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第十二話

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「痛てて……」
「……ここは……」
「無事、火山から脱出完了って所だな。ていうかはよどけ」
「あ、ど、どうも……」

俺がユズリアを抱きかかえて飛び降りてクッション代わりになった。めちゃくちゃ痛かったのでしばらく気絶してたがマグマはこちらに垂れてこなかった様だ。良かった良かった……一先ず、今は自分の無事を安堵しよう。にしたってシグル君よぉ、一人で帰ったかマグマに呑み込まれたのか知らんがせめて声くらい伝えてくりゃいいのに。

「……命が助かって嬉しいのですが、あの魔法みたいな攻撃なんですか?」
「あ?魔法だよ」
「は?」
「あ?」

なんかキレられた。理不尽としか言いようがないがユズリアは納得しないご様子。何故だろうか……あ、もしかして詠唱が厨二過ぎて痛い?それは申し訳ないね、男の子のロマンって奴なんだ、あと実際に魔剣グラムは先代から次代に譲られたものである。シグムント……シグルドの父に当たる人物が魔剣グラムを持ち、ある事で命運を尽くしてしまうが、シグムントは亡くなる前にとある人物に「その剣から新たな剣が生まれるだろう」と言い残してこの世を去った。そしてシグルドはファフニールを打ち倒す為にいい剣を探している所、父親の剣の情報を見つけてグラムを打ち直し、ファフニールを打ち倒す事に成功する。以降は彼の愛剣になり、彼を支え続けた……というのが魔剣グラムの伝説である。何故末代までと言ったのか?簡単である、魔剣グラムを使う事は担い手が変わってしまうという事にもなるからだ。だから勝手に俺がグラムの後継者っぽくなってます。イメージが湧いてた方がいいよね!

「いやな、あれは魔法だぞ?お前も見てただろ、あの龍の幻影を」
「見てましたよ!けど、あれは魔法じゃありません!使用したであろう魔力も感じませんし、周囲に残った魔素も感じられませんし……」
「は?え、本当に?」
「本当じゃなかったらこんな質問してないんですが?」

……え、これもしかしてマジ?そんな馬鹿な事あるか、俺の魔法(仮)は何なんだ……?

「……というか、あれ影とか闇じゃないんですけど」
「あっ」

いっその事殺してくれ、と言いたいがね。という事で、街へ帰りながらユズリアの話を聞くことになりました。

「いいですか?魔法というのは本来、魔力を元に特定の魔法形式を使用してそこから自分の思う形に仕上げてから魔法を放ちます。詠唱式なら詠唱して、魔法陣型なら魔法陣を構築して、付与式なら魔法文字を付与するんですよ」
「なるほど、で俺がやったのは詠唱式だが……」
「私も最初見た時はそうだと思いましたよ?けど、魔力や魔素が残っていない点から怪しいと思います。どちらかといえば……あの後何かありました?」
「なんか精神がどっと疲れたな……今も少し頭が痛い」
「多分それですね。精神力とかでもすり減らしました?」
「……いや、合ってるかもしれん。イメージを強く持ってたからか?」
「イメージは限度を超えると体から生命力とかも抜かれますからね?まぁ、精神力で済んだのなら安いものですよ」

確かに言う通りである。もし発動に命を賭けて外して死亡、なんて末代に語られる事には出来ないくらいの赤っ恥だ。そんな事後世に伝わったらマジで死ぬ、というか死んでしまう。そうだ、色々と聞くものがあるな。俺が知っている強化術式と構築術式だ。

「なぁ、俺のスキルにある「魔法構式」ってスキルにある「強化術式」と「構築術式」ってなんだ?」
「え……何ですかそれ?」
「おい!?知らないのかよ!?」
「え、いや、聞いた事ないんですけど……そもそも私は魔人の方に教えてもらった魔法の使い方を覚えてるだけなんで、普通の魔法の使い方は知りません。ただ、基本的なやり方は魔人と人間は合っているのでよく分からないですね」
「なるほどねぇ……」
「取り敢えず、ちゃんと私が教えますから。今回の命が無事だったお礼です」
「お、そりゃ有難いな」

やったぜ、これで魔法が使える……のはいいんだが結局あの魔剣グラムの時に使ったやり方はなんなんだろうか。精神力を使用して攻撃を具現化する……え、ス○ンドか何かなの?それならいつかラッシュが出来るようになるかもしれないと憧れるゥ!…………やめておこう、そろそろ怒られてしまうよ。いや誰に?

「話続けますね?魔力の感知方法は簡単です、まず魔力は普通に出ている訳ではないんです。特定の方法で体から排出させてやっと視認が可能、と言ったところですね。」
「ほー、普通じゃ見えんのか」
「そうですね、普通なら……ただ私の様な特定の魔眼持ちなら排出されてなくても見えます。確か文献にあった「看破の魔眼」なんですが、見るだけで相手の事を知れるみたいです。それが文章の様に頭に流れてきて、鑑定スキルでは分からない相手の記憶とかも……ってところですね。私は看破の魔眼持ちを殺そうとしてますけど」
「なんでだよ?」
「看破の魔眼を持っている者は歴史上犯罪者になっているんですよ。だから私が殺すべき存在です」
「……なるほどねぇ」

看破の魔眼か。まぁいつか相手するって考えておけば大丈夫かな……それよりも、俺の魔眼を使ったらこいつに殺されそうな気がする。死滅の魔眼だぞ?人一人簡単に殺せる魔眼を持っているのは危険過ぎる。
…まぁ、信用されているから大丈夫だと思われているのなら嬉しいけどね。

「あ、着きましたよ」
「お、やっとか。にしても結局シグル何処行ったのやら…」
「さぁ?でも死んだ訳じゃ「二人共!生きてたのかァ!?」…ホラ」
「悪ぃ!自己判断で俺一人だけ転移しちまった!他の冒険者に救援要請を頼んだが、全然…でも生きてて良かった!」


門内から飛び出てスライディング土下座を決め込んだシグルにうわぁ…と思いつつ、生きていた事と火竜の涙宝が無事なのを安堵した。
これであの地獄に行かなくて済む。まぁ、とんでもない奴倒したけどさ……火山より上の空中戦だったら普通に負けていた可能性があるからね。早すぎて俺のステータスじゃ不利すぎる。



「一先ず、中に入って落ち着こうぜ」



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火竜の涙宝の無事と俺達の生存で涙目ながらも喜んでくれたシグルは、今回の負い目を反省し俺達に無償かつ、次のメンテも無料にするという契約で俺達に武具を作ってくれた。すぐにとまではいかないが、出来のいいものを作るという事である。その間にユズリアに魔法を教えてもらうことになった。もちろん、シグルの鍛冶場の近くで。

「では、魔力から出してみましょうか」
「おう、やり方は確か…魔力を放出して、特定の形式に固めてから自分が放ちたいイメージをやるんだっけか」
「そういう事ですね。ですが、あの時に放った魔法はあなたの物にしては凄くイメージが出来上がってました。という事は詠唱系に特化している事なんですけどね……まだ判断しにくいです」
「だろうな。俺のステータスはまぁまぁ強いんだが、それでも足りないってなると精神力消費って事か」

つまり、俺がバカ強い魔法を放とうとイメージしたら出力の限界値を超えてしまう為に精神力も消費するって事か。確かMNDは1000近くあったが、少し立ち眩みする程度…じゃあ消費、時間経過で回復するとして100くらいか?あんまり使い勝手がいい訳じゃないな。
うーん、だとしたらもっと早く魔法を使えるようにして、魔力の放出のやり方も覚えないとな。どうやるんだ?こう、体から力を出すように、踏ん張る……これやっても別のもんが出てきそうだな。

「じゃあ、まずは服脱いでください」
「は?え、なんで?」
「勘違いしないでくださいね?魔力を放出する為に私の魔力感知でどこら辺に魔力があるのか体に触れて探るだけです…生憎、今はシグルさんのお店の中なのでいいんですけど」
「まぁそうだな…ほいよ」

ローブを外し、タートルネックを脱ぎ終えるとユズリアの手がまず肩に触れる。なんかくすぐったくて悶えてしまいそうになるが、我慢しながら暫く肩や腕、首辺りを触られた。にしても、なんだか表情が曇っているというかなんというか……不安になってきたな。

「はい、一応確認しました。まず、いい報告と最悪な報告があるんですけどどっちがいいですか?」
「んじゃいい報告から頼む」
「まず、魔力はちゃんと流れてました。使えるには使えると思います…それで、悪い報告なんですけどね…」
「おう」
「今の段階じゃ、あなたは魔法が使えません。というか無理です、私の方法じゃ出来ません」



「……ほわーい?」


私の方法じゃ出来ない、って事か。つまり別にやり方がある……のは分かった。んじゃあ試しにシグルを呼んで…あ、今あいつ鍛造中だわ、無理無理……じゃあどうするべきか。

「はぁ、教えようと思っていた事がまさか全部無意味になるなんて……基本的なやり方は魔人、人間共に一緒なんですけどね」
「確かそんなこと言ってたな」
「はい。シグルさんに少し小話という形で聞いたんですが、全部合っているの事です。やり方は魔人も人間も同じで、劇的に異質な形式がない限りは昔から同じ……との事ですね」
「ほー……なぁ、昔って何時くらいだ?」
「そうですね、魔王がいた頃にこの様なやり方になったそうなのでざっと90年前くらいですね」
「……90年前、か。」

さて、思い当たる節がある。あのローブの人物である……そもそも隠蔽されてたり色々と切羽詰まった状況だったので確認する暇すら無かったのだが、おそらくあの人物はかなりの年月を生きている。俺の適正属性じゃなさそうな闇と影を持ちながらあの黒王龍の魔法体の構築、果てには自身の強化……等も行っていたとしよう。考えれば、二つとも俺のスキル欄に出ている魔法構式の術式二つなのである。つまり、これは贈呈という名の縛りの様なものであり、対象の魔法の使い方を固定させるもの……勝手に固定されて何してくれとんねんボケェと言いたいがね。
つまり、あいつの置き土産のせいで俺の魔法はかなり使いにくいものとなってしまった。クソッタレ!

「まぁ、ゆっくり調べていきましょう」
「そうだな、今回はめちゃくちゃ疲れた……そうだ、飯にでも行くか?」
「いいですね、今日は少し高い所でも食べに行きましょう」
「そうだな……」

ま、今日は俺がMVPだから少しくらい奮発してもいいよね!………結局、あの緋焔王龍の目的とかなんであそこだけ魔物が少ないか、とか全然分からなかったな。




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時は晩、飯のお時間です。今回はユズリアの提案により少し高めの高級店?での食事……この世界にコックとか、高位技術を持った調理人がいるのだろうか?まぁ、俺はよく分からないのであれだが。という事で今回頂くのは名前も存在も知らないオードブルの『洞窟石蟹の身切り野菜巻き』、スープの『洞窟石蟹のカニ味噌風味スープ』、魚料理の『溶岩泳魚のクリーミー仕立て』、肉料理の『黒蜥蜴人の肉のワイン漬け』、メインの『火竜ヒレ肉のロッシーニ』、デザートは『魔乳牛のミルクシャーベット』、ドリンクは……なんかもう飽きてきた。なんで朗読したのだろう、頭が痛い。横文字をバカスカ並べた感じがしてきて考えるのをやめたい。
ちなみにこういうフルコース系は数回しか行ったことがない……というもの、父親のお陰とも言えるが。


「……妙に慣れてますね」
「まぁ、こういう作法の一通りは教えられたからな」
「そうなんですか?極東は礼儀があっていいですね」
「まぁな……ただ、全員がそうって訳でもないぞ?俺の父親の様な高貴な奴がいるから、ってのもある……他の奴らが全員こうって訳じゃないな」
「そうなんですか。まぁ、そうですよね」

という事で暫く黙食に入るが、その間に並列思考でステータスの成長具合をご覧いただこう。ではステータスオープン。



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「金木 祐希」

Lv:30

STR[筋力]:2570

DEF[耐久力]:6670

VIT[持久力]:2550

DEX[器用さ]:3570

AGI[俊敏]:2570

MND[精神力]:3570

LUK[幸運]:2570

skill/[言語理解Lv.10][器用貧乏Lv.7][啓言Lv.3][鑑定Lv.10][見切りLv.4][観察Lv.10[進化可能]][回避Lv.16][独歩Lv.3][疾駆Lv.10[進化可能]][思考Lv.15][並列思考Lv.6][聞き耳Lv.2][反応Lv.16][神経強化Lv.2][剣技Lv.2][衝撃耐性Lv.2][龍狩Lv.2][幻想種特攻Lv.1][影・闇魔法Lv.1][炎・焔魔法Lv.1][魔法構式Lv.1[構築術式][強化術式]][経験値増長[スタンス:上位種討伐上昇]]

EXskill/[緋焔王龍の加護]

E:[私服一式][黒王龍の隠布][形見のペンダント][黒王龍の瞳の首飾り]【影の倉庫[+130]】[金貨:34K]




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うん、増えまくってるね。しかも防御は6000代到達したし……あと、一番ヤバそうなの増えてるけど大丈夫か?エクストラスキルって感じがしてやまないんだが。
まぁいい、これは後で考えよう……さて、もう別思考の俺は食事し終えた様だな。ていうか、外から鼻歌が聞こえている気がする。これも聞き耳スキルのお陰か?それに、何だか―――――

「ふぅ、御馳走様でした。ありがとうございます、わざわざ奢ってくれるなんて」
「んまぁ、今回は命懸けだったからな。ある意味いてくれて助かった」
「それはどうも……」
「……なぁ、気付いてるか?さっきから外が騒がしい気がする」
「奇遇ですね、私もですよ。絶対外に何かありました…代金は先に払ってもらっていいですよ、私は外の様子見てきます」
「おう、頼んだわ」



……さて、もう何となく分かるよ。通り魔か何だか知らないが何をするつもりだ……?



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今回の進捗6(進行中…)(進捗6/100)

進捗6『英雄王として、自身の名を村、街、国、種族へ知ろしめる。』(進行中)

世界移動回数『1』 世界攻略回数『0』(上限無し)


NEXT→通り魔『6』


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