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第十一話

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シグルの所まで走り、やっとシグルと合流した。

「よう、中々走ってきたようだな?」
「おう、それなりに疲れたわ…」
「はぁっ…ふぅっ、私スタミナ無いんですからね?あ、狭い洞穴に入ったら食事にしますよ」
「お、ありがてぇ」
「歩いて疲れたんですからね?それにしても、私が二個見つけちゃうなんて…」
「お、見つけれたのか?」
「はい、あなたは?」
「全然だ、その代わりにカリュート鉱石の削れたもんとかかな……」
「あー、無傷なら売れてましたね」

歩きながらそう話すユズリアに『ま、本当は火竜の涙宝もカリュート鉱石も全部無傷の高純度なんだがね』とか言えないのだ。そもそも、なんでいきなり幸運が発動した?特にそんなスキル入れてないし……あ、ここら辺も聞いてみるか。

「なぁ、思ってたんだが幸運のステータスってどれくらいが限界なんだ?」
「ああ、幸運のステータスですか。到達者はいませんが基本999が限界……って思われてます」
「……うん?3桁までなのか?アイテムとか使って限界突破とかは?」
「そんなのある訳ないですよ、御伽噺にある限界を超える魔術とかじゃないんですから」
「…ほーん」
「なんですか?余りにも当たりが出なくて泣きそうになったんですか?」
「いや、余りにも運が悪すぎてワイバーンも出ちゃったりとか思ってよ」
「それは…有り得なくないんですよねー」

え、何それ。結構怖い言いぶりなんですがそれは……というかそんなに俺運が悪そうな男に見え…………あ、運めっちゃ悪いな。悪運ばっかり働いてたわ、前半。むしろここら辺で報われて嬉しいというか、幸運が強くて助かった。

「話しのところ悪ぃが、深層の敵には出会ったか?」
「いや、まだだな。そもそも接敵しないくらい静かだったとも言うべきか」
「そういえば、初戦のリザードマン戦から魔物を見かけてませんね」
「なんなら、俺達が探している間も敵に出会わなかった……どうなってんだ?」

あー、これは……フラグ建築士が働きましたねぇ、ええ。という事で、いつでも武装を出して先手を打てるように準備しよう。と言ってもローブの影の中に手を突っ込むだけなんだが。
しかし何が来るかだな。リザードマンのリーダー?ワイバーン?それともレッドドラゴンの長?

「ここら辺一体はもう魔物がいない、だから安全に動けた…………だが何故か?めちゃくちゃ簡単だぞ。ここの魔物よりクソ強い奴が屯してって訳だ」
「うへぇ、戦闘になりたくないですね」
「…………いや、そうも言ってられないかもしれん」
「は?」


あー、鑑定が気配ビンビンしてらっしゃる。見なくてもいるというか、壁越しでも何か分かる。というかゆっくりこっち向かってきてるし、とんでもない速度で。火山の洞窟をぶち抜いて来るやつがあるかぁ!

「逃げるぞ!」
「え、何何!?どうなってるんですか!?」
「この場から離れねぇと最悪死ぬぞ俺以外は!」
「なんで貴方は生き残れるんですか!」

そりゃ5000越えの防御力持ってますからねぇええ!5800もありゃ龍の攻撃くらい耐えれんだろ?……耐えれるよね?なんか怖くなってきたぞ。



『ヴォォォォォオオオオ!』


洞窟の壁をぶち破り、遂に大広間へやってきた謎の生命体―――いや、もう隠す必要ないな。という事で「赤火龍の火山の主」、緋焔王龍戦へ突入した。




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「う、ウソ……」
「マジかよ……」



まさかこんな事になると思いもしなかった。
ユズリア・フォーリナーはこれまでに様々な苦難と受難も抜けてきた……いや、二つとも同じ意味か。それでもかなりの激戦区を抜けてきた。ただ、今回は話が違う。
この火山の主にて、人間を凌ぐ最強の食物連鎖の頂点、飛龍……更にその中の圧倒的強者のクラスに君臨する者が現れた。逃げろ、さもなくば死ぬぞと頭から垂れ流されるように響き続ける警告。でも脚が動かない、この依頼を軽々しく受けた私が悪いのだろうか。それに、飛龍が翼を動かす度に強い風が立ち上がろうとするのを拒む。

「おいっ!ユズリア!起きんか!んな所で突っ立ってたら死ぬぞ!」
「あ……ぁ……」

声が出ない。心の中でなら多く喋れる私だが今回はそうともいかない。あの龍に見つめられている、あの龍が誰が敵かを見定めている……捉えられれば死ぬ、逃げなきゃ……


何処に?


そうだ、飛龍タイプはブレスを吐いてくるんだ。しかも王クラスの龍のブレスなんて吐いたらここら辺一体が吹き飛ぶ。どれだけ逃げてもブレスの二の舞になる。ダメだ、帰る手段が見つからない……私の魅惑の魔眼で何とかする?無理だ、相手が強過ぎて効かない。虚数の魔眼で一時的な無敵化を使って脱出?無理だ、依頼主が死ぬ……いや、依頼主が死んだのならこんな嫌な事も終わる……?それなら、いいか―――



「はあ……ま、こんな事になるからフラグ発言はやめておけって言ったんだよ。ったく……」


私の前に一人の男が立ち上がった。飛龍の風圧も何とも知らず、私の知らない龍の素材で創られたであろう片手剣と槍を持っている……何をする気なの?


「おい、立ち上がれるか?無理ならケツ蹴り上げてもお前を立ち上がらせる気だが」
「……ッ……手くらい引いてくださいよ」
「魔眼持ちに会って、犯罪者であればすぐに殺す様な奴に手がいるか?」
「そんな冗談言ってる場合じゃ……!」
「来たか」



私が立ち上がろうとした瞬間に、緋焔王龍が後ずさる様に後退しその口から洞窟を煌めかす様に明るく、熱い竜の息吹ドラゴンブレスを放った。不味い、この男が死ぬ。私は虚数の魔眼でなんとかなるが、この男は……!


「さ、今一度龍とご対戦だ。簡単に死ぬんじゃねぇぞ…………!「大剣防御」!」






虚数の魔眼で目を瞑りながらブレスが終わるように祈って二分。熱さは感じないが、私が見える光景は歪んで上手く見えない。解除すると、周りは焼け落ち、そしてあの男は……大剣を盾にしたまま焼け焦げていた。

「あ……ぁ、ぁあ……!」

やってしまった。あの男の安全を計り知れなかった私のミスだ。また一人、罪もない魔眼持ちが死んでしまった……また、またか。


「……ごめんなさい」














「いや勝手に殺すな」





は?



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はぁー、熱い熱い。多分龍の盾が無かったらマジで焼け死んだかもしれなかったな、ていうかあいつのブレス痛過ぎだろ。全身が熱さで燃えて痒くてたまらん……それくらいで済んだのだから良いのかな?まぁいいけどさ。という事で緋焔王龍戦始まりぃ。一方的なアイツ緋焔王龍のターンは終わり、今度は俺のターンだ。


「ぇ、ぁ、な、なんで生きて……」
「あ?別に死んだ訳じゃないぞ。これ熱で燃えただけだからな。それにほら、俺のローブクソ頑丈だからね」
「そ、そうじゃなくて!なんで大剣を盾にした程度であの緋焔王龍の攻撃を防げてるんですか!?見た目は乱雑でどんな龍の素材出出来ているかも分からない様なもので防げる訳が……」
「んなもん、知ったこっちゃねぇ。俺の宿敵の龍の素材だからな?強い……ハズだ。こんくらいで負けてたら食物連鎖は簡単に崩れてくぞ……あ、雑談してる暇ないな?お前は虚数の魔眼で逃げろよ!生憎、俺は戦闘狂だからアイツと戦ってくるさ!」


疾駆で走り、独歩を使い思い切り空中へ登っていく。やっと分かったことは、これクソ便利。火竜の涙宝を取りに行く際に練習したんだがこれがめちゃくちゃ使えるんだよ。こうやって空中戦仕掛けてくる時にとっては見えない床を作りながら歩き回る男にしか見えんがね。という事でこの緋焔王龍を何とか倒す方法はもう出ている。俺の黒王龍シリーズで倒すしかない……これらがあの龍の王を打ち倒す為の素材になる。あと一つは……魔法。でもどうやって使うか分からないしイメージでしかない。ただ、魔法はイメージであり具現化するモノだとか鑑定で出してきた。よく分からん。

「よっ!」

『グルルァァア!』

俺の即振りを簡単に避け、尾で三日月を描くようにサマーソルトする緋焔王龍の攻撃を俺も避ける。相手の手の探り合いって所か。ならまだ単調の動きは続けていた方がいい……いいのだが、こいつ頭回りそうなんだよな。虚数の魔眼が持ってるアイツはいい。けれどシグルさん何処へ行った?まさか死んだ訳じゃないよな。
……考えても仕方ないから続けるか。片手剣を見えない床にぶっ刺して取り出すは二短剣のレイとワン。確か攻撃した後持ち主に引き寄せられるんだっけか……ほらよ!お前が大好きな龍のプレゼントや!ついでに俺の牙突もどうぞぉ!

俺の攻撃は避けられたが緋焔王龍の翼二つにレイとワンが交互に突き刺さり、緋焔王龍が悶える暴れ出す。なんかコレ見てると……バジリスクなタイム思い出すね。水の様に激しく動いてるんじゃないのかな、多分。翼に突き刺さった二短剣が落ち、俺の手元に――ってどこ行くねーん!なんで真下に落ちるんだよ!
ま、まま……ええわ。短剣は刺さりにくいからね。あと勢いがついてないとこっちに戻ってこないって事が分かっただけで収穫だな!
というか別のこと考えながら戦闘するの楽し過ぎて脳汁が出まくる。こうやって雑談してる間に俺は緋焔王龍の対策と倒し方を別の思考が考えてくれているのだ。にしても本当に便利っすね……うぉわっ!?


「痛って……いくら防御5800以上でもまぁまぁ痛いな。油断したね」



『グォォォォアアアア!』



尻尾のスイングに対処出来ずに負かされたらしく、地面に叩き付けられた。痛いが最大の問題は脳震盪である、あれ起きたら死ぬ。俺がいくら固くてもね。
さて、この際どうしようか。あ、なんかレイとワン戻ってきた。地面に叩き付けられた衝撃で戻ってきたのかね。まぁそんな事どうでも良い。まだ槍と大剣、そして俺の手にある片手剣があるがどうしてくれよう…………

あ、魔法使ってみよう。こういう時こそなんか色々刺激されて魔法が使えるようになるとかなろうで見た気がする……なろう系の情報信用出来るか?出来るんだよ!という事で立ち上がりバックステップ、気分は体操選手と剣士です。
という事で詠唱を開始する。まずはイメージからだ、あらゆるモノを掻き集めてきた英雄王が龍狩りに引き抜く武器……シグルドの剣だな!

「ここに現れんは数多なる龍を殺す剣、真髄しその剣のまことなる名は「父の剣グラム」。先代、次代、末代へと語り継がれ、何れお前を穿つ剣……龍の髄まで刻み込め!魔剣グラム憤怒龍殺剣ッ!!!!」

龍のブレスをローブで防ぎながら剣を持ち続け、イメージを強く持ち続け放った「魔法」。幻影かも分からない大蛇の様な龍が緋焔王龍の首に食らいつき、地に叩き付け、その大顎で噛み砕いたと共に消える。

「鑑定は…………よっし、死亡判定だな。念の為、心臓抜いておくか」

グロテスクなので具体的な表現は避けておくが原をかっ捌いて心臓をゲットした。これがドラゴンハートですね、ハートキャッチするならお姫様の方がいいよね。鼓動は止まったので本当に死んだようだ。という事でローブを龍の体に当てたら速攻で吸い込まれるように消えた。
……前から思っているんだが、このローブ質量とか無視してないか?結構な速度で吸い込んでるが……考えたら頭が痛くなってきたのでやめておこう。今は頑張った俺を労わろう……ん?

あれ、なんか熱くね?ていうかなんなら色々と上から垂れてきてる気がする。上を見詰めると赤い何がが垂れてきている……しかも波の様に。俺もう分かっちゃった、あれマグマだわ。



「ダイナミック退避ぃい!」


その名も前転。AGIが上がってるんで結構遠くまで前転の距離を伸ばせました……これってただ転がってるだけだよな?まあそれより、ぼかーっと立っているユズリアを担いだ。ていうかシグルさん何処?


「ダイナミック誘拐!」
「きゃっ!?」
「シグルの見分けつくか?」
「え、えっと……ここら辺にはいないですね。先に転移スキルで帰った可能性が……」
「ヨシ!んじゃ行くぞぉお!」

適当な岩が詰まれた所に俺のSTR任せで岩石を蹴り破り、奥に続く光の道へ思い切り走り抜く。取り敢えず何処だっていい、帰れればいいんだ帰れればなぁ!

「よし!出口だ!」
「か、帰れたんですか……?」
「おう、だが歯ぁ食いしばれよ」
「え」

ダイナミックジャンプと共に光を突き抜け、出たのは……崖。ていうか崖事飛びすぎたな。という事で落下します、タマヒュンはしたくない……!


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今回の進捗6(進行中…)(進捗6/100)

進捗6『英雄王として、自身の名を村、街、国、種族へ知ろしめる。』(進行中)

世界移動回数『1』 世界攻略回数『0』(上限無し)


NEXT→通り魔『5』


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