捻れて歪んで最後には

三浦イツキ

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微睡みの朝

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「魔術を作った理由はわかりましたが……なぜ私に感想を求めるのですか? その、私は……は、初めて、でしたから、普通の行為と比較した感想などは……」

 手元のシーツを握ったり引っ掻いたりしながら、なんとかこちらの主張を投げかけた。

 そもそも教会という場で育った私には男女の営みに関する知識ですら大きく欠けている。快感が増すと言われても、通常はどのくらいなのか、昨夜感じたものがそうであるのかもわからないのだ。

「初体験の感想というのは貴重ですから。一般的に初めての女性は痛みを感じるものですし、快感を得るのも難しいのです。魔術によってそれらが改善するのなら、新たな客層を取り込めます」

 聞けば聞くほどしっかりとした理由が出てくる。こうなっては拒否するのが難しくなってきてしまった。

 困っている者は助けるべきだし、協力を求められたら力を貸すべき。教会では心から誇らしくそれを遵守していたが、こんなに手を貸しづらい状況でも私はそうしなければいけないのだろうか。

「それと、ヒト族の女性の感想というのもとても珍しいのです。ヒト族は積極的に繁殖するほど弱くないというのに、肉体の方は柔らかく脆い。だからなのか、性交には他の種族より少々奥手でいらっしゃる。サンプルが極めて少ない。……旦那様ほど魔力の調整に長けていれば別ですが、研究途中で出力の安定しない魔術をそこらで使うわけにもいきませんしね」

 つまり、今の私は美味しい条件を複数満たした絶好の被験者というわけらしい。心做しか頭痛がしてきた。

 私が恥を忍んで正直に感想を述べれば、それがこの先顔も知らない誰かの利益になる。聖女としてはそちらを優先するべきなのだが、はたしてそれを口にすることは聖女として正しいのだろうか。明らかに私は混乱している。

「……貴方を辱めたいわけではない。言いたくなければそれでいい」

 言い淀む私を見かねてか、視線のぶつかったエリック様は助け舟を出すようにそう言い、隣のディミトリさんを見下ろした。彼もそれに従うようだ。口にこそしないものの、惜しいとは思っているはずなのに。

「………………書面での報告で、よろしければ……」

 長考の末に顔から火が出そうな感覚に襲われながら、俯いて妥協点を小さく小さく零した。逃すことなくそれを耳に捕らえた彼は、嬉しそうな顔で満足気に部屋を去っていく。

 足音も離れていくと、再び部屋はしんと静寂に包まれた。

「……悪かった。貴方の反応からすると、昨日の今日で聞く内容ではなかったのだろう」
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