【完結可】異世界召喚された聖女の俺、再会を約束した騎士にもう一度会いに行ったら男の姿のままでした。

良音 夜代琴

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6巻 春の嵐と新学期

蒼とセリクの経過報告(1/2)

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「蒼、来たよ」
 ノックと共に声をかけると、間もなく扉が開けられる。
「ん、入って入って、父さんが来ねーうちに」

 相変わらず父を警戒している弟に、大変だなぁと内心苦笑しながら中に入る。
 リンの場合はフィジカルが圧倒的に父さんより上なので、父さんと2人きりにすることもそこまで心配ではないんだけど、セリクの場合は力尽くでこられると魔法を使うしかないもんなぁ……。
 室内の被害を考えると睡眠魔法が妥当だろうけど、父さんが頭打ったりメガネ割れたりしちゃいそうだしね。

「もーちょいマメに報告すりゃよかったんだけどさ」
 と前置きをして、蒼がここまでの経過を話してくれる。

「んで、これが変身アイテムな。こっちが兄ちゃんので、こっちがオレの。コンパクトミラータイプになってんのは、作ってくれた先輩の趣味な」

 蒼が差し出してきたのは、手の平にすっぽりおさまるサイズのキラキラした装飾が施された丸く平たい物だった。
 そこそこの重量感がずしっと手のひらに伝わる。

「開けてもいいけど、鏡に触れると魔力食われっから今はやめといた方がいい」

 言われて、そっと開けて確認する。
 上蓋側についている丸い鏡は淡い紫の光を放っていた。

「これって……」

「そ、ゲートの魔法陣の中の、極一部の機能のみそこに実装されてる」

 覗き込むと、そこには懐かしいピンク色の髪をした聖女の姿が映った。

 俺の動きに合わせて顔を揺らすその姿は、何だかちょっと、昔に比べて成長しているような気がする。

「……懐かしい、お姿ですね……」

 リン、敬語に戻ってるよ?

 それほど衝撃的だったのかな……。

 そうだよね。初恋相手の姿だもんね。
 何だか俺は居た堪れなくなって、そっと蓋を閉じる。

「アオイの心もちょっとだけ成長した?」

 蒼の開いたコンパクトの鏡にも、あの頃の聖女の姿が映ってるのだろう。
 後ろから覗いたセリクがそう尋ねている。

「んな短い期間で大して変わるかよ」
 蒼は面倒そうに返事をして、コンパクトを閉じる。
「ほら、セリク説明」
 蒼に脇腹を突かれて、セリクが「あ、うん」とこちらに向き直る。

「ケイ様、この道具は鏡に魔法陣が入れてあって触ると姿が変わるのですが、誰でもは使えないようにするために……」

 つまり、このコンパクトは鏡が本体ではあるものの、下蓋部分のキラキラとデコられた色のついたアクリルパーツを決まった順に触れてからでないと、無駄に魔力だけ吸われる仕組みらしい。
 俺は5回ほどロックの解除手順を繰り返して、しっかり覚える。
 六芒星を描くように6箇所に触ってから、最後に中央に簡単な魔術陣を描いて、実行キーを口に出して触れる。
 うん。これならそこまで時間もかからないし、緊急時にもサッとできそうだ。

「すごいなぁ。良く考えてあるね」

「つかこの仕組み考えたのも、コンパクト作ったのも、オレの前任聖女のソーマ様なんだよな」

「……えっ!? 爽真君が!?」

 俺はあまりに予想もしていなかったその名前にしばらく遅れて声を上げた。

「そ。オレと同じ学校だったんだよ。クラスメイトに部活の先輩っつって引き合わされて、互いに驚いたからな」

 え……爽真君って緑の髪の、しっかり者の……。
 確か進学校って言ってたけど……、確かに蒼のとこも進学校だ。

「ソーマ様が……わざわざ我々のために……」
 リンは爽真君とは巡礼でもずっと一緒だったんだよね、感慨深そうだな。

「つーか、先輩多分3日くらいほとんど寝ずにこれ作ってたんじゃねーかな。まあ土日寝るからいいって言ってたけどさ、今日はヘロヘロで学校来てたよ」

「ええっ、そうなの!?」

「別に急がなくていいっつったんだけどさ、なんかすげーやる気で燃えてて……。先輩こういうの作んの大好きらしい」

 俺のは上品なパールホワイトとピンク色で、蒼のは紫にラズベリーピンクで作られているそれは、それぞれの聖女のイメージカラーで、それぞれに装飾が違っていて、確かにすごいこだわりの気配を感じる……。

「聖女の状態で同様に発動させると現在のお姿に戻る事ができますが、ケイ様の場合はずっと聖女のお姿の方が安全ですから、フロウリアではなるべく解除しないでくださいね」

「安全……?」

 そういえばさっき蒼も食卓でそんな事を言いかけていたような……。

「はい。聖女のお姿の時は仮の体ですから、そこでのお怪我はケイ様の本当のお身体には影響しませんし、万が一お命を落とすことがあっても、こちらのゲートから魂が強制排出されて元のお身体に融合されますので大丈夫ですっ!」

 えへんと胸を張ってセリクが言う。
 褒めて褒めてという雰囲気が伝わるが、それ以上に、俺はセリクを心からすごいと思った。

「すごいよセリク!」

 俺は思わずセリクを抱き上げる。

「ふわぁっ」と慌てたような声を漏らしたセリクが、それでも次の瞬間嬉しそうに笑った。
 俺達のためにセリクはずいぶん頑張っていたからな……。
 セリクのはにかむ笑顔がたまらなく愛しくて、俺はセリクを思い切り褒め称えた。

「えへへ……」と喜色満面のセリクを撫でまくっていると、蒼の手が割り入る。

「……兄ちゃんでも、もうその辺にしといてくれよ?」

 そちらを見れば、随分と感情を殺した様子の蒼がこちらを見ていた。

「あっ、ごめん……」

 俺は苦笑いを浮かべつつセリクから手を離した。
 ちょっとだけ名残惜しそうなセリクの視線を感じたものの、セリクはそのまま蒼に手を引かれて、蒼の膝の上に収納されている。

 いや、違うんだよ?
 セリクは俺にとっては弟みたいなものっていうか……。
 まあ、説明しなくても皆わかってはいるだろうけど……。

 不意に視線を感じて隣を見る。
 リンもあからさまではないものの、普段よりも眉間の皺が深い気がする。

 あ。
 でもそうか。これなら……。

「リン、これがあれば俺だけでも父さんを送っていけるよ」

 俺の言葉にリンはほんの3秒ほど考えてから、首を振った。

 うーん。即答ではないくらいの迷いは生じたけど、それだけかぁ……。

 リンの意思は固いなぁ。

 多分、俺が死なない事にはホッとしたんだろうけど、それでも怪我するかもって思っただけで嫌だったんだろうな。

 しかし爽真君は、進学校の3年生なのに新学期早々に2徹して授業は大丈夫だったんだろうか……。
 いや、新学期早々だったからこそ、かなぁ。

「そういや先輩はコンパクトを自分の含めていくつか作って聖女戦隊結成したいっつってたから、悪ぃけど、そん時ゃちょっとだけでいーんで、兄ちゃんも付き合ってやってほしい」

 セリクの肩に顔を埋めていた蒼が、顔をあげてそう言った。
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