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番外編・短編
#声を上げて泣けBL(Twitterのタグ企画)
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『#声を上げて泣けBL』(というタグ企画で最初の二行がテンプレートになっていました)
ギリル(俺)視点です。
---------------
「泣く時は声を上げて泣きなさい。そうじゃないと、誰にも気づいてもらえないよ」
そう言ったあのひとは、声を上げずに死んだ。
---------------
刃を向けた俺に微笑んで、冷たい切っ先を静かに受け入れて。
奥深くまで貫くと、彼は喜びに小さく震えた。
やがて力を失った彼の身体がゆっくりと傾いで、俺に触れる。
彼の柔らかな髪が俺の顔にかかると、懐かしい匂いが鼻先をくすぐった。
師範の匂い……久しぶりだ……。
俺が気持ちを告げてから、師範は俺に触れるのをずっと避けていたから。
久々に触れた師範の肌は、温かかった。
この世界でただ一人、俺を導いてくれた師範の熱は、まもなく永遠に失われる。
師範は、俺の背に震える両腕を回してきた。
ずっと昔、幼い俺を抱き締めてくれた時のように。
あの時震えていたのは、小さな俺だった。
師範が俺を拾ってくれたから、あの場所から救い出してくれたから。今の俺はあの頃よりずっと大きく、先生よりも大きくなった。
そして、先生よりもずっとずっと、強くなった。
俺は、師範を守るために。
この世の全てから師範を守るために、強くなった。
そのはずだったのに……。
「ありがとう」と耳元で小さく囁かれて、彼が本当に、この時を待ち望んでいたのだと思い知る。
「ありがとう。私の願いを叶えてくれて……」
どういたしまして、と言うことはできなかった。
師範の願いと、俺の願いは、どちらかしか叶わない。
……俺の願いは、もう一生叶わない。
ふっと師範の体から力が抜けて、俺は必死でその体を抱き締めた。
「師範……っ、師範っ!」
こんな終わりは望んでいなかった。
俺は、師範を幸せにしたかった。
師範に俺のそばで笑っていて欲しかった。
俺が声を上げて泣いても、もう、師範には届かない。
「師範っっっ!!!」
自分の大声に飛び起きれば、そこは宿の一室だった。
時間はもう朝に近いのか、窓の外は暗いが宿の中には他に起きているものの気配もなく、静まり返っている。
「…………ゆ、夢……?」
心臓が弾けそうで息すらままならない。
一気に噴き出す嫌な汗で、全身がじっとりと覆われてゆく。
夢……だったんだろうか。
あれが……?
あんな、リアルな…………。
師範の声も体温も、匂いまでもが間違いなく彼そのものだった。
俺は両手で顔を覆う。
隣を確認するのが、怖くてたまらない。
もし、この部屋が一人部屋だったら?
もし隣のベッドに誰も居なかったら……?
師範と一緒だと思っている俺の方が、夢を見ているのだとしたら……?
「……せん、せい…………」
涙と共に零した言葉に、眠そうな声がかかる。
「ギリル……?」
隣から、いつも通りの師範が眠そうな顔で俺を見上げる。
「どうしたんですか……? 怖い夢でも見たんで……」
「師範……っ!」
俺は、師範に抱きついていた。
「ギッ、ギリル!? 何を突然っっ!!」
俺をぐいぐい押し返そうとしていた師範が、不意に抵抗をやめる。
「……泣いて、いるんですか?」
師範の体は温かかった。
彼が生きていてくれる今を失わないように、彼の体に必死で縋り付く。
俺はまだ、師範を殺していなかった。
彼が生きている喜びと、失う事への恐怖で心が震える。
「……怖い……夢を……」
なんとかそれだけ伝えた俺の髪を、師範が優しく撫でる。
「そうですか……。それは災難でしたね……」
しばらくそのまま俺の髪を撫でていた師範は、泣き止みそうにない俺に、小さく息をついて言った。
「今日だけですよ」
そのまま、師範は俺に抱きつかれたまま目を閉じた。
そうか、夢だったんだ……。
現実では無かった。そう分かっても、まだ俺の心は恐怖に震えていた。
視界の端で、壁に立てかけたままの剣の柄がキラリと光る。
まるで、手に取れとでも言いたげに。
俺があの剣を向ければ、今見たばかりの夢はそのまま現実になると、俺には分かっていた。
あんな剣、今すぐ砕いてしまいたい。
けれど俺がそうすれば、きっと師範は別の勇者を探しに行ってしまうんだろう。
俺を、捨てて。
師範が他の奴の手にかかるなんて絶対に許せない。
けれど、それを防ぐ方法は俺が師範を殺せる状態でいる事以外、未だ見つからなかった。
どうしようもない現実に、俺の積み上げてきた力は、なんの役にも立たなかった。
俺は、今日だけ特別に許された師範の胸で声を殺して泣いた。
俺の大事なこの人の存在に、どうかこの世の誰も気付きませんように……。
ギリル(俺)視点です。
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「泣く時は声を上げて泣きなさい。そうじゃないと、誰にも気づいてもらえないよ」
そう言ったあのひとは、声を上げずに死んだ。
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刃を向けた俺に微笑んで、冷たい切っ先を静かに受け入れて。
奥深くまで貫くと、彼は喜びに小さく震えた。
やがて力を失った彼の身体がゆっくりと傾いで、俺に触れる。
彼の柔らかな髪が俺の顔にかかると、懐かしい匂いが鼻先をくすぐった。
師範の匂い……久しぶりだ……。
俺が気持ちを告げてから、師範は俺に触れるのをずっと避けていたから。
久々に触れた師範の肌は、温かかった。
この世界でただ一人、俺を導いてくれた師範の熱は、まもなく永遠に失われる。
師範は、俺の背に震える両腕を回してきた。
ずっと昔、幼い俺を抱き締めてくれた時のように。
あの時震えていたのは、小さな俺だった。
師範が俺を拾ってくれたから、あの場所から救い出してくれたから。今の俺はあの頃よりずっと大きく、先生よりも大きくなった。
そして、先生よりもずっとずっと、強くなった。
俺は、師範を守るために。
この世の全てから師範を守るために、強くなった。
そのはずだったのに……。
「ありがとう」と耳元で小さく囁かれて、彼が本当に、この時を待ち望んでいたのだと思い知る。
「ありがとう。私の願いを叶えてくれて……」
どういたしまして、と言うことはできなかった。
師範の願いと、俺の願いは、どちらかしか叶わない。
……俺の願いは、もう一生叶わない。
ふっと師範の体から力が抜けて、俺は必死でその体を抱き締めた。
「師範……っ、師範っ!」
こんな終わりは望んでいなかった。
俺は、師範を幸せにしたかった。
師範に俺のそばで笑っていて欲しかった。
俺が声を上げて泣いても、もう、師範には届かない。
「師範っっっ!!!」
自分の大声に飛び起きれば、そこは宿の一室だった。
時間はもう朝に近いのか、窓の外は暗いが宿の中には他に起きているものの気配もなく、静まり返っている。
「…………ゆ、夢……?」
心臓が弾けそうで息すらままならない。
一気に噴き出す嫌な汗で、全身がじっとりと覆われてゆく。
夢……だったんだろうか。
あれが……?
あんな、リアルな…………。
師範の声も体温も、匂いまでもが間違いなく彼そのものだった。
俺は両手で顔を覆う。
隣を確認するのが、怖くてたまらない。
もし、この部屋が一人部屋だったら?
もし隣のベッドに誰も居なかったら……?
師範と一緒だと思っている俺の方が、夢を見ているのだとしたら……?
「……せん、せい…………」
涙と共に零した言葉に、眠そうな声がかかる。
「ギリル……?」
隣から、いつも通りの師範が眠そうな顔で俺を見上げる。
「どうしたんですか……? 怖い夢でも見たんで……」
「師範……っ!」
俺は、師範に抱きついていた。
「ギッ、ギリル!? 何を突然っっ!!」
俺をぐいぐい押し返そうとしていた師範が、不意に抵抗をやめる。
「……泣いて、いるんですか?」
師範の体は温かかった。
彼が生きていてくれる今を失わないように、彼の体に必死で縋り付く。
俺はまだ、師範を殺していなかった。
彼が生きている喜びと、失う事への恐怖で心が震える。
「……怖い……夢を……」
なんとかそれだけ伝えた俺の髪を、師範が優しく撫でる。
「そうですか……。それは災難でしたね……」
しばらくそのまま俺の髪を撫でていた師範は、泣き止みそうにない俺に、小さく息をついて言った。
「今日だけですよ」
そのまま、師範は俺に抱きつかれたまま目を閉じた。
そうか、夢だったんだ……。
現実では無かった。そう分かっても、まだ俺の心は恐怖に震えていた。
視界の端で、壁に立てかけたままの剣の柄がキラリと光る。
まるで、手に取れとでも言いたげに。
俺があの剣を向ければ、今見たばかりの夢はそのまま現実になると、俺には分かっていた。
あんな剣、今すぐ砕いてしまいたい。
けれど俺がそうすれば、きっと師範は別の勇者を探しに行ってしまうんだろう。
俺を、捨てて。
師範が他の奴の手にかかるなんて絶対に許せない。
けれど、それを防ぐ方法は俺が師範を殺せる状態でいる事以外、未だ見つからなかった。
どうしようもない現実に、俺の積み上げてきた力は、なんの役にも立たなかった。
俺は、今日だけ特別に許された師範の胸で声を殺して泣いた。
俺の大事なこの人の存在に、どうかこの世の誰も気付きませんように……。
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