異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

71.ファジーでイージーにクッキング

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 寝坊した!? とか思ったけど、腕時計は7時を過ぎたくらいだった。ここの一日は25時間だから、まだ6時って事だよね。

 今日は、朝のパン捏ね当番じゃなくてよかった。

 慌てたけど、とりあえずすぐに着替えて、調理場の桶に水を張ろうとしたら、遊んでた霧のような水霊が、ふるふる震えて水になって溜まってくれた。もしかして水道要らず?
 汲み置きのかめの蓋を開ける必要もなく、さっと顔を洗い、メリッサさんと一緒につくった化粧水をはたいて、小屋を出る。

 お屋敷までの途中、花畑に寄ってサヴィアンヌが気に入った花の蕾を収穫し、お勝手口からお屋敷に入る。
 今朝のパン当番は作業を終え、厨房は、朝食のおかずと、昼食夕飯の仕込みをしていた。

「遅くなりました」
「あら、まだ大丈夫よ」
「お屋形様とリリティス様の、お皿やカトラリーをセットしてくれる?」
「はい」

 戸棚から出した私の蜂蜜とさっき積んだ花を、空き瓶に入れて蜜漬けの蕾を作って、戸棚にしまう。これは明日以降にサヴィアンヌが食べる分、と。

 食堂の上座に、カインハウザー様の大皿と手巾をたたんでカトラリーを揃え、いつものリリティスさんの席にも並べる。

 そういえば、どうしてリリティスさんは、この領主館で寝泊まりして、カインハウザー様と一緒に食事してるんだろう。

 秘書官だから? 使用人ではないから、まかない食堂で食べなくてもいいのかしら?

 おふたりのセットを済ませると、厨房へ戻り、グレイスさん以外の料理人の竈の火霊を撫でておく。
「焦がしたり、料理人さんを困らせないでね?」

 以前なにげにこう言ってあげた時、調理の具合が良かったとかで、それ以来、毎朝、こう言ってあげる習慣になっている。精霊に好かれる体質らしいので、その私が労うと、喜ぶのだ。

 物理的な火ではなく、火の性質を持った自然の霊気なので、、触っても火傷したりしないのだ。
 きっと、カインハウザー様も同じだろう。

 今日のメインディッシュを確認し、メリッサさんとどんなデザートを作るか相談する。


 楽しかった。

 子供の頃──今でも大人とは言い難いけど、もっと小さかった頃、まだ元気だった母とゼリーを作ってみたり、テーブルロールパンを作ったりした事を思いだした。

「シオリ?」
 メリッサさんがそっと抱き寄せてくれる。ふかふかの胸元。母より弾力性が高く温かい。

「ごめんなさい。大丈夫です。ちょっと、母とお菓子を作ったりした時のことを思い出して……
 悪い涙ではないので、心配しないでください」
「そうね。でも、貴女は、両親を一度に亡くしたばかりの、14歳の少女よ。時には感傷的になってもいいのよ。ご両親を偲んで涙するのは当たり前だわ。
 ただ、誰も見てないところで、たった一人で泣いてはダメ。住民基本台帳の上では、私達は義理ではあっても親子よ? いつでも頼ってちょうだい。甘えたっていいのよ」
「だったら、お嬢様なんて呼ばないで?」
「勿論、今は緊急時だもの、貴女の養母のお母さんメリッサよ。シオリってちゃんと名前で呼ぶわ。
 でも、お仕事中は、職務に忠実な家政婦長マム・ティルジットで、貴女はお屋形様にお預かりした、大切なお客人シオリお嬢様なの……それは、許して頂戴」

 頑なと言うか、融通が利かないというか……
 プロ意識高すぎよ。メリッサさん。

 裏庭に面した調理場の、壁際に設置されたカウチに並んで座り、メリッサさんの膝に俯せて、温かみを感じながら泣いた後、少し母とのお菓子づくりの想い出を話した。

 任されたのは夕食後の甘味だけど、朝のデザートやお茶の時間のお茶請けなども、メリッサさんと一緒に作ることになった。


 * * * * * 


《シオリ、今日は、畑に行かないノ?》
「行くわよ? もちろん」

 ブラウニーがかき混ぜてくれるボウルの様子を覗いながら、飾りの蜜漬けフルーツや花をトレーに並べる。
「今日のカインハウザー様のお茶の時間にお出しするシフォンケーキを完成させたらね」

 鍛冶屋のオジサンに作って貰ったシフォン型に生地を流し込み、裏庭に出る。
 石工の人や料理人と一緒に相談して組み上げた、硬質焼の煉瓦の石窯オーブンには、私と約束事をした小粒の火霊が棲んでいる。
 普段は窯の外で自由にしているが、私や領主邸の料理人達がオーブンを使う時は、低温の時は一体、中温の時は二体、高温の時は三体で、まんべんなく食材を焼き上げてくれる約束になっている。

 狭い空間を嫌がる性質なので、普段はオーブンの外にいて、窯の上で薪を炭にする(彼らにとっては遊び、私達には)お手伝いをしている。

「みんな~、いいかな? このお菓子は、始めは中温の180℃で10分、その後低温の160℃で20分ほど焼いて欲しいの」

 精霊達の都合のいいところ。それは、ここの時間や温度などの単位が違っても、私の中のイメージが伝わるので、ファジーに頼んでも、日本での経験の通りに結果が出るところ。

 そう。カインハウザー様には、ここの調理器具は慣れないからと言ってみたものの、精霊と交信できるようになってからは、いざやってみると、私の中にしっかりとした結果がイメージ出来ていれば、精霊達はそのまま忠実に実行してくれるのだ。




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