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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
86.女王陛下の眷族と人族の長
しおりを挟む「今は、姿は見えないようだけど?」
辺りを見す振りをするカインハウザー様。いないのは一目瞭然だもの。
シーグの事、まだ、なんて言って受け入れてもらうかを考えてなかったのに。
昨日は男の子だった、でも今日は狼に戻ってた理由を、まだ訊いてないのに、うまく説明できない。
冷や汗が背中を伝う気がした。
《ワタシの、森の眷族ヨ。昔から、狼の遠吠えは、魔を討ち祓う聖なる力が宿っているの、知ってるデショ?》
サヴィアンヌが助け船を出す。えっ? 精霊や妖精は、嘘をつけないんじゃなかったっけ? それとも、本当に、シーグは、サヴィアンヌの眷族なのかしら。
「女王陛下がお連れしたのかな?」
《ソウヨ。いつも、ここの東から神殿へ向かう森林の中に居るのヨ》
「た、確かに、妖精王と一緒に現れました」
「トランス状態で攻撃し続けるアリアンロッドを止めつつ、瘴気に群がる穢れを祓いました!」
キーシンさんとオラフさんの報告に、カインハウザー様は一応、納得された、かのように見えた。
「ふむ。女王陛下と2人が言うのなら、そうなのだろう。では、あの日、シオリを救い、闇落ちを屠ったのも、その狼なのかな?」
《もちろん、ソウヨ》
これは嘘じゃない。
間髪を入れず、即答したサヴィアンヌ。
「ふむ。では、わたしの畑を生活の場とし、近辺の畑から野菜を盗み食いしていたのも、同じ狼なのかな?」
《ソウヨ。傷ついて、狩りが出来なかったの。仕方ないデショ?》
「今は、何処にいるのかな?」
《その辺の林の中に居るデショ?》
「喚んでもらえるかな?」
《なぜ?》
「そりゃあ、大活躍してくれたんだから、労ってやらなきゃね?」
《いいワヨ。ワタシがイイコイイコしとくカラ》
うう、ひかない、カインハウザー様。やっぱり、目が笑ってないよ~。
「眷族で、森や林の暗がりの穢れを祓ってくれていたのなら、これからも、頼みたいしね?」
《任せて。ちゃんと言っとくワヨ。てか、勝手にやるんじゃナイ? シオリに惚……》
「サヴィアンヌ! あ、あの、一度だけ姿を見せれば、カインハウザー様も納得されるんじゃないかしら?」
《……ま、それもそうネ?》
頷いたら、そのままの姿勢で上空にあがり、アリアンロッドの声よりも柔らかく澄んだ、森に響き渡る鈴の音に、木々がサワサワと揺れる。
元々そういうものなのか、妖精語か何かなのか、その音色は、言葉に聴こえなかった。シーグを喚ぶ名を、カインハウザー様達に聴かせないためだったりして?
ガサガサッ
ふて腐れたような、不機嫌そうな表情で、狼の姿のシーグが、林の茂みから出て来た。
羽織っていたはずの妖精の羽衣は見えなかった。
《あのネ、こちら、ここの領主のセルティック。まあ、人間のボスかどうかはワタシ達にはどうでもいいコトだけどネ。一応、彼には、人族の長としての敬意は払いなさい。それくらい出来るデショ?》
益々、眉間に皺を寄せながら、シーグは軽く頭を下げた。
「ほう、なかなか、知能は高そうだな? 女王陛下の眷族なら、この辺りの狼の群れの長かな?」
《この子は特別ヨ。群れとは関係なくて、ワタシの寝床になるのヨ》
サヴィアンヌの台詞を聞いたシーグが、カッと目を歪めて、振り返る。
シーグの尻尾を布団代わりに寝るって、本気だったのね……
「寝床に納得してないようにも見えたけど、まあ、それだけ気心の知れた仲というやつかな?」
《ソウネ。お互い、シオリのそばが心地いいから、離れられないのヨネ》
「……まあ、それはわかる」
「え?」
「あ、いや、それよりも。彼は、この辺りを縄張りに、活動しているのかい?」
《あら、オスって判るノ?》
「立派なシルバーの鬣と、体格もいいからね」
《アタシの眷族で、シオリの側付きダカラ、特に縄張りはないワヨ》
「側付き……」
ちょっと眉をひそめるカインハウザー様。
「サヴィアンヌ、その言い方はちょっと……」
《いいジャナイ、ホントのコトでショ》
「あ……」
いかにも、もういいだろって表情で、シーグは林の中に帰って行った。
「彼は、闇落ちと対峙しても感染しないのかい?」
《ソウヨ。精霊の守護が強くて、ちょっと触れたぐらいなら跳ね返すワ》
「……それは……羨ましいね。わたし達もそれぐらいの守護を得られたら、もっと闇落ち狩りが楽になるのに」
カインハウザー様の言葉に、衛士隊のみんなも頷く。
サヴィアンヌが瞬きの間にカインハウザー様の目の前に立ち、触れる程の近さでジッと顔を覗き込むようにして、何か考える素振りを見せる。
《……ソウネ、もしかしたら、セルティックなら、いつかはそうなれるかもネ》
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