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Ⅱ.新生活・自立と成長と初恋
99.動き出した聖女討伐隊(ホーリーフォース)
しおりを挟むあれから半月ほど経ったある日、カインハウザー様から、花畑へも行ってもいいとの許可が出た。
「本当に? 大丈夫なんですか? あれほどダメだって……」
「非公式なんだけど、山頂の大神殿から『聖女』と『巫女』が来て、瘴気を完全に浄化したんだ」
「出来たんですか!? 美弥子やさくらさんが?
ずっとなんの連絡もなかったのに、やっと来てくれたんですか?」
カインハウザー様は当然、領主として、その場に立ち会った。
リリティスさんも、ある程度の補助魔術の使える秘書官として同席した。
他にも、戦乙女の精霊に似た聖霊使いのベーリングさん、四大精霊の加護のあるロイスさんと、闇落ちが出た時の迎撃担当班の長ハルカスさんや、過去には騎士団で大討伐に参加した経験のあるドルトスさんも立ち会ったとか。
「聖女や巫女を信じてない訳ではないが、シオリの話では、異界から取り寄せた、才能はあるが未経験の少女だと言うし、何があるかわからないからね、それくらいの備えはするさ。大神殿も文句は言わなかったさ」
「今まで公表せずにおいて、その上今回も非公式なんだ。能力に不安があると疑うのは普通だろうが」
ドルトスさんも眉を寄せ、ソファに深く沈むように腰かけて、不満そうに鼻をならす。
「でも、成功したんでしょう?」
「まあね。我々が去年の大討伐で見た様子とはだいぶ違ったようだが」
カインハウザー様は、去年の晩秋まで、騎士団から派遣された大討伐軍の将軍として、従軍されていて、本物の巫女の力を目にしている。
ドルトスさんも数年前までは、巫女の騎士団で、最前線の下級騎士として魔獣狩りに出ていたから、よく知っているのだろう。
◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆ ◆◆◆
早朝の霧の中、山頂の大神殿から、二頭立ての箱型馬車が降りてきた。
あれが、昨日大神殿から連絡のあった、『聖女』と『巫女』が乗っている馬車なんだろう。
ちょっとした貴族の乗る物のような、精緻な飾りを施した箱型車両で、前後に馬に乗った神官戦士も護衛にか、併走していた。
「大仰しいというか……」
「勿体ぶった感じだが、我々に対するハッタリも兼ねてるんだろう」
「本当に祓えると言うのなら、なんで非公式なんですかね?」
私の呟きに、ハルカスさんやロイスも素直に感想を口にする。
主は、黙って見ていた。
昨日、大神殿から連絡が来たすぐ、農夫達には通達をしたので、今日は、朝から誰も畑には出ていない。
* * * * * * *
【提議する】
明朝、其方の申し立てし花畑に於ける瘴気を浄化せし手はず整い、此度、大神殿より、選りすぐりの者を遣わす。
ついては、今回の件、他言なく、また、立会人は領主とその信のおける口の硬い者数名とし、件の場に、農民町民を近づける事なかれ。
また、派遣する者の護衛として、神官戦士に武装させる旨、了承されたし。
此方、他意は無き事、承知の上、武装・戦意なく立ち会うべし。
上 大神官 メイナード
* * * * * * *
文面を見た瞬間、頭に急激に血と熱が上るのを感じた。
提議するとありながら、向こうにはすでに決定事項であり、向こうは武装してくるのに、こちらは武装解除して立ち会えだ?
ちらと盗み見るが、我が主の表情には何の色も見出せなかった。
「シオリの言っていた、同じ年頃の少女三人組……なんだろうね?」
「おそらくは……サクラ、でしたか?」
「検査水晶によると、桃色のオーラの巫女サクラ、翠のオーラの治療士アヤメだと言っていたかな? それから、それぞれ花の名前だとも」
「よく覚えてますね?」
「シオリを手元に置く以上、大神殿の事は、どんな些細な事でも、よく識っておく必要があるだろうからね」
精霊に好かれる主は、やろうと思えば、どんな情報でも入手可能だ。
知りたがりの精霊達は、挙って、主のために情報を仕入れ、報告する。
この世の理を営む精霊達の行動は、基本阻害する事は不可能である。
魔術を持って止めようとしても、魔術の効果を出す力の源がそもそも精霊であるからだ。自分達を阻害する術は無効化するだけ。
属性効果を活かし、より上位の精霊を以て封じ込める事は可能ではあるが、この国には、精霊術士は殆ど居ない上に、他国の精霊術士に比べると、下級術士もいいところだ。
こと精霊に関しては、我が主は、向かうところ敵なしである。
ただ、主は、あまり精霊に頼る事はしない。
情報を集める事に於いては頼みにするが、己の感情に深く交感すると、精霊の力が暴走する恐れがある為、魔力がシオリほど多くない事も含め、あまり精霊を使おうとはしなかった。
精霊術の使える騎士になれば、国軍一の武人になる事も可能だろうに……
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