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尽してくれた少女を見殺しにした僕ら──クリストファ
なな。『で? スライムプールでコハクの「遺品」を見つけて、のこのこ帰ってきたのか』【一部改稿】2020,11,13㈮
しおりを挟む「で? スライムプールでコハクの遺品を見つけて、のこのこ帰ってきたのか」
態々「遺品」と言う単語を敢えて使ったギルドマスターの言葉に、アレフは大袈裟なほどビクッとした後、コハクの抜け殻となったボロ切れを胸に、激しく震えながら嗚咽を洩らした。
「と、まあこのように、アレフ様は泣き崩れ、クリス殿は吐いたり眩暈を起こしたりと、ほぼ使い物にならない状態でして」
いや、エドガー、言い方⋯⋯ ギルドマスターが恐ろしい目つきでエドガーを睨みつける。スキル【威圧】を使わずとも竦み上がる威力だ。
自身も使うから耐性があるのか、目を合わせず気にしなければ効果はないのか、エドガーは言葉を続ける。
「自身の行動の結果で人がひとり死したと」ビクッとエドガーの言葉に過剰反応を示すアレフ。コハクのポンチョを抱くように握りしめる手に力が入って、その指先が白く血の気が引いていく。
「それが心の傷になってはいるのでしょうが、この先勇者となられるお方が、人ひとりの犠牲に挫けていては成長できないと考え、この状態でも進めるよう、ダンジョンを最後まで踏破する事を勧めました。
だから、コハクの捜索は行っておりませ⋯⋯ッ」
エドガーは最後まで言えなかった。ギルドマスターに殴り飛ばされたからだ。
その勢いと気迫に、キャロラインは悲鳴を飲み込んだ。
「大したお貴族騎士様だなあ?エドガーさんよ。人ひとりの犠牲? 勇者としての成長? お前、何様のつもりだ?」
エドガーは切れた口の端の血を手の甲で拭い、立ち上がる。
再度殴られてもいいようにか、肩幅よりやや広めに両足を踏みしめ、後ろ手を組んでまっすぐ立つ。こういう所はさすが騎士だな。
「自身の判断ミスは認めて、だからこその慟哭でありましょうが、泣くだけでは進めないと思ったのであります」
「言いたいことはわかる。ひとり死ぬごとに動揺していては成長云々は、ある場面では正しいかもしれんが、一人の犠牲? どの口が言うのだ。お前達が置き去りにした結果だろう?
戦時中や交戦中に仲間が一人また一人と犠牲になっていく状況だとか、大義の前に自ら犠牲となった者の死を悼み、その苦しさを乗り越えろと言うのなら正しいかもしれんが、お前らのはそうではなかろうが。使いどころが違うだろぉがよ?」
それきり、ギルドマスターは、エドガーに興味を失ったかのように視線を外し、いない者のように扱った。
「で?」
「あの、そのままエドカーの勧め通りにダンジョンを最下層の、最奥部屋まで踏破して、コアの吐き出すガーディアンを倒し、出現した出口への転移魔法陣で宵風の森へ出て、こうして戻ってきました」
震えながらテキパキ答えるキャロライン。やはり女性の方が肝が座っているのだろうか。
「さて、お前達の処分はどうしたものかな?」
エドガーは直立姿勢で天井を見つめたまま沈黙。
キャロラインは、魔道士ローブの膝元を握りしめて震えながら俯き。
アレフは、コハクのポンチョだったボロ切れを、自らの胸に押しつけるようにして、涙をこぼしながら何かに祈っていた。
自身に加護を授けたという女神にだろうか。祈るのは、コハクの無事?
今更のような気もしたが、僕も、神聖魔術を伝授してくださった光の大神ルク・クリステルスに、コハクの無事を祈った。
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