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旅の再開(私)
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翌日、私達四人は揃って旅立ちました。
あんなことを告げれば、もう四人で旅をする事もないと思っていただけに、私はなんだか不思議な気分でした。
昼食を終えてしばらく歩いた頃、ティルダムさんがポツリと呟きました。
「雨が、降る」
見上げれば、朝はスッキリ晴れていた空がどんよりと雲に覆われていました。
「あらぁ、困るわぁ。この後? すぐ来そう?」
「もう少し」
「じゃあちょっとペース上げるわよぅ」
小走りなるウィムさんの後ろを私も追いかけます。
近頃は少し走ると息が上がるようになってきたのですが、もしかして不老不死のように思えるこの身体にも、終わりは訪れるのでしょうか。
だとしても、それはまだまだ先なのでしょうけれど……。
「確かこの先に廃教会があったと思うのよねぇ。まだ残ってるかしら」
皆さんから少し遅れ気味の私に気付いてか、先を行くギリルが振り返りました。
「師範、大丈夫か?」
「は、はい」
「辛くなったら俺がおぶるから、いつでも言ってくれよ」
「!?」
お、おぶるって、私をですか!?
ギリルが!?
「いっ、いいえ! 大丈夫です!」
慌てて断れば、ギリルはどこか残念そうに「そっか。助けが必要な時はいつでも言ってくれ」と伝えて前を向きました。
確かにもう私よりギリルの方が大きいですし、時に抱えられることもありますが、まさか、こんな街道でおんぶを提案されるなんて……。
ふっと彼の温かい腕の中を、彼の胸に抱かれた時の温度を思い出してしまって、私は慌てて首を振りました。
わ、私は一体何を思い出してるんですか!!
走りながら力一杯頭を振ったからでしょうか。不意に私の身体はぐらりと均衡を崩しました。
せめて手を出そうと思うのですが、身体が思うように動いてくれません。
私は四人の最後尾でしたので、このまま誰にも気付かれることなく倒れるのでしょう。
仕方ありませんね。痛いのは一瞬で、すぐ治るのですから……。
諦め切った私の身体が地面に叩き付けられる、その一瞬前に、私はぐいと引き上げられました。
「あっっぶねーー! 師範、大丈夫か!?」
次の瞬間、私を鮮やかな新緑の瞳が覗き込んでいました。
「は、はい。ありがとうございます……」
バクバクと心臓が鳴っています。
ギリルは私の肩を心配そうに撫でると「やっぱ俺がおぶろうか」と提案してきます。
ギリルの心配そうな眼差しが私だけに注がれていると思うと、私の胸はさらに苦しくなりました。
「い、いえいえっっ、もうこんなことのないよう、十分気をつけますっ」
こんな状態でおぶられては、心臓がいくつあっても足りません。
私はギリルの申し出を丁重にお断りしました。
前を行くウィムさんとティルダムさんも気付いたようで立ち止まります。
「あらぁ? 二人とも大丈夫ぅ?」
「ああ、問題ない」
ギリルが二人に振り返って答えます。
ぽつり。と雨粒が降ってきたのはその時でした。
ひとつふたつと降り始めた雨粒は、見る間に視界を覆い尽くしました。
「やぁだ、降ってきちゃったわぁ」
手を頭の上に翳すウィムさんの上に、ティルダムさんが大きなマントで雨よけを作ります。
そんな微笑ましい様子を、温かく見守ることができない自分に嫌気がさします。
大切にされる誰かに、どうしようもなく羨ましさを感じてしまう浅ましい心……、どれだけ時が経っても達観できない自分に、私はやはり、一日でも早く死にたいと願ってしまうのです。
……ああ、結局、私が死にたいと願う理由なんてこれ一つなのでしょうね。
償いでも、人のためでも、世界のためでもなんでもなく、ただ私が……。
ふっとギリルの気配が近づいて、私の頭上で何かが雨を遮りました。
「師範、ゆっくりでいい。俺も一緒に行くから」
ギリルは国王様から賜った王家の紋章入りのマントを惜しげもなく私にかざしていました。
「そっ、それは濡らしてはいけません、水に弱い染料が溶け出してしまいますっ」
焦る私と対照的に、落ち着き払ったギリルはぶっきらぼうに半眼で答えました。
「いーんだよこんなの、ただの重い布だろ」
「そういうわけにはいきませんっ、代えのきかない品なんですから……」
「こんなのより、師範が風邪ひかないことの方が、俺には大事だ」
「……っ」
ギリルにそうハッキリ言われてしまうと、私には次の言葉が見つかりませんでした。
胸の奥がじんわり温かくて。
嬉しいなんて、思ってしまう事すら……おこがましいと分かっているのに……。
「……わ、……私は……、風邪なんて、ひきませんから……」
「分かってる。けど師範を雨に濡らしたくねーんだよ」
ギリルはそのまま、私の歩幅に合わせて教会までずっと隣を歩いてくれました。
あんなことを告げれば、もう四人で旅をする事もないと思っていただけに、私はなんだか不思議な気分でした。
昼食を終えてしばらく歩いた頃、ティルダムさんがポツリと呟きました。
「雨が、降る」
見上げれば、朝はスッキリ晴れていた空がどんよりと雲に覆われていました。
「あらぁ、困るわぁ。この後? すぐ来そう?」
「もう少し」
「じゃあちょっとペース上げるわよぅ」
小走りなるウィムさんの後ろを私も追いかけます。
近頃は少し走ると息が上がるようになってきたのですが、もしかして不老不死のように思えるこの身体にも、終わりは訪れるのでしょうか。
だとしても、それはまだまだ先なのでしょうけれど……。
「確かこの先に廃教会があったと思うのよねぇ。まだ残ってるかしら」
皆さんから少し遅れ気味の私に気付いてか、先を行くギリルが振り返りました。
「師範、大丈夫か?」
「は、はい」
「辛くなったら俺がおぶるから、いつでも言ってくれよ」
「!?」
お、おぶるって、私をですか!?
ギリルが!?
「いっ、いいえ! 大丈夫です!」
慌てて断れば、ギリルはどこか残念そうに「そっか。助けが必要な時はいつでも言ってくれ」と伝えて前を向きました。
確かにもう私よりギリルの方が大きいですし、時に抱えられることもありますが、まさか、こんな街道でおんぶを提案されるなんて……。
ふっと彼の温かい腕の中を、彼の胸に抱かれた時の温度を思い出してしまって、私は慌てて首を振りました。
わ、私は一体何を思い出してるんですか!!
走りながら力一杯頭を振ったからでしょうか。不意に私の身体はぐらりと均衡を崩しました。
せめて手を出そうと思うのですが、身体が思うように動いてくれません。
私は四人の最後尾でしたので、このまま誰にも気付かれることなく倒れるのでしょう。
仕方ありませんね。痛いのは一瞬で、すぐ治るのですから……。
諦め切った私の身体が地面に叩き付けられる、その一瞬前に、私はぐいと引き上げられました。
「あっっぶねーー! 師範、大丈夫か!?」
次の瞬間、私を鮮やかな新緑の瞳が覗き込んでいました。
「は、はい。ありがとうございます……」
バクバクと心臓が鳴っています。
ギリルは私の肩を心配そうに撫でると「やっぱ俺がおぶろうか」と提案してきます。
ギリルの心配そうな眼差しが私だけに注がれていると思うと、私の胸はさらに苦しくなりました。
「い、いえいえっっ、もうこんなことのないよう、十分気をつけますっ」
こんな状態でおぶられては、心臓がいくつあっても足りません。
私はギリルの申し出を丁重にお断りしました。
前を行くウィムさんとティルダムさんも気付いたようで立ち止まります。
「あらぁ? 二人とも大丈夫ぅ?」
「ああ、問題ない」
ギリルが二人に振り返って答えます。
ぽつり。と雨粒が降ってきたのはその時でした。
ひとつふたつと降り始めた雨粒は、見る間に視界を覆い尽くしました。
「やぁだ、降ってきちゃったわぁ」
手を頭の上に翳すウィムさんの上に、ティルダムさんが大きなマントで雨よけを作ります。
そんな微笑ましい様子を、温かく見守ることができない自分に嫌気がさします。
大切にされる誰かに、どうしようもなく羨ましさを感じてしまう浅ましい心……、どれだけ時が経っても達観できない自分に、私はやはり、一日でも早く死にたいと願ってしまうのです。
……ああ、結局、私が死にたいと願う理由なんてこれ一つなのでしょうね。
償いでも、人のためでも、世界のためでもなんでもなく、ただ私が……。
ふっとギリルの気配が近づいて、私の頭上で何かが雨を遮りました。
「師範、ゆっくりでいい。俺も一緒に行くから」
ギリルは国王様から賜った王家の紋章入りのマントを惜しげもなく私にかざしていました。
「そっ、それは濡らしてはいけません、水に弱い染料が溶け出してしまいますっ」
焦る私と対照的に、落ち着き払ったギリルはぶっきらぼうに半眼で答えました。
「いーんだよこんなの、ただの重い布だろ」
「そういうわけにはいきませんっ、代えのきかない品なんですから……」
「こんなのより、師範が風邪ひかないことの方が、俺には大事だ」
「……っ」
ギリルにそうハッキリ言われてしまうと、私には次の言葉が見つかりませんでした。
胸の奥がじんわり温かくて。
嬉しいなんて、思ってしまう事すら……おこがましいと分かっているのに……。
「……わ、……私は……、風邪なんて、ひきませんから……」
「分かってる。けど師範を雨に濡らしたくねーんだよ」
ギリルはそのまま、私の歩幅に合わせて教会までずっと隣を歩いてくれました。
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