異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

76.え? ……誰?って言われても……

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「キャーッ!!」

 叫んでしまった。

 でもね、仕方ないと思うのよ?

 狼犬シーグだと思って羽衣を剥ぐったら、出て来たのは男の人だったってだけでもびっくりするけど。

 その男性が、一瞬はどっかで見たような気もするけど思い出せない、知らない人で。

 見た事もない姿──全裸だったら?

 叫ぶよね? 普通。咄嗟に。
 ……私は、悪くないと言いたい。

 私は、お父さんとお風呂をご一緒した事はない。

 幼稚園でも、小学校やもちろん中学でも、プールの時間はあったし、テレビで裸に近い恰好の芸人さんや、水泳選手を見た事はある。

 あるが、生で見る全裸の男性の背中や肩、臀部や太腿は、ショーゲキ的だ。叫んでも罪はないと言いたい。

「静かにしてくれ。誰か来たらどうするんだ」

 悪いが、心臓が張り裂けそうにドッドッドッって言ってるし、呼吸も乱れてるし、思考が止まりそうなんだけど。
 そして、誰か、というより、確実に、ヒラスさんと衛士隊のお兄さんは来るだろう。

「え……誰?」
「え? 誰って……」

 妖精の羽衣の下には、シーグが居るはずである。
 だから、シーグが居なければならない。決して、素っ裸の男性などであってはならない。

「誰なの? その羽衣は……」
「誰って、解らない? 俺だけど」
「名乗らずに俺俺って言う人は詐欺師なのよ」
「なんでそうなる。シオリ、本当に解らないの?」

 私をシオリと呼ぶ変質者(一応は羽衣で色々隠そうとしても、女性の前で素っ裸のまま話しかける男性は変質者でもよくない?)は、可愛らしい、ジャ○ーズ事務所に所属してそうな顔立ちで、羞じて頰は染まってるが、目を反らしたりせず、この眼は見たような……あっ、まさか?

「岸田君? 岸田君もこっちに来てたの?」
 美弥子の召喚に、たまたま側にいた彩愛あやめさんやさくらさん、私まで巻き込まれ召喚されたんだもの。一緒にいた岸田君だって巻き込まれててもおかしくない。どうして、今まで気づかなかったんだろう。

「は? 誰? それ?」
「え? 委員長の岸田君、じゃないの?」
「だから、誰? それ」
「……そっか、そうよね、ここに岸田君がいるはずないよね」
 でも、似てる。

 自己紹介が始まるまでの数分しか顔を合わせてないけど、少し頰を染めて、顔を反らし加減でも眼はこちらを見てる感じとか、サラサラの茶髪とか、岸田君に見えるんだけど……
 目の色はもう少し濃かった気もするけど、室内と屋外では違うよね?
 でも、本人は違うと言うから、違うのかな。

「シオリ、俺だって解ってて羽衣を剥いたんじゃなかったのか?」
「……じゃ、ま、まさか、シーグ……なの?」
「そうだよ。俺だよ」
「だから、名乗らずにやたらオレオレ繰り返す人は詐欺師……」
「それはもういいから。だいたい、こんな山中で、服も着ないでいい歳した男がいたら、痴漢か変質者か、追い剥ぎにあった情けない奴かだろ」
「追い剥ぎにあったら、情けないんじゃなくて、可哀想な被害者なのでは……」
「自分の身も守れずに単身で山に入る奴は、身の程知らずの情けない奴だろ。自分を守る力がないんなら、群れで移動しなきゃ」

 知らず一歩後ろに下がる私に、腕を伸ばそうとした男性(自称シーグ)の、肩から腰に巻いた羽衣が脱げそうになる。
「おっと……」
「っキャーッ」
「いや、だから、シオリ、静かに……」
 
 私をシオリと呼ぶし、声はシーグだ。やはり、この素っ裸の男性は、シーグであるらしい。

 シーグには悪いけど、決定的なモノは見えなかったとは言え、おヘソの辺りまで露わになってるし、叫ぶなって言うのはむり!

「フィオちゃん! 大丈夫かっ!? 何があった?」
「小さな若奥様、大丈夫ですか? 魔獣ですか!? 野盗ですか!? 御身はご無事ですか?」

 いや、だから、若奥様じゃないし!

 私の二度の叫びに、ヒラスさんと衛士隊のお兄さんが駆けつける。
 もちろん、一度目の叫びに反応したから、二度目の悲鳴直後に後ろに居るんだろう。

 こんな山中で、素っ裸のシーグを見られて、なんと言い訳したらいいの?
 紹介もしづらいし、まんま痴漢にしか見えないだろう。

 ヒラスさんも、衛士隊のお兄さんも、シーグのすぐ側に立ち、辺りを警戒する。

 どうやら、見えてないらしい。
 サヴィアンヌは、光と地の霊気で編まれた羽衣で隠遁に優れていると言っていたから、身を隠したいシーグの気持ちに反応してるのだろう。

「ご、ごめんなさい。見間違い……なんか、大きな動物がいたような気がして……」

 私の苦しい言い訳に、衛士隊のお兄さんは槍を構え、ヒラスさんが辺りを覗う。

 なんという偶然か、奥の方で、枝を踏み折る音がする。

《大丈夫ヨ。今の時期は餌も豊富にあるし、縄張りを見まわりに来ただけヨ》
 蝶々の姿のサヴィアンヌが、気楽な感じでそう言うが、衛士隊のお兄さんは槍を構えながら、林の奥へゆっくり進んでいく。

 幾つかの木に、鋭い爪で引っ掻いたような痕がある。
「こりゃあ山親爺の熊剥ぎだな……」

 山親爺って、ヒグマ?

「この木は蜜も出ないし、蜂の巣や木の実もならないから、本当に縄張りのしるしだな」
 ヒラスさんは、興味を失ったみたいだった。

「襲われないの?」
《そりゃあ、アンタ達だけで物々しく分け入って出逢ったら、喧嘩になるかもしれないケド、今はワタシがいるのヨ。この山のどんな生き物だって、襲って来やしないワ》

 妖精の羽衣の効果を、自分の魔法で出せるサヴィアンヌは自慢げに請け負った。

「とは言え、出会い頭に驚かせたら、パニック状態で咄嗟に襲ってしまうかもしれないから、気をつけた方がいいな」

 今日はもう帰ろう。

 そう言って、ヒラスさんは林の外へ、私達を促した。
 その間、シーグは羽衣を頭からかぶってジッとしていた。



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