレは2階への階段を駆け上がる。
追いかけてくる父さんとの間にしっかり障壁を張ってから、オレは振り返らずに自室に戻った。
パタンと扉を閉めると、机に向かっていたセリクがオレを振り向く。
「アオイおかえり。なんか騒がしかったけど大丈夫?」
淡く柔らかに揺れるふわふわの金の髪。
ちょっと目元に疲れを残した様子の黄緑がかったヘーゼルカラーの瞳が、それでもオレを気遣って微笑みを向けてくる。
あー……。オレの部屋に本物の天使がいるんだよな。
これだけで、今日一日の疲れとかそんなもんが吹き飛ぶ気がする。
「ああ、ただいま。何でもねー……ってお前また飲まず食わずでやってたのかよ。飯はちゃんと食えっつってんだろ……」
部屋の中央に出していった折り畳みのローテーブルには、オレが用意して行った食事がそのままの形で残されていた。
「あ……ごめん、忘れてた……」
今気づいたみたいな顔をして、しょんぼりと反省を示すセリク。
「ったく……しょーがねーな。ほれ、今すぐ食え」
オレは片手でも食べやすいように片側に紙を巻いておいたサンドイッチを手に取ると、セリクの口に突っ込んだ。
「んむっ……、ん……っ、そんな強引に……」
文句を言いつつも、嫌がらずに口で受け取るセリクが可愛い。
お前、オレに食わされるの嫌じゃねーもんな?
こんだけの事で気分が上がるオレも大概単純だよな、なんて思いつつ、オレはセリクにローテーブルで食事を摂るよう促す。
「僕だってご飯くらいひとりで食べられるのに……」
お前なぁ……、食えてねーから世話焼いてんだろ?
「ん? 口移しの方がいいって?」
「そっ、そんなこと言ってないよっ!」
バタバタと両手を振って慌てる様子が可愛くて、ついついからかっちまうオレは、兄ちゃんよりもずっとガキなんだろうな。
もっと、お前をこの世の何からも守れるくらい、頼れる男になりたいのにな……。
じっと見つめていると、オレの視線に気づいたセリクがカアッと頬を朱に染める。
「お前は、……本当に可愛いな……」
「っ、もうっ、アオイはそんなことばっかり言う……」
そんな風に言ってくれるだけで、毎日愛を囁いてる甲斐があるよ。
お前はオレにすげー愛されてるって、ちゃんと分かってろよ?
恥ずかしそうにしながらサンドイッチを頬張るセリクに癒されながら、オレはローテーブルの反対側に今日出た課題のワークと教科書を並べる。
「それってアオイの学校の勉強?」
「まーな」
「勉強、面白い?」
「んー? まー別に面白くもねーけど、つまんねーって程でもねーかな」
セリクはオレの言葉にクスクス笑う。
なんか笑うとこあったか?
「なんていうか……ふふっ、アオイらしいね」
「そうか? セリクはどうなんだよ」
なんかこんな普通の会話すんのも久しぶりな気がすんな……。
寝る前だけは毎晩触れ合って、セリクの可愛い声もたっぷり聞かせてもらってっけど、あんま会話らしい会話はできねーしな。
「んー……僕は……もうちょっと、かな」
「へぇ。すげーじゃん」
「もうね、絶対ここだなってとこまではわかってるんだけど、それがなかなか……めくってもめくっても本体に辿り着かないっていうか……。何だろう……入れ子構造だと思ってたけど、実はループにでもなってるのかなぁ……?」
セリクはしかめ面をしながら、両手を何か丸っこい物でも掴むような形にして、手の内側を向かい合わせながら両手首を回してみせた。
どんなジェスチャーだよ。
「ふぅん。なんか玉ねぎの皮剥きでもしてるみてーだな」
「え……?」
「玉ねぎっていう野菜があんだよ。そっちのキュットみたいなやつな」
キュットはフロウリアではほぼ通年食事に出てくる野菜で、こっちの玉ねぎに良く似た見た目だがちょっと縦に長い感じの物だ。
味もまあ、だいたい玉ねぎ。ほんの少しだけセロリっぽい匂いがすっけど。
「あー、なる……ほ……ど………………」
不意にセリクが動きを止める。
「おーい? セリク大丈夫か? 固まってんぞ?」
セリクの目の前で手を振ってみるも、セリクはオレの手よりも向こうを見ているような顔をしている。
……大丈夫かこいつ……。
「そうか! そうだよきっと! あれは全部まとめて1つなんだ! バラバラにしちゃダメだったんだよ!!」
突如握り拳を作って勢いよく叫んだセリクは、そのまま机に向かった。
ローテーブルにはまだサンドイッチが1つと、ひと口飲んだか飲まないか程度の飲み物が残されている。
「おい、せめて飲みもんだけでも飲め」
オレが横からカップを差し出しても、セリクは手元から目を離さなかった。
「ごめん、あとで」
何の感情も乗らない返事に、オレは水分補給を諦める。
ったく、しょーがねーな……。
オレは両手をかざすと、せめてものエールでセリクの全身に浄化をかけてやった。
……頑張れよ。
オレはお前をずっと応援してっからな。
オレが玄関のドアを開けると、父さんが玄関に椅子を出して待っていた。
「おお蒼おかえり! これを見てくれ!」
当初、兄ちゃんの入学式を見たら旅立つはずだった父さんは、結局それから10日経った今日もまだ家にいる。
先週の初めは結局、兄貴の大学についていくリンにくっついてって、ずっと聞き取りを続けていた父さんだが、ひとまずの聞き取りがようやく完了したとかで、そこからはずっと魔法について学んでいた。
魔法の基礎についてはリンが2日かけて教えていたが、考古学者としての知識のある父さんは、この世界に昔から伝わる民族模様にも魔術陣に酷似した形が残されているとかでしばらくは大興奮で自室にこもっていた。
その間は束の間の平穏がリビング訪れていたものの、その後また父さんは部屋から出てきて、先週末の土日もびっちり使って兄ちゃんから中級範囲の魔法をゴリゴリ学んでいたようだった。
そういや兄ちゃん部活に入ってもいいかって悩んでたよな。
元々兄ちゃんは演劇部に入るのを目標に入った大学だってのに、何遠慮してんだよって、今日にも背中押してやんねーとな。
昨日も兄ちゃんは家に帰ってからずっと父さんに捕まってたしな……。
確かにこんな毎日じゃ部活もバイトもできやしねーよな。
一方で父さんから解放されたディアは、先週の終わりから時間さえあればひたすらに魔力制御の訓練に励んでるようだったが、どこまでできるようになったやら……。
バッと目の前に広げられたノートに、オレは眉を顰める。
「いきなりなんだよ……」
父さんの見せてきたノートには、びっちりと魔術陣の式と構造図が書き込まれていた。
「はぁ!? もうここまでのもんが分かんのかよ!」
「しかし書くだけでは面白くない。動くところが見たいのだよ」
「つーかこれ規模がデカ過ぎんだろ。うちで展開したら隣近所まで吹き飛ぶからな!? 絶対使うなよ!!」
つーか、なんでこんな竜巻みたいなもんが出る風魔法の陣を書いてんだこいつは……。
これ……発動したらマジで家ごと吹き飛ぶって……。
想像してしまった未来に、オレの背を冷たい汗が伝う。
「そう言われても、私にはその魔力がないから試しにともいかんのだよ」
「あっても使うなって言ってんだろ!」
「いやそれでここなんだが、これはこう書くよりこのように書く方が効率的じゃないかね?」
「はぁ!? ん……? あー……、そうだな。けどそっちだけ早く回るとこっちが間に合わねーんじゃねーの? それ三重陣なんだろ? 速度とバランスが大事だって聞かなかったのかよ」
「なるほど、そういう事情でこうなっているのか……。いやその実行速度というのがいまいちピンとこなくてなぁ」
まあ一度も魔法を使ったことがなきゃそうだろうなとは思うが……、それでここまで、実践なしで理解できるってのもまた違う意味でヤバイな……。
「なあ蒼、ちょっと試しに使って見せてくれ」
「なんか見せるにしても、それは絶対ダメだからな!?」
叫んでから、オレは失言に気づく。
「うん? 蒼はこの魔法も使えるって事なのかい……?」
オレは、オレと兄貴がセリクの魔力入りブレスレットを持っている事を父さんに言わないようにと、兄貴達に口止めしていた。
じゃねーと絶対奪い取って自分で試そうとするだろうからな。
「向こうではな。とにかくオレには父さんに構ってる暇なんてねーんだよっ。大人しく兄ちゃん達が帰るのを待ってろって!」
叫んで、オレは2階への階段を駆け上がる。
追いかけてくる父さんとの間にしっかり障壁を張ってから、オレは振り返らずに自室に戻った。
パタンと扉を閉めると、机に向かっていたセリクがオレを振り向く。
「アオイおかえり。なんか騒がしかったけど大丈夫?」
淡く柔らかに揺れるふわふわの金の髪。
ちょっと目元に疲れを残した様子の黄緑がかったヘーゼルカラーの瞳が、それでもオレを気遣って微笑みを向けてくる。
あー……。オレの部屋に本物の天使がいるんだよな。
これだけで、今日一日の疲れとかそんなもんが吹き飛ぶ気がする。
「ああ、ただいま。何でもねー……ってお前また飲まず食わずでやってたのかよ。飯はちゃんと食えっつってんだろ……」
部屋の中央に出していった折り畳みのローテーブルには、オレが用意して行った食事がそのままの形で残されていた。
「あ……ごめん、忘れてた……」
今気づいたみたいな顔をして、しょんぼりと反省を示すセリク。
「ったく……しょーがねーな。ほれ、今すぐ食え」
オレは片手でも食べやすいように片側に紙を巻いておいたサンドイッチを手に取ると、セリクの口に突っ込んだ。
「んむっ……、ん……っ、そんな強引に……」
文句を言いつつも、嫌がらずに口で受け取るセリクが可愛い。
お前、オレに食わされるの嫌じゃねーもんな?
こんだけの事で気分が上がるオレも大概単純だよな、なんて思いつつ、オレはセリクにローテーブルで食事を摂るよう促す。
「僕だってご飯くらいひとりで食べられるのに……」
お前なぁ……、食えてねーから世話焼いてんだろ?
「ん? 口移しの方がいいって?」
「そっ、そんなこと言ってないよっ!」
バタバタと両手を振って慌てる様子が可愛くて、ついついからかっちまうオレは、兄ちゃんよりもずっとガキなんだろうな。
もっと、お前をこの世の何からも守れるくらい、頼れる男になりたいのにな……。
じっと見つめていると、オレの視線に気づいたセリクがカアッと頬を朱に染める。
「お前は、……本当に可愛いな……」
「っ、もうっ、アオイはそんなことばっかり言う……」
そんな風に言ってくれるだけで、毎日愛を囁いてる甲斐があるよ。
お前はオレにすげー愛されてるって、ちゃんと分かってろよ?
恥ずかしそうにしながらサンドイッチを頬張るセリクに癒されながら、オレはローテーブルの反対側に今日出た課題のワークと教科書を並べる。
「それってアオイの学校の勉強?」
「まーな」
「勉強、面白い?」
「んー? まー別に面白くもねーけど、つまんねーって程でもねーかな」
セリクはオレの言葉にクスクス笑う。
なんか笑うとこあったか?
「なんていうか……ふふっ、アオイらしいね」
「そうか? セリクはどうなんだよ」
なんかこんな普通の会話すんのも久しぶりな気がすんな……。
寝る前だけは毎晩触れ合って、セリクの可愛い声もたっぷり聞かせてもらってっけど、あんま会話らしい会話はできねーしな。
「んー……僕は……もうちょっと、かな」
「へぇ。すげーじゃん」
「もうね、絶対ここだなってとこまではわかってるんだけど、それがなかなか……めくってもめくっても本体に辿り着かないっていうか……。何だろう……入れ子構造だと思ってたけど、実はループにでもなってるのかなぁ……?」
セリクはしかめ面をしながら、両手を何か丸っこい物でも掴むような形にして、手の内側を向かい合わせながら両手首を回してみせた。
どんなジェスチャーだよ。
「ふぅん。なんか玉ねぎの皮剥きでもしてるみてーだな」
「え……?」
「玉ねぎっていう野菜があんだよ。そっちのキュットみたいなやつな」
キュットはフロウリアではほぼ通年食事に出てくる野菜で、こっちの玉ねぎに良く似た見た目だがちょっと縦に長い感じの物だ。
味もまあ、だいたい玉ねぎ。ほんの少しだけセロリっぽい匂いがすっけど。
「あー、なる……ほ……ど………………」
不意にセリクが動きを止める。
「おーい? セリク大丈夫か? 固まってんぞ?」
セリクの目の前で手を振ってみるも、セリクはオレの手よりも向こうを見ているような顔をしている。
……大丈夫かこいつ……。
「そうか! そうだよきっと! あれは全部まとめて1つなんだ! バラバラにしちゃダメだったんだよ!!」
突如握り拳を作って勢いよく叫んだセリクは、そのまま机に向かった。
ローテーブルにはまだサンドイッチが1つと、ひと口飲んだか飲まないか程度の飲み物が残されている。
「おい、せめて飲みもんだけでも飲め」
オレが横からカップを差し出しても、セリクは手元から目を離さなかった。
「ごめん、あとで」
何の感情も乗らない返事に、オレは水分補給を諦める。
ったく、しょーがねーな……。
オレは両手をかざすと、せめてものエールでセリクの全身に浄化をかけてやった。
……頑張れよ。
オレはお前をずっと応援してっからな。
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