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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
70.夕方はパティシエール?
しおりを挟む日本でのように、気軽に飲食店でアルバイトという訳にもいかず、かと言って、何かの技術を習いたいという希望がある訳でなく。
「私って、何もないのね」
子供の頃から何になりたいとか希望があった訳でもなく、ただひたすら、学校に行って、買い物して帰って、家事をする。それが毎日の繰り返しで、本を読む以外は、したい事なんて特になかった。
得意とはいかなくても、家事全般は出来るけど、だからといって、メリッサさんのように、ハウスメイドのプロにはなれないと思う。
「でも、私に出来る事って家事くらい……」
後はこの精霊に好かれるという体質を活かして、精霊術を学ぶか神殿へ行って巫女の訓練をするか。
そのどちらも、ここを出て行く事になる。
その場合、シーグを連れていけないだろうし、飼うことは今よりも難しくなるだろう。
「そんなに難しく考えなくても、とりあえずしばらくは今まで通りでもいいんじゃない?」
リリティスさんがにっこり微笑んで、背を撫でてくれる。
「でも……」
「15歳になる秋までまだあるし、今だって、この屋敷のハウスキーパーをしながら、お勉強したり、タンボをみたりしてるでしょう?
他に何か見つかるかもしれないし、その内のどれかが正式のお仕事になるかもしれないわ。ね?」
カインハウザー様は、何も仰らなかった。
* * * * *
メリッサさんと一緒にデザートを作り、夕食に出されたのを黙って食べてると、やはりメリッサさんのようには上手くいってないからだろう、私の作った分だとすぐにバレた。
「うう…… お二人には、メリッサさんのちゃんとした方を出すべきデショ」
「何を仰いますか。お嬢さまが心をこめて作られたものこそ、お二人に食べていただくべきでございます」
現在、メリッサさんはお仕事モード。
お仕事中のメリッサさんにとって、私は、カインハウザー様から預かった養い子ではなく、メイド長として仕えるお嬢さまらしい。
ハウスメイドとしても、調理場のデザート監修者としても、上司であり、身分証の続柄でも養母なのだから、お嬢さまと呼んだり、仕えるなんて接し方はやめて、普通に他のメイド達と同じようにして欲しいと、何度言っても聞いてくれなかった。
「そんなに謙遜しなくても、シオリのデザートは美味しいよ。それに、ワガシだったか? ミカサ焼きやミタラシダンゴも、見た目もスタイリッシュでとても美味だった」
出たよ。カインハウザー様の、知らない異国の物大絶賛。
稲作に籾種として使わなかったお米を、石臼で挽いて米粉を作り、和菓子を幾つか作ってみたことがある。
大絶賛だった。
日本で作るほど上手く作れるわけではない。
醤油も味噌も、以前にテレビで観たうろ覚えの知識で、ここで似た材料を工夫したものなのだ。
大豆に似た豆でも微妙に大豆じゃないっぽいし、砂糖はサトウキビからではないらしい。
材料も、よく解らないものを使って失敗したくなくて、私の蜂蜜で作るから、砂糖とは勝手が違うしちょっと味も違う。
「シオリ、勘違いしてないか? シオリの手料理は、味や見た目にかかわらず、すぐに判るんだ。
精霊の加護があるから、マナや霊気がたっぷり含まれててね、ぼんやり全体的にマナが光ってるんだよ」
まさかの光るお料理!?
「私は、精霊を視る力がないからはっきりと光ってるわけじゃないけれど、精霊に好かれる人が作ったものだとは判るわ。グレイスのも、シオリほどハッキリはしてないけど同じよ」
どうやら、私は精霊を視れるようになって満足してる場合ではないらしい。
「グレイスとシオリの料理を並べても、それぞれの霊気の痕跡が判るからね、そっくり同じ盛り付けをしてもどちらがどちらの調理したものか判るよ」
むむむ。霊気を注入したつもりはないけど…… 光ってるとな?
目を凝らしても解らなかった。
「そうだな。メリッサのデザートももちろん美味しいが、マナや霊気のこもったデザートは一日の疲れを回復するのに効果が高い。
どうだろう、夜のデザートは、シオリの当番というで事で、しばらくはやってみないか?」
「え、で、でも、私、この地の食材や調理器具はまだそんなに慣れてなくて……」
「何もフルコースを作れって言ってる訳じゃない。夜のデザートだけだよ」
昼間はハウスメイドさん達のお手伝いや、田んぼの様子を見にいかなくてはいけない。夕方から夕飯までに、デザートを用意する。
そういう事になった。
明日は、朝から田んぼを見にいって、シーグをブラッシングして、カインハウザー様の畑のものが幾つか収穫期にはいるから確認して……
明るい内に帰ったら、夕飯のメニューを聴いて、合うデザートをメリッサさんに相談して……
明日もやることいっぱい…… だな……
《シオリ、今日も〝祈りの眠り〟の魔法カケル?》
「ううん、いいわ。起きれなかったら困るし……
もっと疲れが溜まってきた頃に、お休みの日の前の夜に頼みます……ね……」
今夜も、リリティスさんの思い出の小屋で、ひとりで眠りに落ちた。
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