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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
73.嫁ッコの知識と妖精王
しおりを挟む「畑に行くんでしょう? ご一緒しましょう」
キーシンさんの申し出で、ベーリングさんと3人で、カインハウザー様の畑まで行くことになった。
馬は二頭。人間は三人。
初めは、歩く私に合わせて、二人も馬の手綱を引いて歩いてた。
途中の畑で、アリアンがちょっかいを出し始めると、ベーリングさんは、手にしていた槍をキーシンさんに手渡して、私の脇に両手を差し込み、一気に持ち上げるようにして、馬の背に座らせた。
幸い、乗馬クラブで見るような鞍ではなく、鐙こそついてるものの、騎乗する部分をかなり厚い皮で覆ってるだけで、その形状は同乗者が増えても関係なかった。
元々軍馬で、騎士達もゆったり座って騎乗るものではないのだろう。
中腰で立って乗るために鐙は必要なものの、厚手の毛布のような掛布の上に革の鞍を腹帯で取り付けているだけなのは、横座りの女性や騎手の前後に子供など、同乗者を座らせる状況の前提もなく、敢えて駄つけ畚は必要がないのかもしれない。
私がいちいちアリアンの行動に口を出そうとするので、ベーリングさん達の予定が遅れて迷惑をかけてしまったのだろう。
私の後ろに颯爽と騎乗したベーリングさんと、二人の槍を抱えて騎乗したキーシンさんが、常歩よりやや速めに馬を走らせると、畑の端で水を噴霧して遊んでいたアリアンも気づいて追いかけてくる。
風の精霊をベースに複数の精霊が混ざり合って生まれた精霊だけに、スッと音もなく宙を泳ぐように飛んで来る。
「最初から、こうしていればよかったかな……」
やっぱり、迷惑掛けてたのね。ごめんなさい。
馬が駆けている間は、畚のない鞍の上で捕まるものもないので、しっかりバランスをとっていないと落っこちそうだし、喋ったら舌を噛みそうなので、後で謝ろう。
《私が憑いてて、シオリを馬から落とすワケないでショ》
なんだろう、サヴィアンヌの言葉は、透き通った音が耳から入るけれど、意味は直接頭に響くはずなのに『憑く』って聴こえた気がする……
* * * * *
お爺ちゃんズのいる田んぼで降ろしてもらい、二人は花畑の方へ、見張りの交代に行ってしまった。
手間と時間をとらせちゃったな……
やはり日本のお米とは違うのか、籾っ子ちゃん達の加護のお陰なのか、夏を迎えるに当たって、ちらほら稲穂が実り始めていた。
「籾ッコ達に訊いたんじゃがな、この小さな虫、南の方にはたくさんおって、イネを食べ尽くすこともあるそうなんじゃよ」
そう言ってノル爺さんが見せてくれたのは、小さな小さな羽虫。多分、ウンカに似てるかな。
稲を見ると、アブラムシに似た、1㎜ほどの虫もみっちりついてる穂もあった。
「アブラムシ……かな? トンボとか天道虫がいたらいいんだけどなぁ」
日本の知識だからここでも同じかはわからないけど、江戸時代の大飢饉の原因が、ウンカや蝗だったりするって聞いた事あるかも。
私のバケツ稲作にも、アブラムシもウンカもカメムシもいっぱい来た。その時とった手段は……
「無農薬で行きたいけれど、手で取るのは大変ですよね」
「そうじゃなぁ、雑草や虫が死ぬような薬は、稲にもまわりの他の植物にも、積もれば人にも毒じゃろうからな」
とにかく、私の知識では、天敵の虫や小動物がいるのが一番いいけど、どうやって集めてくるのか、どうやってこの畑に居着いてもらうかが難しそうだよね。
「木酢液ってわかりますか?」
この世界にも利用されているかどうかはわからないけど、ナラやブナ、竹などを炭にするときに出る水蒸気と煙の、冷却蒸溜した水分のことだ。
九割方は水分だが、約1割ほどの酢酸と、僅かなアルコールやフェノールなど何百種もの成分が含まれている。
原液では植物自体を傷めてしまうが、木酢液には水の分子を小さくする効果で通常の水よりも吸収しやすくなるため、1,000倍~2,000倍ぐらいに薄めて土壌に散布すると、根の張りがよくなり、微生物が活性化し堆肥の発酵も促される。
また、300~1,000倍に薄めて霧吹きしたり、刷毛で葉や茎に塗ったりして、害虫や害獣を避けつけない忌避剤にもなり、用途は広い。
「ほんに、嫁ッコは博学じゃな。炭焼きのキノがなんぼか持っとったはずじゃ」
「明日、さっそく持ってこようかの」
「今日の所は、手作業で退治するかのぉ」
お爺さん達が田に入り、茎を軽く握るようにして下から上へ、アブラムシやウンカを手でしごき捕っていくので、手伝う。
《シオリ、田んぼのまわりにニームや蓬菊、苦蓬を植えたりしたらどうカシラ?》
「この世界にもあるの?」
ニームは暖かい地域(インド原産で熱帯地方に多く植生している)の常緑樹で、種子から採れるオイルが虫除けになる。
ニガヨモギは弱いが毒性のある草で、植えているだけで葉の独特の匂いが、虫除けになる。
毒性とはいえ、アブサンというお酒の原料にもなるし、胃腸の薬にもなる。
タンジーはハーブの一種で、シダに似たノコギリのような葉で、花壇に植えていると虫除けになる。
葉をポプリにしたものを棚や倉庫に吊して虫除けにしたり、カーペットの下に入れて、蟻や蚤避けにも使われる。
《あるワヨ。名前は違うケド。テントウ虫はこの辺りにはいないけど、トンボなら、ちょっと待ってもらえたら、用意するワヨ》
サヴィアンヌが蝶々の姿でひらひら飛びながら、自信ありげに請け負った。
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