上 下
45 / 263
システィアーナの婚約者

15.寄り添い支えて歩くのは⋯⋯?

しおりを挟む


 実にスマートに、自然と馴染むように寄り添って立つアレクサンドル。

「あ、あの⋯⋯」

「大丈夫。わたしとなら、婿候補として噂されることはないし、妃もいないから不貞でもない。そもそも、わたしをヽヽヽヽ疑うヽヽような人間が、この宮廷内に何人いるのかな?
 ああ、それとも、」
 ぐっと腰を引かれて、顔も近くに寄せるアレクサンドル。

お姫さまヽヽヽヽ抱っこをご所望かな?」

 貧血気味に青ざめていたのが一気に血が上り、沸騰したかのように熱くなる。

「殿下っ」

 エルネストが弱々しい悲鳴のような声を上げるが、アレクサンドルは取り合わない。

 大声を出して人目を引く訳にもいかないエルネストは、それ以上訴えることも出来ない。
 王子達の学友として、また側近候補としても側仕えを許され、ある程度の意見をすることも赦されているが、まだ近侍として地位を確立した訳ではないので、あまり強く言うことも出来ない。

 それが解っていてやっているのだとしたら、アレクサンドルも人が悪い。

「さあ、馬車までエスコートしてあげるよ、ゆっくり行こうか」

 にこやかに、しかし否と言わせない圧しの強さで、そのまま進むよう促される。

「あ、あの、どうしても送らないと気になると言うのなら、エル従兄にいさまに⋯⋯」
わたしヽヽヽとユーヴェは、次の予定まで小一時間ほどあるけれど、フレックは、この後、程なく予定があるんだよ。わたしでヽヽヽヽ我慢してくれないかな?」

 助けを求めるように振り返るが、フレックは済まなそうに、黙って頷く。

「ユーヴェでもいいけれど、わたしがただ2人の後をついて歩くのはつまらないからね。どうせ行くなら、愛らしい再従はとこ叔母おばと並んで歩きたいんだよ」

 態々わざわざ誰を指名するのかと訊いておきながら、その実選択の自由などなかったのだ。

 しかし、自信ありげに言うだけあって、王太子ヽヽヽアレクサンドルが、体調の良くなさそうな、一貴族令嬢ヽヽヽヽヽのシスティアーナに、寄り添って支えながら歩いていても、心配する者こそいたものの、ひそひそと声を潜めたり眉を顰めるような者はいなかった。

 しかしシスティアーナにとってみれば、婚約者でもない臣下たる侯爵令嬢である自分が、王太子に支えられながら王宮内を馬車まで送られるというのは、その居たたまれなさは、カルルに意味ありげに観察されるよりも、大きかった。





しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

自称病弱の姉に婚約者を奪われたけど、もう気にしない

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:28pt お気に入り:470

王子の転落 ~僕が婚約破棄した公爵令嬢は優秀で人望もあった~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:120pt お気に入り:2,122

処理中です...