106 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
69.信頼するのと信頼たるかは別の話②
しおりを挟む「それでもいい?」
「はい。私が、カインハウザー様達のお役に立てるなら、利用されてもいいんです」
カインハウザー様が、私の能力なり精霊に好かれる体質なりを、領民のために都合良く利用したいと思ったとして、そのために、居場所を与え、食事を与え、親切な大人の顔を見せるのだとしても。
そのためになら、私は……
「ストップ」
カインハウザー様が大きな手で、私の口を押さえる。
「言っては駄目だよ」
「シオリちゃん、なるべく、そういう言質を取らせちゃ駄目よ。あなたと主は、たくさんの精霊の加護を持ち、嘘をつかないと誓約したでしょう?
そう言った宣言は、時には、契約になってしまう事もあるの」
気を許して、本気で言った言葉なら尚のこと。
「シオリがそう言ってくれる言葉を、わたし達が利用して、それこそ奴隷のように何でもやらせるかもしれないよ?」
「そんな事にならないと思っているから。それに、そうなっても後悔しないからこその信頼です」
「シオリ」
「はい。もう、言いません。ですが、そういう気持ちもわかっていただけると嬉しいです」
悲しそうな顔をして、リリティスさんが私にしがみつくように、抱きしめてきた。
「そんな顔をさせてごめんなさい。依存してる……つもりはないんですが、そうならないようにちゃんと自分の足で立てるよう頑張りますから……
なにか、お仕事をください。あの小屋で、一人で生きていけるように、この街での役割をください」
*****
今の私は、セルヴァンスさんメリッサさん夫婦の後見で、この館で下働き見習いをしている子供だ。
この秋で15歳になり、この国の法律で成人と見なされ、独り立ちする予定である。
そのために、リリティスさんの住んでいた小屋も与えられた。後は、大人としての仕事だ。
自分の稼ぎで食べられるようになったら、ここへシーグを連れてきたい。
「どんな仕事につきたいか、色々やってみるのもありかもね」
そう言って、ウインクしてくれたリリティスさんについて、街をまわっている。
いつも挨拶をしてくれる粉屋のお兄さん、鍛冶屋のおじさん。猟師会、農協のおじさん達。
小物、雑貨店のおばさん。
残念だけど、この、そう大きくない街の中では、人を雇うほど大規模な商業は多くない。
みな、家族内だけで仕事をまわしている。どうしても手が足りないときだけ、萬屋を通して、人を一時雇いするのだそう。
私の(日本の)認識でいくと、萬屋と言えば、なんでも売ってる雑貨店に近いものなんだけど、ここでは、あちらで言うなんでも屋に近いらしい。
人々の依頼に合わせて、見合った能力を持った人を派遣する場所なんだとか。
ファンタジー小説で言う、冒険者ギルドみたいなものかしら?
でも、この街は国境近くの砦街なので、元々ドルトスさんやロイスさん達のような衛士隊が配置されていて、傭兵や護衛士のような、戦闘職種の人達はいなかった。
「ここで、色んなお手伝いをしながら、自分に合った仕事を探る人もいるわ」
多くの人は、親について、手伝いながら技術や仕事を受け継いでいったり、自分の興味のあることのプロに師事して、下働きをしながら学んでいくものらしい。
武器が好きな人は、刀鍛冶に弟子入りしたり、武器屋で働きながら知識と目利きを蓄えたり。
親が農家なら、家族総出で手伝いながら、畑を受け継いでいったり。
でも、私の親はいないし、受け継ぐ田畑もない。
「あら、本当に農業をやりたいなら、畑を用意するわよ?」
「え?」
「言っただろう。この国の土地は総て国有地だと。
家も独り立ちする若者に用意するように、領主の判断で、農家を希望する者に畑も分け与えるし、その者の能力に合わせて、与える畑の範囲も決める。
君が、山猪を飼って食肉に卸したいと言うのなら養豚場を紹介するし、刺繍や編み物が好きだと言うのなら、街の仕立屋を紹介する」
本当に、領地を任された貴族や領主の裁量で家や土地や職業が決まるの?
中には、自分の好きな人に優遇したり、気に入らない人に不遇したりする人はいないのだろうか。と思ったら、それなりに過去にはそう言う領主もいたらしい。
評判のよくない領主や貴族は、定期的に転地──領地替えをさせられ、それでも改められなければ、領主や貴族として認められなくなり、最終的にはなんの権限もない一平民に落とされるのだという。
「まあ、平民に落とされる前に、場合によっては投獄や財産没収、たいていが色んな権利や資格を失う事になるけどね」
わたしは、そんな目に合わされる前に辞職して、この国境近くの田舎に引っ込んだんだけどね。
とても明るく笑って言えることではないように思うけど……
カインハウザー様のようにちゃんとした領主さまが、身分を剥奪されるかもしれないなんて、そんな事があるのだろうか……?
「そんな事より、シオリは何をしたいのかな?」
「何をしたいか、ですか? 何が出来るのか、ではなくて?」
「したい事があるなら、まずはそちらを優先した方がいい。どうせなら楽しく働きたいだろう?」
どうしても無理そうなら、違う職に変わればいいさ。
そう言って、一日で歩いてまわれるくらいの小さな街を案内してくれた。
36
あなたにおすすめの小説
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない
猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。
まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。
ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。
財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。
なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。
※このお話は、日常系のギャグです。
※小説家になろう様にも掲載しています。
※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる