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番外編
六月の夢 (3/5)
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あー、なるほどな。そういう事か……。
しかしマズイなこれは。ルスの目が据わってる。
ルスはこれ、本気で俺の家族に俺たちの事を認めさせようって思ってんな?
このままじゃ、城でルスが父さんとバッタリ顔合わせた日には爆弾発言が飛び出すぞ……?
俺はじわりと嫌な汗をかきながら口を開く。
「いや、だから待てって。確かに羨ましいと思ったけど、それとこれとは話が別なんだよ」
「別ではないだろう。俺はお前が周りには黙ってろというから黙っていただけで、俺自身はお前との事を隠したいと思った事はないぞ?」
「そーじゃなくてだな……」
ルスを宥めるような言葉とは裏腹に、俺は口元が緩んでしまいそうになる。
だって、俺のことそんな風に思ってくれてるなんて、嬉し過ぎるだろ。
「戦場では、より安全な道を選ぶお前が正しい。だが、人生では時に挑戦したっていいんじゃないか?」
ルスが、どうにも納得できないという顔をしている。
不服そうなルスも、なんか可愛いよな。
じゃなくて!
「だから、待てって。よーく考えてくれよ。俺たちは揃って国を守る騎士なんだよ。王様直属の騎士団には、それ相応の、守るべき規律とかイメージってもんがあんだろ?」
あー……なんで俺がこんな事言ってんだろーな。
若い頃は規律だとか責任だとか、そんなのどーでもいいような気がしてたのにな。
でもこうやって、俺たちをここまで見守って、導いてきてくれた人達がいてさ。
俺みたいな奴に命預けてついてきてくれた団員達がいてさ。
そんな俺らを、医務室とか鳥舎とか着場とかで支えてくれてる城の皆がいてさ。
そんな人達の気持ちを裏切るような事すんのは、やっぱ嫌なんだよ。
俺達の事が良いとか悪いとか、そーゆー話じゃなくてさ。
ただ世話んなってる人達に、余計な迷惑かけたくねーんだよな。
……ああ、そっか。
父さんが昔から『家の名に恥じないよう』って繰り返し言ってたのも、結局同じで、支えてくれてる人たちの期待を裏切るなって事だったんだな……。
なんだよ……。
結局俺も、父さんと同じもんが大事だって事かよ……。
なせが妙に悔しい気持ちから目を逸らしつつ、俺はルスに念を押す。
「俺の親に話して、許してもらったとして、そんでめでたしめでたしって訳にはいかねーんだよ。分かるだろ?」
「むぅ……。それは……、そうだな……」
ルスが実直そうな太い眉を寄せて、眉間にくっきり皺を作っている。
ふう。ようやく分かってくれたか。
危ないとこだったな。
ルスはこんだけ真面目な癖に、こういう世間体だとか他からどう見られるかには疎いんだよなぁ。
……でも、その不器用なシンプルさはルスの強みでもある。
ただただ俺の気持ちを想ってくれたルスの真っ直ぐさに、俺はやっぱりどうしようもなく惹かれてしまう。
「ルスは読みが甘いんだよ」
綻ぶ口元で、くすぐったい気持ちのまま、俺は言う。
「ま、ルスのそーゆーとこ、俺は嫌いじゃねーけどな」
俺の笑顔につられてか、ルスも眉を八の字にしたまま苦笑する。
「……そうか。それなら良かったが……」
どこか気の抜けたような安堵顔をしていたルスが、俺を見てニヤリと口角を上げる。
なんだよ、そのちょっと悪い顔。
「俺も嫌いではないな。お前の、素直じゃない言葉が」
「……な、なんだよそれ……」
嫌いじゃないとか言わずに、ハッキリ好きだって言えって事か?
……っ、外で、んなこと言えるかよっ。
俺は赤くなりそうな顔を振って、そっぽを向く。
川沿いの景色はいつの間にか青々とした並木通りに変わって、俺達のアパートは間もなくだ。
けどまさか、ルスが俺のために父さんに立ち向かおうなんて言ってくれるとは思わなかったな。
だってさ、今のルスは片足しか力入んねーのにさ。
両足あっても倒せるかわかんねーような相手に喧嘩売ろうなんて、よく思えるよな。
俺のために、か……。
じわりと口端が上がりそうになってしまうのを、必死で堪える。
あー、ダメだ。すげえ嬉しい。
もう俺は本当に、十分なんだよ。ルス。
学生の頃は、いつかルスと一緒に暮らせたら、休みの日には二人で買い物に行って……一緒に飯食って……なんて、そんな夢ばかり何度も描いてた。
願っては諦めて、なのにまた願って……。
ルスに彼女ができて、もう、諦めなきゃって思って。
ルスが結婚して、もうこの夢はどうしたって叶わないんだって思い知らされても、それでも俺はぐしゃぐしゃになったこの夢を捨てられなくて、どうしようもないまま握り締めてた。
しかしマズイなこれは。ルスの目が据わってる。
ルスはこれ、本気で俺の家族に俺たちの事を認めさせようって思ってんな?
このままじゃ、城でルスが父さんとバッタリ顔合わせた日には爆弾発言が飛び出すぞ……?
俺はじわりと嫌な汗をかきながら口を開く。
「いや、だから待てって。確かに羨ましいと思ったけど、それとこれとは話が別なんだよ」
「別ではないだろう。俺はお前が周りには黙ってろというから黙っていただけで、俺自身はお前との事を隠したいと思った事はないぞ?」
「そーじゃなくてだな……」
ルスを宥めるような言葉とは裏腹に、俺は口元が緩んでしまいそうになる。
だって、俺のことそんな風に思ってくれてるなんて、嬉し過ぎるだろ。
「戦場では、より安全な道を選ぶお前が正しい。だが、人生では時に挑戦したっていいんじゃないか?」
ルスが、どうにも納得できないという顔をしている。
不服そうなルスも、なんか可愛いよな。
じゃなくて!
「だから、待てって。よーく考えてくれよ。俺たちは揃って国を守る騎士なんだよ。王様直属の騎士団には、それ相応の、守るべき規律とかイメージってもんがあんだろ?」
あー……なんで俺がこんな事言ってんだろーな。
若い頃は規律だとか責任だとか、そんなのどーでもいいような気がしてたのにな。
でもこうやって、俺たちをここまで見守って、導いてきてくれた人達がいてさ。
俺みたいな奴に命預けてついてきてくれた団員達がいてさ。
そんな俺らを、医務室とか鳥舎とか着場とかで支えてくれてる城の皆がいてさ。
そんな人達の気持ちを裏切るような事すんのは、やっぱ嫌なんだよ。
俺達の事が良いとか悪いとか、そーゆー話じゃなくてさ。
ただ世話んなってる人達に、余計な迷惑かけたくねーんだよな。
……ああ、そっか。
父さんが昔から『家の名に恥じないよう』って繰り返し言ってたのも、結局同じで、支えてくれてる人たちの期待を裏切るなって事だったんだな……。
なんだよ……。
結局俺も、父さんと同じもんが大事だって事かよ……。
なせが妙に悔しい気持ちから目を逸らしつつ、俺はルスに念を押す。
「俺の親に話して、許してもらったとして、そんでめでたしめでたしって訳にはいかねーんだよ。分かるだろ?」
「むぅ……。それは……、そうだな……」
ルスが実直そうな太い眉を寄せて、眉間にくっきり皺を作っている。
ふう。ようやく分かってくれたか。
危ないとこだったな。
ルスはこんだけ真面目な癖に、こういう世間体だとか他からどう見られるかには疎いんだよなぁ。
……でも、その不器用なシンプルさはルスの強みでもある。
ただただ俺の気持ちを想ってくれたルスの真っ直ぐさに、俺はやっぱりどうしようもなく惹かれてしまう。
「ルスは読みが甘いんだよ」
綻ぶ口元で、くすぐったい気持ちのまま、俺は言う。
「ま、ルスのそーゆーとこ、俺は嫌いじゃねーけどな」
俺の笑顔につられてか、ルスも眉を八の字にしたまま苦笑する。
「……そうか。それなら良かったが……」
どこか気の抜けたような安堵顔をしていたルスが、俺を見てニヤリと口角を上げる。
なんだよ、そのちょっと悪い顔。
「俺も嫌いではないな。お前の、素直じゃない言葉が」
「……な、なんだよそれ……」
嫌いじゃないとか言わずに、ハッキリ好きだって言えって事か?
……っ、外で、んなこと言えるかよっ。
俺は赤くなりそうな顔を振って、そっぽを向く。
川沿いの景色はいつの間にか青々とした並木通りに変わって、俺達のアパートは間もなくだ。
けどまさか、ルスが俺のために父さんに立ち向かおうなんて言ってくれるとは思わなかったな。
だってさ、今のルスは片足しか力入んねーのにさ。
両足あっても倒せるかわかんねーような相手に喧嘩売ろうなんて、よく思えるよな。
俺のために、か……。
じわりと口端が上がりそうになってしまうのを、必死で堪える。
あー、ダメだ。すげえ嬉しい。
もう俺は本当に、十分なんだよ。ルス。
学生の頃は、いつかルスと一緒に暮らせたら、休みの日には二人で買い物に行って……一緒に飯食って……なんて、そんな夢ばかり何度も描いてた。
願っては諦めて、なのにまた願って……。
ルスに彼女ができて、もう、諦めなきゃって思って。
ルスが結婚して、もうこの夢はどうしたって叶わないんだって思い知らされても、それでも俺はぐしゃぐしゃになったこの夢を捨てられなくて、どうしようもないまま握り締めてた。
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