109 / 294
Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
72.収穫祭は、街のみんなも楽しみです
しおりを挟む勤勉で可愛い火霊達のおかげで、日本で作るのとそんなに変わらない出来栄えのシフォンケーキが焼きあがった。
日本と違って、冷蔵庫なんてない。
裏庭の隅にある、地下へ向かう階段の奥は、氷室になっている。そこから、食材や氷を調達するのが普通だけど、水霊達やアリアンの訓練を兼ねて、私は、氷などの単純なものはお願いして、大気中の湿気や霊気から氷を創り出す事にしていた。
「便利なもんだな、精霊使いってのは」
「最初は、精霊なんて見えません、声も聴こえません、本当に居るんですかって言ってたのにねぇ」
グレイスさんも、感心しながら、私の霊気と魔力とマナで作り出した氷を見ている。
ボウルに氷を敷き詰め、ひとまわり小さいボールにミルクの上澄みクリームを入れて、僅かに砂糖を加えて、泡立て器で混ぜ合わせる。
硬くならない程度に角が立ったら、切り分けたシフォンケーキにのせて、蜜漬けのフルーツや花を盛り付ける。
「はあ~、すっかり菓子職人だね、シオリは」
「まだまだ、家庭のおやつレベルです」
セルヴァンスさんが、トレーにティーセットと一緒に私が盛り付けたシフォンケーキを載せて、準備しているのを見届けると、お弁当を用意して、街に出た。
✻✻✻✻✻
今日はどうやって、町の外に出よう……
こないだみたいに、都合よくお爺ちゃんズやヒラスさんに会えそうにない。だってもうすぐ四の刻(10時)だもん、みんなとっくに行ってるよね。
困ってると、門衛士の詰め所から、ハルカスさんが出てきた。
「やあ、小さな領主夫人・フィオリーナ」
「……は、ハルカスさんまで、そんな事仰るんですか?」
ハルカスさんは、肩をすくめるだけで、街道へ出る門の方へ馬をひいていった。
「ハハハ。仕方ないだろう。街を救った精霊の愛し子で、領主様の大切にされている女性なんだから」
「街のみんなは、今年の秋の収穫祭を楽しみにしているよ」
そう言って、ベーリングさんとキーシンさんが、槍を片手に詰め所から出てくる。
どうやら、花畑の休眠中の瘴気の見張りの交代に行くらしい。
「収穫祭は盛大に行われるんですか?」
「それもあるけど、冬は雪が多くて大変だし、春から夏は農家は忙しいだろう?
この辺りじゃ、結婚式などの祝い事の多くは秋に行われるんだよ」
「結婚式? どんな感じなんですか? みんなで神殿まで行って、行うんですか?」
「神殿? いいや。大抵は、街の大広場で、10日間続く収穫祭の中日あたりで、今年成人する若者の祝いと、新たに結婚する者たちの祝いをやるんだよ」
「お祭りで、一斉に? 楽しそう……」
10日も続く収穫祭! その中で、成人式と、結婚式があるのね。
大きな街とは違って、神殿がない山中の地方領地や小さな村だと、村長や領主様が取り仕切るんだろうな……
と、思ったら、神殿で刷り込まれ必要に応じてボンヤリ浮かび上がる知識には、神殿で結婚式を挙げるのは、一部の王侯貴族や大店の商人、各地の領主さんでも特に敬虔な信者くらいのもので、一般庶民はやらないみたいだった。
槍を肩に凭せかけ、馬をひきながら、ベーリングさんがにっこり微笑みかけてくれる。
衛士隊の中ではやや年長で、三十路に差しかかったくらいの、精悍で男らしいイケメンさん。
あまり肌の色は濃くなく、細い金糸の髪に、右眼がミントグリーン、左眼がアイスブルーのオッドアイで、とても神秘的な色合いの人である。
左眼の色素が薄いのは、眼の水晶体の中に聖霊を棲まわせているからなんだって。
代々の当主が受け継ぐもので、聖霊に近い大きな力を持っていて、武器に加護を付与してくれたりして、完璧ではないものの、穢れを撃退(退治はしきれないらしい)出来るとかで、ここの守りの要の人物でもある。
見た目と年齢に見合った美声の持ち主で、街の若い女の子達に人気があるみたい。
「今年は、フィオちゃんのおかげでどの畑も大豊作だし、大角羊や岩ヤギ、山猪もたくさん子供を産んで、来年は冬越しの毛皮に余裕が出て、王都の方へ売れるくらいになるかもしれないよ」
「私は、ただ精霊に好かれてるだけで、何もしてません」
「それでも、フィオちゃんが精霊に真摯に向き合って、彼らと仲良くしてくれるから恵みがあるんだから、やっぱりフィオちゃんのおかげだよ」
優しい眼で労ってくれるが、特別に私が何をしたでもなく、ただ精霊にそっぽを向かれないように、なるべく彼らに寄り添えるようになる事だけでいっぱいいっぱいなのに。
「ありがとうございます。私も、成人式が楽しみです」
「あ~、いや、楽しみなのは成人式だけじゃないんだけどな……結婚……式とか、さ」
「もちろん、収穫祭や、地母神テラス様への感謝祭も楽しみです!」
「ははは、ベーリングさんの言いたいことは伝わってないみたいですね」
言葉遣いの丁寧なキーシンさんは、王都に別宅のある上級貴族の三男坊。
三男ともなれば、滅多にお家を継ぐこともないので、騎士団に入って、カインハウザー様の部隊で活躍していたそう。
カインハウザー様が退役されて、この街に戻ってくるとき、直属の部下の殆どが、この街に移り住んだんだって。
慕われてるんだな、カインハウザー様。
46
あなたにおすすめの小説
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
婚約破棄から50年後
あんど もあ
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王子が婚約者に婚約破棄を宣言した。王子は真に愛する女性と結ばれ、めでたしめでたし。
そして50年後、王子の孫の王子は、婚約破棄された女性の孫と婚約する事に。そこで明かされた婚約破棄の真実とは。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
転生したら幼女でした!? 神様~、聞いてないよ~!
饕餮
ファンタジー
書籍化決定!
2024/08/中旬ごろの出荷となります!
Web版と書籍版では一部の設定を追加しました!
今井 優希(いまい ゆき)、享年三十五歳。暴走車から母子をかばって轢かれ、あえなく死亡。
救った母親は数年後に人類にとってとても役立つ発明をし、その子がさらにそれを発展させる、人類にとって宝になる人物たちだった。彼らを助けた功績で生き返らせるか異世界に転生させてくれるという女神。
一旦このまま成仏したいと願うものの女神から誘いを受け、その女神が管理する異世界へ転生することに。
そして女神からその世界で生き残るための魔法をもらい、その世界に降り立つ。
だが。
「ようじらなんて、きいてにゃいでしゅよーーー!」
森の中に虚しく響く優希の声に、誰も答える者はいない。
ステラと名前を変え、女神から遣わされた魔物であるティーガー(虎)に気に入られて護られ、冒険者に気に入られ、辿り着いた村の人々に見守られながらもいろいろとやらかす話である。
★主人公は口が悪いです。
★不定期更新です。
★ツギクル、カクヨムでも投稿を始めました。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる