異世界に召喚されたけど間違いだからって棄てられました

ピコっぴ

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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋

83.ウルフハウリング

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 オオォォォン

 狼の咆哮が響き渡る。

 頭の中に染み通る、例え耳を塞いでも、それこそ耳が不自由な人にも聴こえる、魔力と霊気のこもった大音量。


「こ、これは……」

 キーシンさん達も耳を抑えて林の方をみる。

 狼の姿に戻ったシーグが、全身を楽器にするように、腹の底から、咆哮をあげていた。

 日本でも大昔、狼の遠吠えは、魔除け・厄祓いの力がある神聖なものとして、狼を『』とする地もあったというけれど、シーグの声は正しくそれに該当すると思えた。

≪う、うぅ……≫

 アリアンロッドが呻くような声をもらして、光の霊気を投げつけるのをやめる。

 ふるふると揺れる瘴気。触手のように一部を伸ばし、妖精の恐怖を捕食しようとするが、再びのシーグの咆哮のもたらす声の振動や霊気にあてられて、小さくなっていく。

「あ、あの狼は、地母神テラスの使い獣なのか?」

 え? そんなのいるの? シーグってそうなの?

≪シオリ、大丈夫? だいぶ、霊気をもってかれたヨウネ≫
 人の等身大になったサヴィアンヌがそばに寄って来て、貧血症状のようになって地に手をついている私を助け起こす。

 ──霊気をもってかれた

 何に? とは訊かなくても判る。アリアンにだ。
 正確には、アリアンが、瘴気に叩き込む光の弾にこめる破魔の力を、大気のマナ以外に、私の霊力と魔力で補っているのだ。彼女(?)は複数の精霊で出来ているから、自身の力ですると、枯渇して消滅してしまうかもしれない。

「あ、アリアン、もういいわ。ありがとう、助かったわ。こっちへ来て」

 サヴィアンヌとロイスさんに支えられながら手招きすると、振り返って不安そうな顔をしたアリアンロッドが、数瞬躊躇ためらって、一気に距離を詰めるように飛んで来た。

≪役に立つた? アリアン、いい子?≫

 細かいデテールはハッキリしないものの、小学生くらいの女の子に見えるアリアンロッドが、私の腰に縋りついて、上目遣いに訊ねてくる。

「もちろんよ。アリアンのおかげで、みんな助かってるわ。もう2度目ね? 本当に、ありがとう」

 そう。最初に、光の霊気の槍で、花畑に瘴気を磔にしたのは、無意識の私ではなく、その時に生まれたアリアンロッドだったのだろう。

 アリアンロッドの攻撃のおかげで、細くなってた瘴気を地に縫い留めていた光の槍も、再び太くしっかりとしたものになっている。
 瘴気もあの時よりも小さくなっているし、闇落ちの残骸(皮と腐肉のこびりついた骨の一部)は消し飛んでなくなっていた。

 林の方を見やると、シーグは妖精の羽衣を纏って気配を消し、去っていくところだった。
(シーグもありがとう。狼の遠吠えは魔力があるって本当なんだね。シーグが来てくれなかったら、アリアンと共に昏倒してたかもしれない)

 まだ、手足は震えて力が入らないが、ちゃんと意識は保てる。


「このことは、カインハウザー様に、どう報告したら……」

 もちろん、アリアンロッドの活躍は報告しても問題ないはず。
 キーシンさん達の言うのは、シーグの事だろう。
 私の名を呼んでいたのも聞かれたかもしれない。でも、みんな余裕なかっただろうから、意識の外で、気づかなかったかもしれない。

「あれは、フィオリーナ様の使い魔獣……ではないですよね?」

 どう誤魔化そう……

「え、ええ」
 あ、否定しちゃった。まだ、対策考えてなかったのに。私の使い魔獣って事にしたら、今後も連れて居られたかもしれないのに。



「シオリ!!」

 川向こうから、カインハウザー様が馬でかけてくる。ずっと遅れて、田んぼの方に、リリティスさんとベーリングさん、ドルトスさんやハルカスさんもいるみたいだった。

「何があった? お前達も、交代の時間だから4人居るのは判るが、なぜシオリがここに居る?」
「あ、いえ、ちょうど交代するところでした」
「彼女はなぜここに居る?」

 ツカツカと寄ってきて、私を支えるロイスさんからもぎ取るように、引き寄せる。

「助けを呼ぶ声が聴こえた。何があった?」
「聴こえ……たの? 本当に?」
「ああ、森の風シルフィードが伝えてくれたよ。短くひと言、助けてとだけで、何があったのかは判らなかった」
 だから、聖霊使いのベーリングさんまで連れて来てくれたのね。何があったのか判らないから、魔獣対策は必要だよね。

 馬から降りた時は厳しい表情をしていたのに、少しかがんで目の高さを合わせ私の目を覗き込むその眼は、柔らかく優しい光だった。

「申し訳ありません、自分が、勝手にお連れしました!」
 ロイスさんが直立不動で謝罪し、頭を下げる。

「わ、たしが、連れて行ってって頼んだの。ロイスさんは悪くないの」
「⋯⋯わかった。何があった? 何から助けて欲しかったんだ?」

 助けに来てくれた。かすむ意識で、小さく一度だけ呼んだのが、本当に聴こえたの?
 ポロッと一粒、涙がこぼれる。
 温かい手が、涙を掬い取ってくれる。

「あ、あるじ、あれ⋯⋯」

 リリティスさんが指差した先には、花畑の中で小さくなった瘴気溜まりがあった。

「活動を抑えてるだけでなくて⋯⋯前より小さくなってる? 私の覚え間違いかしら?」
「シオリ」
「はい」
「どうやったんだ?」



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