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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
95.人の噂も七十五日
しおりを挟む「そんな、怖い眼をしなくてもいいだろうがよ。
そういう噂だって話と、嬢ちゃんが来てからは、すっかりセル坊も丸くなったなと思ってさ。それはいいことだろう?」
さすがのカインハウザー様も、お父上のご友人で年上で、騎士団へ入る前の師弟のような関係だったと聞くし、ずっと信頼されてきたんだろうドルトスさんには勝てないようで。
苦笑いで軽く両手を挙げ、無言で降参された。
「まあ、そういう噂が出回ってんだ、嬢ちゃんだって無関係じゃねぇだろ? 一応、知っといた方がいいと思ってよ」
「あの…… 街で、第四隊の方にそれとなく聞きました……」
本当は根掘り葉掘りに近い感じでグイグイ来られたけど。
ドルトスさんは、笑い出した。
「ケーシーだろ? あいつ、俺にも聞きに来たぜ?
『ドルトスさんならご存知ですよね!? カインハウザー様と小さな領主夫人が、鍛冶屋のオヤジさんの立ち会いで愛を誓い合ってたって本当ですかぁ!?』ってな? 鼻息荒く大興奮だったぞ? アハハハ」
お茶をクイッと一気飲みして、更に笑い続ける。
「私、違うって言ったのに……」
「まあまあ、噂ってのぁ、そう言うモンだ。彼らにとっちゃ、若き領主と養い子の少女とのロマンスが真実で、そうであって欲しいと望んで、違う結果は受け入れねぇのよ。期待した答えを求めて、確認するように片っ端から訊いてまわるから、どんどん噂は広がって、尾鰭端領巾がついて、しまいにゃ、この秋結婚するって事になってんのさ」
その内、嬢ちゃんは子供こさえてる事にもなってるかもな?
「あり得ません!」
喉の奥でクックッと笑うドルトスさんに、彼が言いだした訳でもないのに、怒鳴ってしまった。
「まあまあ、そうやって、真っ赤になって否定するから、益々怪しい、本当に?ってなるのさ。ほっとけばいいさ」
ついにはお腹を抱えて笑い出した。
「でもでも、だっても、それって、カインハウザー様への名誉毀損……」
「そこまで強く否定されても、さすがにちょっと寂しいね? まるで、オジサンは対象外って言われてるようだ」
カインハウザー様も、さっきまでの憮然とした様子から一転、私を揶揄う方へまわる。
「そ、そう言う意味ではありません! 私は、まだ14歳で、こちらでは15歳が成人なのかもしれませんが、私には、成人は二十歳だし! だいたいみなさん、初めて会った時は十歳かと思ったって言ってたじゃないですか!」
「確かに、実年齢よりか3つ4つは幼く……若く見えるわな」
「言い直してもダメです。本音が漏れてますよ、ドルトスさん。どうせ、私は、子供です」
すっかりむくれてしまった私は、シフォンケーキを平らげると、紅茶を味わうこともなく飲み干し、デザートトレーと茶器を持って、この場を去ることにした。
「おいおい嬢ちゃん、そうむくれるなって。今は恥ずかしいかもしれねぇが、しばらくしたら噂も下火になるし、この秋、成人の祝いをしても結婚披露がなきゃ、みんな、納得するだろ。ふた月ほどの辛抱だって」
2ヶ月も揶揄われ続けるの? 冗談じゃないわ。
子供っぽくドルトスさんに舌を見せて、調理場に引っ込んだ。
*******
みなさんのおやつの後片付けを手伝おうかと思ったけれど、キッチンメイドの仕事を取りあげるなとばかりに、メリッサさんに追い出されてしまった。
仕方なく、お洗濯を手伝おうかとしたけれど、同じく、ハウスメイドの仕事だと、追い払われた。
街で噂になってると聞いて、出掛ける気にもならない。
シーグがどうしてるか気になったけれど、お屋敷の中で出来る事を探す事にした。
日時計横の花畑で、三鈴、二鈴、一鈴の三姉妹が眠っている様子を見にいくと、ギリシャ神話の女神のような姿の光の精霊達が手招きをするので、駆け寄る。
花畑の真ん中に並べられた、私達の花冠やコサージュが、今まで萎れていたのにピンとしていた。
《もうすぐ目が覚めるわよ》
《私達の癒しが効いてきたのね》
《ずいぶん待たせたわね、もうすぐよ》
光の精霊達が、手を振ると、光の花びらのようなものがきらきらと降り注ぎ、三鈴達の花に吸収されていく。
また、三人の元気な声が聴けると思うと、涙が出て来た。
《あらあら、なあに? 私達を信用してなかったのかしら?》
《違うわよ、感極まってるのよ。心配してたもの》
《この世界の事はよく解ってないから、不安よね》
《シオリ、心配せずとも、我らは幾千年もの時を経て、女神の代行も出来る個体とているのだ、安心して任すがよい》
男性の姿の光の精霊は、少しだけリリティスさんに似てる。彼女がイケメンになったらこんな感じって姿なのだ。
《それは仕方あるまい。我が個性を持ち、人型をとるようになった頃、この地で、あの者の先祖と誓約をしたのだ。ずっとこの地を守護するとな》
その時の領主と仲が良く、共にいる内に、姿が似てきたのだという。
《アリアンロッドと其方が名付けた幼子も、其方にどことなく似ているであろう?》
「似てません」
言い切ったのに、なぜか、みんなに笑われた。
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