異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

72.収穫祭は、街のみんなも楽しみです

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 勤勉で可愛い火霊達のおかげで、日本で作るのとそんなに変わらない出来栄えのシフォンケーキが焼きあがった。

 日本と違って、冷蔵庫なんてない。
 裏庭の隅にある、地下へ向かう階段の奥は、氷室になっている。そこから、食材や氷を調達するのが普通だけど、水霊達やアリアンの訓練を兼ねて、私は、氷などの単純なものはお願いして、大気中の湿気や霊気から氷を創り出す事にしていた。

「便利なもんだな、精霊使いエレメンタルマスターってのは」
「最初は、精霊なんて見えません、声も聴こえません、本当に居るんですかって言ってたのにねぇ」
 グレイスさんも、感心しながら、私の霊気と魔力とマナで作り出した氷を見ている。
 ボウルに氷を敷き詰め、ひとまわり小さいボールにミルクの上澄みクリームを入れて、僅かに砂糖を加えて、泡立て器で混ぜ合わせる。
 硬くならない程度に角が立ったら、切り分けたシフォンケーキにのせて、蜜漬けのフルーツや花を盛り付ける。

「はあ~、すっかり菓子職人だね、シオリは」
「まだまだ、家庭のおやつレベルです」

 セルヴァンスさんが、トレーにティーセットと一緒に私が盛り付けたシフォンケーキを載せて、準備しているのを見届けると、お弁当を用意して、街に出た。


 ✻✻✻✻✻


 今日はどうやって、町の外に出よう……

 こないだみたいに、都合よくお爺ちゃんズやヒラスさんに会えそうにない。だってもうすぐ四の刻(10時)だもん、みんなとっくに行ってるよね。

 困ってると、門衛士の詰め所から、ハルカスさんが出てきた。
「やあ、小さな領主夫人レディ・フィオリーナ」
「……は、ハルカスさんまで、そんな事おっしゃるんですか?」
 ハルカスさんは、肩をすくめるだけで、街道へ出る門の方へ馬をひいていった。

「ハハハ。仕方ないだろう。街を救った精霊のめぐで、領主様の大切にされている女性ファースト・レディなんだから」
「街のみんなは、今年の秋の収穫祭を楽しみにしているよ」
 そう言って、ベーリングさんとキーシンさんが、槍を片手に詰め所から出てくる。
 どうやら、花畑の休眠中の瘴気の見張りの交代に行くらしい。

「収穫祭は盛大に行われるんですか?」
「それもあるけど、冬は雪が多くて大変だし、春から夏は農家は忙しいだろう?
 この辺りじゃ、結婚式などの祝い事の多くは秋に行われるんだよ」
「結婚式? どんな感じなんですか? みんなで神殿まで行って、行うんですか?」
「神殿? いいや。大抵は、街の大広場で、10日間続く収穫祭の中日あたりで、今年成人する若者の祝いと、新たに結婚する者たちの祝いをやるんだよ」
「お祭りで、一斉に? 楽しそう……」

 10日も続く収穫祭! その中で、成人式と、結婚式があるのね。
 大きな街とは違って、神殿がない山中の地方領地や小さな村だと、村長や領主様が取り仕切るんだろうな……
 と、思ったら、神殿で刷り込まれ必要に応じてボンヤリ浮かび上がる知識には、神殿で結婚式を挙げるのは、一部の王侯貴族や大店の商人、各地の領主さんでも特に敬虔な信者くらいのもので、一般庶民はやらないみたいだった。

 槍を肩に凭せかけ、馬をひきながら、ベーリングさんがにっこり微笑みかけてくれる。
 衛士隊の中ではやや年長で、三十路に差しかかったくらいの、精悍で男らしいイケメンさん。
 あまり肌の色は濃くなく、細い金糸の髪に、右眼がミントグリーン、左眼がアイスブルーのオッドアイで、とても神秘的な色合いの人である。
 左眼の色素が薄いのは、眼の水晶体の中に聖霊を棲まわせているからなんだって。
 代々の当主が受け継ぐもので、聖霊に近い大きな力を持っていて、武器に加護を付与してくれたりして、完璧ではないものの、穢れを撃退(退治はしきれないらしい)出来るとかで、ここの守りの要の人物でもある。
 見た目と年齢に見合った美声の持ち主で、街の若い女の子達に人気があるみたい。

「今年は、フィオちゃんのおかげでどの畑も大豊作だし、大角羊ビッグホーン岩ヤギロックゴート山猪ヒルズボアもたくさん子供を産んで、来年は冬越しの毛皮に余裕が出て、王都の方へ売れるくらいになるかもしれないよ」
「私は、ただ精霊に好かれてるだけで、何もしてません」
「それでも、フィオちゃんが精霊に真摯に向き合って、彼らと仲良くしてくれるから恵みがあるんだから、やっぱりフィオちゃんのおかげだよ」
 優しい眼で労ってくれるが、特別に私が何をしたでもなく、ただ精霊にそっぽを向かれないように、なるべく彼らに寄り添えるようになる事だけでいっぱいいっぱいなのに。
 
「ありがとうございます。私も、成人式が楽しみです」
「あ~、いや、楽しみなのは成人式だけじゃないんだけどな……結婚……式とか、さ」
「もちろん、収穫祭や、地母神テラス様への感謝祭も楽しみです!」
「ははは、ベーリングさんの言いたいことは伝わってないみたいですね」
 言葉遣いの丁寧なキーシンさんは、王都に別宅のある上級貴族の三男坊。
 三男ともなれば、滅多にお家を継ぐこともないので、騎士団に入って、カインハウザー様の部隊で活躍していたそう。

 カインハウザー様が退役されて、この街に戻ってくるとき、直属の部下の殆どが、この街に移り住んだんだって。
 慕われてるんだな、カインハウザー様。


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