異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

22.順風満帆だったはずの日常生活

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 とにかく、二鈴ジリーン一鈴ヘンリーンも怯えきって、こちらの問いかけに反応しない。

 これは尋常じゃない事が起こったのではあるまいか。

 商工会の長達は、非常事態も視野に、初期の警戒態勢に入るよう言い含め、街に戻した。

「やはり、前々から言っていた魔獣か?」
 ドルトスが机の上にこの辺りの地図を広げる。これも、精霊に鳥瞰図の全体像を確認させられる者ならではの、他にはない正確さだ。

「セル坊の畑付近で寝泊まりしてるんだな?」
 こんな時になんだが、「坊や」はやめて欲しい。

「辺りの畑から作物を盗んではいるが、用を足したり皮や種などを埋めたりするのは、わたしの畑だけらしいな……」
 シオリの友人の妖精サヴィアが、作物を盗らずゴミ処理場にしている事を憤慨していた。

「嬢ちゃんは、いつも畑に行ってるのか?」
「ここしばらくは畑の向こう、川沿いに作ったタンボ、いやスイデンだったか? に行ってるはずだ。スイデンには、ヒラスやカルダ爺さん達がいるはずだから、一人ではない。 
 ただ、今は昼食時だし、その川を越えた先の、花畑で遊んでるんじゃないかと思ってたのだが……」

 地図を見ながら、考える。昼飯時の鐘が鳴ったから、ヒラス達はタンボのふちの土手や木蔭で休んでいるだろう。
 シオリは、一緒かもしれんが、妖精達と喋りながら食べるからとよく川を越えて花畑に行っていると聞いている。

「魔獣か野犬か魔族かがいるってのに、一人にしてるのか?」
 ドルトスが眉をひそめる。
「精霊の加護と妖精の保護がついているから、妖精の羽衣もあるし、たいていの事は……」

 言いながらも、自分でもわかる。そうじゃない。それらの守護が及ばない事態になれば、ヒラス達や妖精ではどうにもならないのだと。
 シオリが神子の力を発揮して瘴気を払い、精霊が神の槍となって貫き、精霊の祝福を受けた騎士が屠らねば、奴らは止まらないのだと。

 それで、昨年、この国の唯一の巫女は亡くなってしまったではないか……!!


 なんだか、具合が悪くなってきた。何年ぶりだ?
 心の臓がドッドッドッと大量に血を巡らし、逆に肺は弱々しく息を吐き、うまく吸えなくて、前が少しづつ暗くなってくる。

「……ック! セ……!! ぃろ!」
 ドルトスが、何かを喚いているが聴こえない。耳の奥でギンギンと煩く鳴るものがあり邪魔をする。

 床に膝をつき、破らんばかりの力でシャツの合わせ目を握り締め、机に寄りかかりながらも、なんとか空気を求め喘ぐが、少しも吸えない……

 脳裏に浮かぶ少女がどんどん遠くなっていく。

 ──わたしは、また、間に合わないのか……


あるじ!! 失礼します」
 もの凄く重い衝撃を受け、背筋が痛む。
 しかし、咳ごみながらも、大量の空気が喉を通って肺に入ってくる。
 ああ、シオリに言わせると、空気ではなく「サンソ」だったか?

 少々手荒な扱いを受けたようだが、なんとか、自宅の執務室に居ながらにして窒息するという間抜けな死を迎えるハメにはならずに済んだようだ。

「コフコフ……リリ……ス、すまん、助かった」
「いいえ、私は主の副官ですから」
 自分で強力な魔術をぶつけたのであろうわたしの背を、シオリよりもやや大きくわたしのそれよりも小さい白い手でさすり、泣きそうな眼をしつつ口元だけで微笑む。

「セルティック、大丈夫か? 薬師でも呼ぶか?」
「いえ、それには及びません。リリティスの一撃がかなり強力に効きました」

 勿論、魔術自体は効かないが、圧縮した空気の塊を力一杯ぶつけたのだ。一応、魔術による精霊の霊力や魔力は効かないが、圧縮空気弾による物理的な衝撃は受ける。受ける衝撃に違いはあるが、石を投げるのと同じだ。

 多少背が傷むが立ち上り、コサージュを外して机に置き、霊気をこめて一鈴ヘンリーンを呼ぶ。
 カナグルムや各衛士隊の部隊長が何人か居たが、見られても構っていられない。

一鈴ヘンリーン! 返事をしろ。何があった? さっきのはなんだ」
 重ねて呼ぶと、小さな白絹草の花から顔を出し、震えながら、答える。

《わからない……》
「わからない? どう言う事だ? なにがわからない? さっきあんなに悲鳴をあげたではないか」
 
《わからないの。三鈴トリリーンの恐怖が伝わってきて、凄く取り乱してて、真っ白で、何があったのか、よくわからないの……》



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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

 23.冥い寒い病んだ霊気の恐怖
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