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私の幸せ(私)
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ああ、ギリルの声が聞こえます。
日差しが明るいですね。今は何時でしょうか。
こんなにぐっすり眠ったのは、久しぶりですね。
近頃は眠りが浅くて、夜中に目が覚めてしまうことも多かったのに……。
私は今日の予定を思い出すため記憶を辿ろうとしたのですが、不意に蘇ったのはギリルの熱を孕んだ囁きでした。
「ひゃぁぁぁぁ……」
思わず頭を抱えて毛布に潜り込みます。
「師範っ!?」
「目が覚めたのねぇ? よかったわぁぁぁっ」
「大丈夫……?」
ウィムさんとティルダムさんも近くにいらしたのか、声は三つ重なるようにして聞こえました。
「アタシたちは出とくから、何かあったらすぐ声かけてねぇ?」
「分かった」
ごそごそと布が擦れる音がして、そういえば昨夜は宿ではなく、テントだった事を思い出します。
「師範……? どこか、痛いとこはないか?」
私のすぐ近くにギリルの気配がして、私は毛布からようやく顔を出しました。
なんだか開きにくい目を無理矢理開くと、テント越しに陽を浴びてキラキラ輝く赤い髪と、新緑の瞳が私を心配そうに見つめていました。
「ギリル……」
ギリルがそばにいてくれる事が、なんだかとても嬉しくて、私は思わずギリルに手を伸ばしました。
毛布がはらりと腕から落ちると、腕にひやりと風があたります。
ああ、私は服を着てなかったんですね。
「大丈夫か? 喉乾いてないか?」
ギリルがやたらと心配してくれるので、私は思わず笑ってしまいました。
「ふふ、大丈夫ですよ」
「良かった……」
ギリルの瞳に、うっすらと涙が滲みました。
そんな、ほんの一度の行為で、ここまで心配してくれるなんて。
うっかり昼まで寝てしまったからでしょうか。
「師範あれから七日も起きないから、俺、心配でさ……」
「…………ぇ?」
***
ギリルの話によると、私はあれからずっと眠っていたそうです。
「そうなのよぅ、アタシもあれから彼らのとこに話を聞きに行ったりしてねぇ。でも向こうは十日も目を覚さなかったって言うんだから、師範はそれより早かったわけよねぇ」
ウィムさんはそう言いながら、私の手首を取ったり、首に手を当てたりして健康状態を確かめています。
それをギリルが不愉快そうに眺める様に、私は苦笑しました。
「あの方は私よりもずっと長く生きてらっしゃるので……私よりも時間がかかったのでしょうね」
しかしその、なんというか。これではまるで、あの方に事後報告をしてしまったようで少し居心地は悪い気がしますが。どちらにせよ私の気配が途切れた事は、あの方にも伝わったのかも知れませんね。
「ここのとこずっとここでテント生活だったからぁ、ひとまず町に出て、広いベッドで手足を伸ばして寝たいとこなんだけどねぇ。師範は歩けそうかしら?」
問われて、試しに立ち上がってみようとしたのですが、驚くほど膝に力が入りません。
「あらぁ、難しそうねぇ……」
「俺がおぶってくよ」
「ちょっとの距離ならそれでもいいけどねぇ。町までとなると結構あるわよぅ? それに、師範自身が長い移動は疲れちゃうでしょうからねぇ」
「すみません……」
私が謝ると、ウィムさんはにっこり笑って言いました。
「いいのよぅ。師範も……本当によく頑張ったわねぇ」
ああ、これが聖職者というものなのでしょうか。
私は突然に、まるで、今までの生の全てを許されたような気がしました。
「師範っ!?」
急に泣き出してしまった私を、ギリルが慌てて抱き寄せます。
「ぁ、ご、ごめんなさい……」
「うふふ。いいのよいいのよぅ。しばらく二人でゆっくりしててねぇ。アタシは師範が食べられそうなものを用意してくるわぁ」
ウィムさんはそう言って、にこにこしながら出て行きました。
ギリルが、いつものように私の涙を拭ってくれています。
私の背をゆっくり撫でてくれる大きな手……。
いつの間に、この子は私よりもこんなに大きくなったのでしょうか。
「ギリル……」
その名を呼んで、彼の胸に身を預けます。
「師範……、大丈夫か? 俺にできることがあったら、何でも言ってくれ」
その健気な姿に、私は小さく笑って答えました。
「大丈夫ですよ。貴方がこうしていてくれれば……」
ギリルの腕の中は、この世で一番安心できる、私だけの場所のように思えました。
心が安らいで、満ち足りていて……。ポカポカと温かいのに、どこかドキドキしてしまいます。
「もしかしたら……」
「ん?」
おや、心の声が、うっかり漏れてしまったようです。
聞き返されて、私は苦笑しつつ続けました。
「もしかしたら、私は今、幸せなのかもしれません」
「せ、師範っ!!」
ぎゅっとギリルの両腕に力が入って、私は息苦しくなりました。
「っ、ギリルっ、苦しいですっ」
「あ。ごめん……」
「全く。気をつけてくださいね。私はもう、簡単に死んでしまう人なのですから」
自分で言った言葉になんだか少し驚いて、私は笑ってしまいました。
すると、ギリルも笑いました。とてもとても、幸せそうに。
「俺も今……、すげー幸せだ」
私の幸せは、彼の幸せそのものでした。
日差しが明るいですね。今は何時でしょうか。
こんなにぐっすり眠ったのは、久しぶりですね。
近頃は眠りが浅くて、夜中に目が覚めてしまうことも多かったのに……。
私は今日の予定を思い出すため記憶を辿ろうとしたのですが、不意に蘇ったのはギリルの熱を孕んだ囁きでした。
「ひゃぁぁぁぁ……」
思わず頭を抱えて毛布に潜り込みます。
「師範っ!?」
「目が覚めたのねぇ? よかったわぁぁぁっ」
「大丈夫……?」
ウィムさんとティルダムさんも近くにいらしたのか、声は三つ重なるようにして聞こえました。
「アタシたちは出とくから、何かあったらすぐ声かけてねぇ?」
「分かった」
ごそごそと布が擦れる音がして、そういえば昨夜は宿ではなく、テントだった事を思い出します。
「師範……? どこか、痛いとこはないか?」
私のすぐ近くにギリルの気配がして、私は毛布からようやく顔を出しました。
なんだか開きにくい目を無理矢理開くと、テント越しに陽を浴びてキラキラ輝く赤い髪と、新緑の瞳が私を心配そうに見つめていました。
「ギリル……」
ギリルがそばにいてくれる事が、なんだかとても嬉しくて、私は思わずギリルに手を伸ばしました。
毛布がはらりと腕から落ちると、腕にひやりと風があたります。
ああ、私は服を着てなかったんですね。
「大丈夫か? 喉乾いてないか?」
ギリルがやたらと心配してくれるので、私は思わず笑ってしまいました。
「ふふ、大丈夫ですよ」
「良かった……」
ギリルの瞳に、うっすらと涙が滲みました。
そんな、ほんの一度の行為で、ここまで心配してくれるなんて。
うっかり昼まで寝てしまったからでしょうか。
「師範あれから七日も起きないから、俺、心配でさ……」
「…………ぇ?」
***
ギリルの話によると、私はあれからずっと眠っていたそうです。
「そうなのよぅ、アタシもあれから彼らのとこに話を聞きに行ったりしてねぇ。でも向こうは十日も目を覚さなかったって言うんだから、師範はそれより早かったわけよねぇ」
ウィムさんはそう言いながら、私の手首を取ったり、首に手を当てたりして健康状態を確かめています。
それをギリルが不愉快そうに眺める様に、私は苦笑しました。
「あの方は私よりもずっと長く生きてらっしゃるので……私よりも時間がかかったのでしょうね」
しかしその、なんというか。これではまるで、あの方に事後報告をしてしまったようで少し居心地は悪い気がしますが。どちらにせよ私の気配が途切れた事は、あの方にも伝わったのかも知れませんね。
「ここのとこずっとここでテント生活だったからぁ、ひとまず町に出て、広いベッドで手足を伸ばして寝たいとこなんだけどねぇ。師範は歩けそうかしら?」
問われて、試しに立ち上がってみようとしたのですが、驚くほど膝に力が入りません。
「あらぁ、難しそうねぇ……」
「俺がおぶってくよ」
「ちょっとの距離ならそれでもいいけどねぇ。町までとなると結構あるわよぅ? それに、師範自身が長い移動は疲れちゃうでしょうからねぇ」
「すみません……」
私が謝ると、ウィムさんはにっこり笑って言いました。
「いいのよぅ。師範も……本当によく頑張ったわねぇ」
ああ、これが聖職者というものなのでしょうか。
私は突然に、まるで、今までの生の全てを許されたような気がしました。
「師範っ!?」
急に泣き出してしまった私を、ギリルが慌てて抱き寄せます。
「ぁ、ご、ごめんなさい……」
「うふふ。いいのよいいのよぅ。しばらく二人でゆっくりしててねぇ。アタシは師範が食べられそうなものを用意してくるわぁ」
ウィムさんはそう言って、にこにこしながら出て行きました。
ギリルが、いつものように私の涙を拭ってくれています。
私の背をゆっくり撫でてくれる大きな手……。
いつの間に、この子は私よりもこんなに大きくなったのでしょうか。
「ギリル……」
その名を呼んで、彼の胸に身を預けます。
「師範……、大丈夫か? 俺にできることがあったら、何でも言ってくれ」
その健気な姿に、私は小さく笑って答えました。
「大丈夫ですよ。貴方がこうしていてくれれば……」
ギリルの腕の中は、この世で一番安心できる、私だけの場所のように思えました。
心が安らいで、満ち足りていて……。ポカポカと温かいのに、どこかドキドキしてしまいます。
「もしかしたら……」
「ん?」
おや、心の声が、うっかり漏れてしまったようです。
聞き返されて、私は苦笑しつつ続けました。
「もしかしたら、私は今、幸せなのかもしれません」
「せ、師範っ!!」
ぎゅっとギリルの両腕に力が入って、私は息苦しくなりました。
「っ、ギリルっ、苦しいですっ」
「あ。ごめん……」
「全く。気をつけてくださいね。私はもう、簡単に死んでしまう人なのですから」
自分で言った言葉になんだか少し驚いて、私は笑ってしまいました。
すると、ギリルも笑いました。とてもとても、幸せそうに。
「俺も今……、すげー幸せだ」
私の幸せは、彼の幸せそのものでした。
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