34 / 294
Ⅰ.納得がいきません
32.目立たないって難しい⑰
しおりを挟む── 一面の菜の花 と歌ったのは山村暮鳥だったかな。
あの詩を思い出すような、一面の可憐な花々と、淡い薄桜色の昼の月、微かに煙る花霞。可愛らしい小鳥のさえずりも聴こえる。
花畑を縁取るように並ぶ大樹が、桜に似ていて、花びらが散るのも綺麗。
とても幻想的な風景で、私の一番のお気に入りの場所となっている。
花を祝福し育て咲き誇ることが生きがいの、花の妖精がたくさんいて、意識しなくても見えるほど。
ここしばらくの私は、精霊や妖精などの、日本にはいなかった(視ることは出来なかった)存在への眼と感覚を養うため、毎日ここへ来ることが日課となっていた。
《フィオ! 今日も来たのね》
《ちょうどいいところに来たわ、ちょっと見てよ、私の花の方が綺麗よね?》
《ずうずうしいワネ、アタシの花の方が綺麗に決まってるデショ》
いつも、到着してすぐは、妖精達が飛んできてわれ先にと、自分が祝福する花や、生まれた住処の花を自慢する。
嘘は言ってはいけないし、適当に誤魔化すのも誠実ではなく、彼女らと付き合っていく上ではタブーである。
「メルルの花は縁取りがレースのようでとても素敵だし、ファルリルの花は淡い色合いが重なり合って可愛らしいわ。シファーの花は香りが高くて咲いてるのがすぐ解るし、リンディの花は、飛ぶ鳥の形をしていて素敵ね」
それぞれのいいところを誉めると、皆満足して去っていく。
残念ながら、カインハウザー様の導きがないと、まだ精霊はよく見えなくて、声を聴くことは出来ない。
でも、目を閉じると、存在を感じることは出来るようになった。
存在感? お部屋の真ん中にジッと目を閉じていて、息と足音を殺して猫がやって来てもなんとなくわかるでしょう? あんな感じで、手を伸ばすと届きそうな一部の空気だけが、暖かいような感じたったり、冷たいような気がしたり、濃ゆい重い空気が渦巻いてるような感じがして、その端が頰に触れていくような……少し違う感じがするので、それを必死に感じとろうとするのだ。
なんだか、漫画喫茶で見たちょっと古い漫画にあったな、こんなの。
暗いお堂に籠もって、天井から降ってくる羽根を感じて摑む修行してる、昔の中国のお寺の拳法家のお話。アレに似てるかも。
カサリ
桜に似た大樹の向こうに、何者かの落ち葉や枯れ草を踏む音がする。
その音は微かで軽く、小動物か風かな?ってくらい。
でも、本当は知ってる。
金茶の柔らかそうな毛並みで銀の鬣、ピクピク動くピンと立ったぶ厚いお耳。ゆらゆら揺れるふさふさのおしっぽが木の陰から覗いてるので隠れられてないのだけれど、本人(本犬?)は隠れてるつもりなのだろう。
襲ってくる気配もないので、知らないフリしてるのだけれど、居ることに気づいてもう3日になる。
本当は、カインハウザー様に報告しないといけないのだろうけど、危険な感じもしないし、様子を見てます。
なにより、仲良く出来そうならもふりたい!
だって、狼犬の毛って、秋田犬やハスキー犬の上毛みたいにゴワゴワしてそうなのに、あの柔らかそうな毛並み! 櫛を入れてつやつやにしてあげたい。(実は、腰につけたポーチの中に用意している)
お腹を空かせてギラギラしてそうなら三鈴に頼んで、カインハウザー様やリリティスさんを呼んで貰うつもりだけど、ああして、こちらの様子を覗うだけで、襲っても来ないし近寄りもしない。
たぶん、あの子が、サヴィアが困ってる、畑に糞をする山犬(仮定)なんだろう。
仲良くなって、ご飯をあげられるようになったら、トイレの躾もして、飼えるかな? とか期待したり。
動物の毛が、お母さんの呼吸器によくないだろうと、ペットを飼うことは許されなかったので、憧れるのだ。
サヴィアに相談したら、きっと否定的な言葉しか聞けないだろう。畑を糞で荒らし、他の畑は盗み食いするのに、サヴィアの畑のものは手を出さないので、嫌っているだろうから。
「ねえ、三鈴? あの樹の向こうに、大型犬が居るでしょう?」
《3日くらい前から、ずっとこちらを見てるわね》
「あの子と仲良く出来ると思う?」
《え~? 私の花を踏み荒らしたりしないかしら》
花の妖精だけに、やはりそこが気になるよね。
でも、あのふわふわのおしっぽが、もこもこのお耳が、触りたくて仕方がない。
でも、中途半端な覚悟で野生動物に係わるのはよくない、というのも解ってる。
餌付けしたがために、田畑や庭を荒らすようになったり、気軽に人前に出るようになり、動物の扱い方を正しく知らない人や心ない人の扱いに、恐慌状態に陥って相手を傷つけてしまったり。
糞や抜け毛の被害も少なからず出て来る。
すべて躾けられて、面倒を見られるのか。
その覚悟はまだなかった。
それに、領主館の、それも領主の寝室の隅に間借りする居候の身で、手間のかかる野生の大型犬を飼いたいなどと言えるはずもない。
でも、精霊との付き合い方を覚えて、ひとりで生きていけるようになったら、もっと大神殿や王都から離れた、もっと言えば他国でもいいから遠くの田舎に行って、ひっそりと暮らしたいのだ。
その道中のお伴や、田舎暮らしの心の支えになる友達が欲しい。
あの子が懐いてくれれば、野生の獣に遭ってもボディガードになるし、話し相手に妖精ばかりだと見えない人には変な子に思われるけど、その点あの子なら、ペットに話しかける寂しい子程度で済む。
冬の寒さにも、妖精の羽衣とあの子の被毛があれば、暖かいに違いない。
なんとか、仲良く出来ないかな……
🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯 🔯🔯🔯
次回、新章 Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
1.やってみよう、稲作農家①
54
あなたにおすすめの小説
召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます
かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~
【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】
奨励賞受賞
●聖女編●
いきなり召喚された上に、ババァ発言。
挙句、偽聖女だと。
確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。
だったら好きに生きさせてもらいます。
脱社畜!
ハッピースローライフ!
ご都合主義万歳!
ノリで生きて何が悪い!
●勇者編●
え?勇者?
うん?勇者?
そもそも召喚って何か知ってますか?
またやらかしたのかバカ王子ー!
●魔界編●
いきおくれって分かってるわー!
それよりも、クロを探しに魔界へ!
魔界という場所は……とてつもなかった
そしてクロはクロだった。
魔界でも見事になしてみせようスローライフ!
邪魔するなら排除します!
--------------
恋愛はスローペース
物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!
ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません?
せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」
不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。
実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。
あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね?
なのに周りの反応は正反対!
なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。
勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?
元・神獣の世話係 ~神獣さえいればいいと解雇されたけど、心優しいもふもふ神獣は私についてくるようです!~
草乃葉オウル ◆ 書籍発売中
ファンタジー
黒き狼の神獣ガルーと契約を交わし、魔人との戦争を勝利に導いた勇者が天寿をまっとうした。
勇者の養女セフィラは悲しみに暮れつつも、婚約者である王国の王子と幸せに生きていくことを誓う。
だが、王子にとってセフィラは勇者に取り入るための道具でしかなかった。
勇者亡き今、王子はセフィラとの婚約を破棄し、新たな神獣の契約者となって力による国民の支配を目論む。
しかし、ガルーと契約を交わしていたのは最初から勇者ではなくセフィラだったのだ!
真実を知って今さら媚びてくる王子に別れを告げ、セフィラはガルーの背に乗ってお城を飛び出す。
これは少女と世話焼き神獣の癒しに満ちた気ままな旅の物語!
転生幼子は生きのびたい
えぞぎんぎつね
ファンタジー
大貴族の次男として生まれたノエルは、生後八か月で誘拐されて、凶悪な魔物が跋扈する死の山に捨てられてしまった。
だが、ノエルには前世の記憶がある。それに優れた魔法の才能も。
神獣の猫シルヴァに拾われたノエルは、親を亡くした赤ちゃんの聖獣犬と一緒に、神獣のお乳を飲んで大きくなる。
たくましく育ったノエルはでかい赤ちゃん犬と一緒に、元気に楽しく暮らしていくのだった。
一方、ノエルの生存を信じている両親はノエルを救出するために様々な手段を講じていくのだった。
※ネオページ、カクヨムにも掲載しています
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
もふもふと始めるゴミ拾いの旅〜何故か最強もふもふ達がお世話されに来ちゃいます〜
双葉 鳴
ファンタジー
「ゴミしか拾えん役立たずなど我が家にはふさわしくない! 勘当だ!」
授かったスキルがゴミ拾いだったがために、実家から勘当されてしまったルーク。
途方に暮れた時、声をかけてくれたのはひと足先に冒険者になって実家に仕送りしていた長兄アスターだった。
ルークはアスターのパーティで世話になりながら自分のスキルに何ができるか少しづつ理解していく。
駆け出し冒険者として少しづつ認められていくルーク。
しかしクエストの帰り、討伐対象のハンターラビットとボアが縄張り争いをしてる場面に遭遇。
毛色の違うハンターラビットに自分を重ねるルークだったが、兄アスターから引き止められてギルドに報告しに行くのだった。
翌朝死体が運び込まれ、素材が剥ぎ取られるハンターラビット。
使われなくなった肉片をかき集めてお墓を作ると、ルークはハンターラビットの魂を拾ってしまい……変身できるようになってしまった!
一方で死んだハンターラビットの帰りを待つもう一匹のハンターラビットの助けを求める声を聞いてしまったルークは、その子を助け出す為兄の言いつけを破って街から抜け出した。
その先で助け出したはいいものの、すっかり懐かれてしまう。
この日よりルークは人間とモンスターの二足の草鞋を履く生活を送ることになった。
次から次に集まるモンスターは最強種ばかり。
悪の研究所から逃げ出してきたツインヘッドベヒーモスや、捕らえられてきたところを逃げ出してきたシルバーフォックス(のちの九尾の狐)、フェニックスやら可愛い猫ちゃんまで。
ルークは新しい仲間を募り、一緒にお世話するブリーダーズのリーダーとしてお世話道を極める旅に出るのだった!
<第一部:疫病編>
一章【完結】ゴミ拾いと冒険者生活:5/20〜5/24
二章【完結】ゴミ拾いともふもふ生活:5/25〜5/29
三章【完結】ゴミ拾いともふもふ融合:5/29〜5/31
四章【完結】ゴミ拾いと流行り病:6/1〜6/4
五章【完結】ゴミ拾いともふもふファミリー:6/4〜6/8
六章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(道中):6/8〜6/11
七章【完結】もふもふファミリーと闘技大会(本編):6/12〜6/18
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる