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テレーゼ様と私
71.ランドスケイプ公爵当主ファベルハフト
しおりを挟む夕食前に、お祖父さまにご挨拶をする事に。
お身体の悪いところがあるとか、老齢で動けないという訳ではなく、普通にランドスケイプ公爵現当主として、領地の管理に勤しんでおられるとのこと。
上位貴族が、複数の爵位を所持しているのはどこでも良くあることで、伯爵位も持っているそうだ。
「俺がお祖父さまに認められたら、取り敢えず伯爵位は譲られるらしい。父上の侯爵位やお祖父さまの公爵位は、どうなるか解らんが」
「まあ、うちも、ネーデルラント領になっていた頃の、オーストリアやフランスの侯爵位や伯爵位があるからなぁ」
帝国の大公やプロイセンの女王などが王位継承戦争などの末に、報償としてハインスベルクが帝国から割譲された時、ネーデルラントの貴族から嫁いできた令嬢や、新しい領主として配置された伯爵や侯爵が、占領国の貴族だった訳で、その子孫として、爵位は持ち続けているらしい。
「まあ、持っているだけで、ネーデルラントやオーストリアで領地や政治に係わる権利を持ってる訳じゃないけどな。この国が戦火に見舞れたとき、氏族を頼って亡命するのには役立つだろ」
お祖父さまは、書斎で執事と、領地に関する書類仕事をされていた。
「お祖父さま、テオドールです。ちょっと失礼します」
「⋯⋯入りなさい」
うう、緊張する。私のお祖父さまでもないし、私はお嬢さまではないのに、どんな顔して会えばいいのか。
お祖父さまに関してわかっているのは、可愛がってもらっているから、あの別荘の鍵を預かっていて好きに使っていいらしい事、王城で働く高級官僚のお父さまも頭が上がらない大領主さまである事。
可愛がってもらっているということは、お祖母さまと違って面識はあるって事よね? 鍵を預かっているのだし。
お祖父さまは公爵で、それは、領地から税を取るために派遣された官僚新興貴族とは違って、元々この地ヒューゲルベルクを統治して来た氏族の長だという事。
領地自体は、面積も人口も統治権も、リーベスヴイッセン公爵家のように半独立自治区には及ばないけれど、人口が中心地に集まっている上に面積の殆どが農耕地と自然地区で、やや広めの小都市くらい。農業や牧場経営が盛んだと聞いている。
「お仕事中、失礼します。ただ今、王都より戻りました。客人も一緒です」
「お祖父さま、お加減はいかがでしょうか。アンジュリーネです」
「初にお目にかかります、テレーゼ・ヴァルデマール・フォン・デム・公爵・ツー・エーデルハウプトシュタットでございます。厚かましくも、テオドール様のお招きのお言葉に甘えてしまいました」
「別にいいでしょう? お祖父さま。最近、王都の屋敷にずっと逗留されて、母上やアンジュと仲よくしていただいてるんです」
「ほう? ⋯⋯アンジュリーネとか?」
「ええ、妹のアンジュとです」
お祖父さまは、お父さまに貫禄が出て来たお姿を思わせるような、穏やかな眼と意志の強そうな凛々しい眉、国王陛下と近いお歳とは思えないしゃんとした背筋と硬いものもよく噛めそうな顎の、偉丈夫だった。
お兄さまと話しながらこちらを見て一度深く息を吐き出し、私に向き合う。
「ヴァルデマール公爵家のご令嬢と仲よくしていただいているらしいな?」
「はい。先月、お茶会にお招きいただいて、お互いの曾祖母が同じ青の森の氏族の出の姉妹であると伺いました。それ以来、よくしていただいてます」
「そうか。よかったな。先ほどの挨拶にしても、王都での噂でも、高い教養と矜恃を持たれた高貴で風雅なご令嬢と聞く。お側についている間は、よく勉強させてもらいなさい」
「はい、お祖父さま」
「テレーゼ様。よくいらっしゃいました。孫達と親しくしていただいているようで、感謝いたします。これからも、よければ時々話し相手になってやってください」
「ミレーニア様には、青の森の氏族の伝統的なキルトや刺繍を教えていただきましたし、アンジュ様の語学力は、わたくしも及びませんの。こちらこそ、色々と学ばせていただきますわ」
にっこりと微笑むテレーゼ様は、とても美しかった。
これまでの弛まぬ努力と身につけた教養に裏打ちされた矜恃が、彼女をより美しくさせているのだろう。
もう子爵令嬢ではないけれど、貴族籍を抜いたからただの平民だけれど、
──見習いたい
せめて、お嬢さまの身代わりの間だけでも。
お祖父さまのお仕事を中断させたのに、ジェイムスさんがお茶を用意してくれたので、少しだけ、皆とお祖父さまと、領地についてお話を聞かせてもらった。
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