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システィアーナの婚約者
15.寄り添い支えて歩くのは⋯⋯?
しおりを挟む実にスマートに、自然と馴染むように寄り添って立つアレクサンドル。
「あ、あの⋯⋯」
「大丈夫。わたしとなら、婿候補として噂されることはないし、妃もいないから不貞でもない。そもそも、わたしを疑うような人間が、この宮廷内に何人いるのかな?
ああ、それとも、」
ぐっと腰を引かれて、顔も近くに寄せるアレクサンドル。
「お姫さま抱っこをご所望かな?」
貧血気味に青ざめていたのが一気に血が上り、沸騰したかのように熱くなる。
「殿下っ」
エルネストが弱々しい悲鳴のような声を上げるが、アレクサンドルは取り合わない。
大声を出して人目を引く訳にもいかないエルネストは、それ以上訴えることも出来ない。
王子達の学友として、また側近候補としても側仕えを許され、ある程度の意見をすることも赦されているが、まだ近侍として地位を確立した訳ではないので、あまり強く言うことも出来ない。
それが解っていてやっているのだとしたら、アレクサンドルも人が悪い。
「さあ、馬車までエスコートしてあげるよ、ゆっくり行こうか」
にこやかに、しかし否と言わせない圧しの強さで、そのまま進むよう促される。
「あ、あの、どうしても送らないと気になると言うのなら、エル従兄さまに⋯⋯」
「わたしとユーヴェは、次の予定まで小一時間ほどあるけれど、フレックは、この後、程なく予定があるんだよ。わたしで我慢してくれないかな?」
助けを求めるように振り返るが、フレックは済まなそうに、黙って頷く。
「ユーヴェでもいいけれど、わたしがただ2人の後をついて歩くのはつまらないからね。どうせ行くなら、愛らしい再従叔母と並んで歩きたいんだよ」
態々誰を指名するのかと訊いておきながら、その実選択の自由などなかったのだ。
しかし、自信ありげに言うだけあって、王太子アレクサンドルが、体調の良くなさそうな、一貴族令嬢のシスティアーナに、寄り添って支えながら歩いていても、心配する者こそいたものの、ひそひそと声を潜めたり眉を顰めるような者はいなかった。
しかしシスティアーナにとってみれば、婚約者でもない臣下たる侯爵令嬢である自分が、王太子に支えられながら王宮内を馬車まで送られるというのは、その居たたまれなさは、カルルに意味ありげに観察されるよりも、大きかった。
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