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ブラウヴァルトの氏族と私
101.ウエディングケーキ
しおりを挟む「これをみんな食べてもよいのかぇ?」
フルーツがたくさん盛られたタルト生地のケーキ。
しっとりどっしりした生地にドライフルーツやシロップ漬けの木の実などが練り込まれたトルテ。クリームがたっぷり添えられている。
少し前まで100もの効能があると薬にも使われていたカカオ豆から抽出されたショコラーデ。苦いのひと言につきる代物だったけれど、砂糖やシロップ、蜂蜜などを贅沢に使って甘くすると、別物のように美味しくなる。このショコラーデトルテは、この店の二番人気なんだとか。
一番ではない理由は、まだショコラーデの一般人への認知度が低いことと、糖質の使用量の多さからの、高めの価格設定と総カロリーのためだった。
庶民には気軽に手を出しにくい価格に加え、一度食べるとしばらくお腹も膨れ、尚且つ運動量が足りないと簡単に太ってしまうのが最大の理由。
「なんじゃ、勿体ない。値段は庶民にはツラいかもしれぬが、貴族や資産家の娘なら食べられぬ事はなかろうに」
「太りたくないんでしょ? お嬢さま方は、窓辺でお茶しながら刺繍したりお喋りしたり、動かないものだから」
と言う騎士団公国の公女であるハイジは、もちろん、詩集や詩作もするけれど、女騎士達に混じって運動と称して剣を交えたり、馬を駆ったりもする人らしい。
あのお人形のように可愛らしかったハイジが、愛らしい外見はそのままに、生き生きと動く活発なお嬢さまに成長している。
「あら。褒め言葉ね? 青白い顔をして座ってるだけの令嬢と一緒にされるのはいやなの。だって、わたくしは騎士団を率いる公爵家の長女ですもの。剣や馬を扱えないなんて有り得ないわ」
そう言いながら、ショコラーデトルテをひとくちサイズに切り分けて、そっと口に運ぶ。
「あら、美味し。ショコラーデって、カフィのように苦いものだと思ってたわ」
「苦みを抑えるために、砂糖をたくさん使ってますから。その方が、保ちもいいですし」
「そうだわ、砂糖と言えば、ブリテンのウェディングパーティーで使われるケーキの一番上の小さい部分は、パーティーで切り分けたりせずに取っておいて、最初の子供と一緒に食べるのだそうですよ」
「ええ? 最低2年以上保存しておくって事?」
テレーゼ様もハイジも、驚いてこちらを見る。
「ええ。大きな三段重ねのケーキで、一段目は結婚式の披露宴会場の招待客に切り分けられ、二番目は列席出来なかった人達にお裾分けされ、三段目は、結婚記念日や最初の子供が産まれて洗礼を受ける時まで、保存しておくのですって。ビクトリア女王が始めた事だそうよ。
それにあやかってかしら、新大陸に入植した人達の中には、ウエディングケーキを保存しておいて、毎年結婚記念日に少しづつ切り分けて食べる夫婦もいるんだそうよ。凄いと思いませんか?」
「ブリテンの気候的に、黴びたりしないのか?」
「お酒にたっぷり漬けたプラムやレーズン、オレンジピールとかを贅沢に使って焼いた濃厚なフルーツケーキがベースで、お酒漬けのドライフルーツが長期保存を可能にするみたいですわ。アーモンドの粉末で練ったマジパンで花やリボン、レースなどを飾りつけて、シュガーペーストをかけて作られるので、見た目は繊細で中味はどっしりしたフルーツケーキ⋯⋯美味しそうでしょう?」
「それはよいな! よし、わたくしの結婚式にも、ブリテン式の三段重ねのケーキにするぞぇ!! 毎年結婚記念日に少しづつふたりで食べるのじゃ。毎年決まって過ごす記念日は、夫婦の絆を深めてくれるに違いない!」
「あら、いいわね。じゃあ、わたくしもそうしようかしら」
パトリツィア殿下とハイジは、ふたりともお相手が決まってないはずだけれど、ウエディングケーキの話で盛り上がる。
「アンジュもそうしたら? 元々あなたがいいだした話だし。きっとお兄さまも喜ぶわ。一生仲睦まじい夫婦になれるわね?」
え? 私──アンジュリーネお嬢さまも? 同意して、勝手に決めてしまったと後から知ったら、お嬢さま怒らないかしら?
お兄さまも話に乗ってくる。
「解った。じゃあ、母上とパティシエとで三段重ねのケーキを焼いて、お前をハインスベルクに送っていく時、母と兄からの結婚祝いとして一緒に届けよう」
え? それなら、お嬢さまも意義はないかしら? 少なくとも、表向き文句は言わないわよね。
曖昧に頷いてお茶を濁そうかとも思ったけれど、お兄さまの愛情なら、素直に受け取っておくべきだと、喜びを隠さなかった。
パトリツィア殿下は、お兄さまの奢りと提供されたケーキ全種類をペロリと平らげ、満足げにお茶を啜って、ご機嫌で店を出た。
「あれ、大丈夫なのかしら? 止めた方がいいのかしら」
引率で付き添っている、パトリツィア殿下の叔母さまが、頰に手を当て、小首を傾げて悩む様子を見せる。
私も、少し困っている。
「間に入って割ってきましょうか?」
ハイジが、にっこりと提案する。
確かに、叔母さまが間に入ると、お小言のようになり少なからず、蟠りが出来る。
パトリツィア殿下と仲のよいハイジか、お兄さまの妹の私が間に入るのが自然だし角が立たないと思う。
パトリツィア殿下は、店を出る時から、お兄さまのエスコートで階段を下りるのはともかく、その後手を離されても、殿下からお兄さまの腕にとりついて、子供が甘えるようにあれこれ話しながら歩いているのだ。
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