幸運のスニャイムと遊び人Lv.1

奇跡の少女 ── ギレウォッタ

じゅうひち。『私の報告に、いちいち訊き返してくるギルドマスター』──思い返してみても、なかなか非常識なクエストだったな

　　　　　　😇

「それで？」
「無限に湧く不死者アンデッドはコハクが浄化か送還し「え？ コハク 聖職者クレリックスキル持ってたっけ？」冥気と有毒ガスはコハクの妖精くんが無効化し、瘴気と熱気はコハクのケルピーが抑え｢ケルピー？｣、コハクのサラマンダーが悪霊を焼き火焰ゴーレムの熱を奪い｢サラマンダー？｣、地に埋まった古代神エンシェントの冥府の王インフェルヌスを呼び出しました」

　私の報告に、いちいち訊き返してくるギルドマスター。
　コハクも、捏造だぁ～と呟いている。が、確認の視線を寄越すギルドマスターに、みんなは首を横に振る。事実であると。
　ちょっとだけ涙目で、遠くを見るギルドマスター。「コハクよ、君の着地点はどこまで行くんだい？」なんて呟いてる。
　娘か何かのように可愛がってたからなあ。

「まあ、先にコハクが喚び出したのは、古代神・冥府の王の過去に切り捨てた苦悩を圧縮した、冥府の王自身の欠片のようなものだったらしいんですが、処理をせずに長い間放置されていたので、怨嗟と、呪詛の塊になってたみたいです」
「先に？」
「そこで一度、ラジエか死にまして」
「なに、やっぱり死んでるの？｣
「刈り取る者グリム･リーパーに背後から斬られて魂魄が抜けたので、後は不死者アンデッド化するしかなかったのですが」
「今生きてるよね？｣
「肉体の屍鬼コープス化も霊魂の死霊レイス化も、コハクが、ラジエの霊魂を摑みどりして、まるで躾けるかのようにちゃんと帰れと言い聞かせてラジエの中に押し込みました！　こう、グヮシッと、で、グイグイ、と」

　ここ！　今回のレポートでも大事なところですよ。

「え～、コハクちゃん、俺の魂摑んじゃったの？」
「ジタバタして、トカゲみたいで可愛かったですよ？」
「可愛いかぁ。俺、コハクちゃんより倍近く歳上なんだけどね」
「コハクちゃん、サラマンダーもトカゲみたいで可愛いなんて言って摑んでたわよね」
「ごめんね？ ギルマスオジサン、間違ってるのかな？ 霊魂も火の精霊も、霊体でスピリット　物理的に摑めるものじゃないと思ってたよ。何年も冒険者やってたけど、知らなかったなぁ」

　いえ、その認識であってますよ、ギルドマスター。コハクが特殊なだけです。後、彼女のお祖母様。聖女で天才魔導具師アーティファクターです。

「ラジエを蘇生して、冥府の王の欠片の咒紋についた火を、大ジャック･フロストで消し去り」
「コハクの蘇生法も凄いが。ジャック･フロストなんて、何年も目撃例がなかったと思ったが？　ターレンさすがだな？　いつ契約したんだ？」
「わたしではありません。コハクが手編みのウールのマフラーと交換に、ジャック･フロストの結晶を受け取りました。時間にして僅か数分のことです。私がン十年かけても⋯⋯ぶつぶつ」
「あ～、まあ、人助けして、力を借りられるようになったってことですね！　さすがコハクですヨネ」

　ターレンが鬱に入りそうだったので、慌てて遮る。
　ギルドマスターの目も虚ろになってきた。こちらも報告という名のプライド粉砕大会の気分だから。

　アミナの用意してくれた、精神安定効果の高いハーブティーを一口、喉を潤す。

「まあ、その後、鑑定では冥ヘルノと昏クルムの属性の古代神で魔力と運気が無限大としかわからない相手に、コハクが泣いてると言って子守唄を聴かせたら、あたり一面が冥界と一部つながりまして」
「繋いじゃったの⋯⋯そう」
「ご本柱ほんにんである冥府の王が直々に来てくださって、事態の収集と修復を請け負って、冥府の王の欠片をもって冥府へ帰っていきましたよ。
　その際に、コハクが山の外へ送ってくれって頼んだら、ギルドに帰ってきてたんです」

「あ～うん、あとでレポートとログ読み返すわ。とりあえず、みんなご苦労さん。よく五体満足で帰って来⋯⋯ひとり一度死んだみたいだったが、今は生きてるし、とにかく良かった」