教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第2章 風の大龍穴編

26 真の紋章

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 オアシスでのひと時も終わって、今から出発するところなんだけど、出発前にルシアから僕に説明があるそうだ。

『今からオアシスを出発して風の大龍穴に向かう。出発する前にお主にいくつか説明をしておこう』
「お願いします」

『まずこれからは常に障壁魔法を使ってもらう』
「障壁魔法?」
『障壁魔法とは対象物を障壁で守る魔法だ。この魔法で自分を守ることを常態化してもらう。
 イメージとしては自分に薄い膜を張る感覚で魔力を放出することだ。厚い膜にすれば強度は上がるがその分多くの魔力を消費する。
 大気中からマナを取り込み、魔力として貯蔵する量を超えないように魔力を薄く放出するのだ。そうすれば永続的に障壁を張れるようになる。
「分かった。やってみるよ……ん~。薄い膜か。こんな感じでどうかな」
『うむ。良い感じでできておるな。そうしたら物理攻撃と魔法攻撃から身を守ることを意識してマルチバリアと唱えよ』
「物理攻撃に、魔法攻撃か……よし。マルチバリア!」

 障壁魔法を使ってみると、僕の身体に膜のようなものが張ったのを感じることができた。

『魔法は上手くいったようだな。放出する魔力をもう少し多くしても良さそうだが、まあいいだろう』
「なんか薄い膜に包まれてて不思議な感覚だけど、全く邪魔にはならないね」
『この魔法を使っておれば、重さのない鎧を着ているようなものだからな。まだお主のレベルでは上質な革の鎧といったところか。ただし普通の鎧にはない魔法を防ぐ効果もあるところが優れているところだ。この魔法を使えておれば簡単に憑依されることもなかったのだぞ』
「ああ! そういえば前に憑依魔法を防ぐ方法があるって言ってたね」
『そうだ。障壁魔法は便利な魔法なのだ。この障壁を四六時中、起きているときも寝ているときも張れるようになるのだ』
「寝てるときも!? それは難しそうだけど……頑張ってみるよ」
『呼吸と同じだ。難しく考えずに慣れることだな』

『それともう一つが伝えておきたかった重要な話だ』

 ルシアの雰囲気が少し変わる。

『まず我のバッグは魔道具ではない、ただのお洒落なバッグだ』
「それならサンドイッチや冷たいコーヒーが出てくるのはおかしいと思うんだけど? それにさ、デザートウルフの素材を回収してくれたけど、どう考えてもそのバッグに入る量じゃないよね? 僕は魔道具に詳しくはないけど、普通のバッグというのはおかしくない?」
『ふむ。そうだな。お主に魔道具というものをきちんと理解するために説明をしておくとしよう。
 魔道具とは魔石により様々な効果を付与された道具のことを指す。その中には物を冷やすものもあるし、見た目よりも多くのものが入る収納魔法が付与されたバッグなどもある。収納魔法が付与された魔道具はものすごく高価だがな』
「物を冷やす、見た目より多くのものが入るって正しくルシアのバッグじゃない?」
『この世界の魔道具にはそういうバッグもあるかも知れないが、我のバッグはただのお洒落なバッグだ』
「……お洒落にこだわるんだね」
『我は食事にもこだわるが、身に付けるものにもこだわるのだ。このバッグは老練の職人が作ったこだわりの一品だ。
 まあそれはよい。我が説明したいことは冷たいものを出したり、多くのものを入れることを可能としているのはバッグではなく魔法だ』
「魔法? 収納魔法を使ってるの?」
『たしかに収納魔法のような使い方をしているが全く違う魔法だ。名前を”時空間魔法”という』
「時空間魔法? そんな魔法の名前初めて聞いたけど」
『それはそうであろう。時空間魔法は限られた者しか使えぬ魔法。人間界や龍族の世界などあらゆる世界を含めても使えるものは数人しかおらん」
「何それ! とんでもない魔法じゃない! いったいどんな魔法なの?」
『色んな使い方はあるのだが、バッグの話でいえば別次元の空間とつなげる使い方をしておる。その次元の空間は時間が止まっているから、冷たいものを入れたら出すときも冷たいままだし、空間の広さは巨大であるからデザートウルフの素材ぐらいいくらでも入る」
「そんなすごい魔法があるんだね……」
「時空間魔法の真価はそんなものではないがな。それでだ、レアンデルよ。お主の真の紋章を解放する」
「真の紋章って火龍様が火の紋章で抑制してくれたやつのこと?」
『そうだ。お主が制御できないまま魔力を集め、その魔力が放出されてしまうと周囲に被害を及ぼす可能性が高いため封印されておるのだ。
 しかし今のお主であれば魔力の制御に問題はない。真の紋章を解放しコントロールしていくのがこの修行の旅の本当の狙い。早いうちに慣れていった方がよいから今から解放するぞ』
「分かったけど……大丈夫なんだよね?」
『大丈夫だ。安心しろ。新しい魔法が使えるようになるだけだ。魔力の操作ができるようになったお主なら何の心配もない。それではいくぞ。両手を前に出せ』

 そういうとルシアの両手に膨大な魔力が集まっている。その両手で僕の両手を掴んだ。ルシアの魔力が僕の身体を駆け巡っていく。僕の身体がぼんやりと光っているぞ。ルシアの魔力が僕の身体の中を満たして、またルシアに戻って行くのが分かる。しばらくするとルシアが手をはなした。

『レアンデル、左手を見てみるのだ』
「左手に見たことのない模様の紋章が浮かんできてる! 小さい火の紋章もそのまま残ってるね」
『その紋章がお主の真の紋章である”空の紋章”だ。そして空の紋章を持つものこそ、時空間魔法を使えるもの。我と同じというわけだ』

 そういうとルシアが左手の甲を見せてくれた。本当だ! 同じ模様の紋章がくっきりと浮かんでいる。

『空の紋章は目立つから我は普段は幻術魔法で隠しておる。お主も幻術魔法を使いこなせるようになれば同じようにすればよいが、今は障壁魔法を使いこなすことを優先せよ。このお洒落な手袋をやるから当面はこれを左手にはめておけ』
「分かった」
『早速だが時空間魔法を教える。別次元の空間とつなげる魔法だ。つまり我と同じように何でも収納できる空間を使えるようになる。
 ただし生きたものは駄目だ。理論的には可能だが、それを行うためにはとてつもない魔力量が必要となるため事実上不可能ということだ。龍族最大の魔力量を誇る我でもできないのだからな。
 時空間魔法は消費する魔力量が大きい。それに時空間魔法を操る上で一番難しいところは座標を決めることなのだが、空の紋章が座標の指定は補助してくれる。とはいえ、いきなり使うのは難しいからな。これを使え』

 ルシアが僕にシンプルなシルバーリングみたいな指輪を渡してきた。

『それを右手にはめてみよ。座標の指定を補助する魔道具だ。我が使っている空間と同じ次元の座標が指定してある。それを使って感覚をつかめ』

 僕は早速、右手の中指に指輪をはめて魔力を集中してみた。

『もっと魔力を集中せよ。そして目の前にポケットがあると想像して手を突っ込んでみよ』

 ポケットに手を入れる感じか……うおっ! 右手の先が空間の中に消えたぞ。その空間に何があるのか頭に浮かんでくる。大量の水や食料が入ってる。とりあえず右手を抜こう。

『ふむ。上手くできたみたいだな。そこは我が収納に使っている空間の隣の空間といったところだ。お主が使えるように水や食料をプレゼントとして入れておいた。それは好きに使え』
「ありがとう! だから旅の準備は武器だけでよかったんだね」
『荷物をたくさん持ち運ぶのは大変だからな。分かったと思うが、この時空間魔法を使うと使ってる間の手が見えなくなってしまう。周りの者から奇妙に思われてしまうのを防ぐためにバッグをつかうのだ。あくまでもバッグから取り出したように見せるとよかろう』
「確かにそうだね。突然手が消えたらビックリするもんね」
『時空間魔法を使いこなすことがお主の修行の一番の目的だ。しっかりと習得せよ。極めれば転移もできるようになるぞ』
「なるほど。転移は時空間魔法だったんだね! 誰にでもできるものじゃないって火龍様も言ってたもんね。分かったよ! 絶対に極めてみせるよ!」
『フハハッ! その意気だ! 簡単なことではないが前向きな姿勢が大事だからな。あらゆる魔法の基本は魔力の操作だ。常に意識しながら操作の精度を高めていくように励めよ』

 僕は自分の紋章のことや、障壁魔法、時空間魔法のことなどたくさんのことを聞いて、ものすごく気持ちが高ぶっていた。
 今まで魔法が使えなくて悩むことはあったけど、出来ることが多いことに悩めるなんて贅沢すぎる。
 僕はこの旅に来て良かったと改めて実感していた。
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