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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
28.幸せと風の精霊フィリシア
しおりを挟む私の魂の匂いが好みで、離れられないという風の精霊さん。
アリアンロッドより外見年齢は高めだけど、それでも二十歳そこそこのようで、綺麗より可愛い感じの、愛らしい姿をしている。
それが、私に感化された姿だというから驚く。
「まあ、シオリが大人になったら、こんな感じになるかもな程度には似てるかもしれないけど?」
そ、そんなうまいこと言ってぇ。シーグがまじまじと風の精霊を見て呟く。
元素精霊や地域を代表する大精霊と違って、この子は特に縄張りを持たず、気ままにカラカル地方を飛び回る子だったらしい。
「風の」とか「あなた」とかって呼ぶのもなんだしなぁと考えていると、ふと思いついた。
「そうだ!『アリアンロッド』と一緒にいる女性なら、フィリシアなんていいかしら?
私の世界の、北の国の言葉「幸せ」と、風の精霊をシルフとかシルフィードっていうのを、ちょっともじって、ね?」
特定の個体を区別して呼ぶためだけに、私のそばにいてくれるなら、アリアンの相棒はフェリシアよねぇ、と軽い気持ちだった。
「フィリ⋯シア⋯⋯幸せと風の精霊⋯⋯」
この子が、困惑したような、驚いて、でも喜んでいるような、複雑な様子で呟く。
「他の風の精霊との区別の為にそう呼んでも⋯⋯」
いい?と訊くつもりだったけど、様子がおかしい。
妖精や魔獣のように触れる肉体がある訳じゃないけど、少し震えているように見える。
「あの、大丈夫? 名前で呼ばれるの、イヤだった?」
人と、精霊や妖精の価値観は違うとは思う。
精神の一部どこかで繋がっていて、各個体が集団で一つの存在でもあり個々が一つの存在でもあるとか聞いたかな? なので、個体を区別して呼んだりすることもないと、名前はないと聞いている。
だから、名前で呼ばれるのはイヤな子もいるかもしれない。
しかも、幸せと風の精霊だとは言っても、思いつきの私の造語で、正式な言葉じゃないから、神経し⋯っ⋯繊細な人なら馬鹿にしたとか思うかもしれない。
「ワタシの、ナマエ。幸せと風の精霊⋯⋯フィリシア!」
突然叫ぶと、彼女は内側から光を放ち、一度膝を抱えるように背を丸くしてからぱっと身体を伸ばし、空を向いて真っ直ぐに、腕は下げたままM78のあの人のように、人間ロケットか何かのように高く飛んでいった。
「え、どうしちゃったの? 震えて飛び去るくらい嫌だったのかしら。
悪い事しちゃったかな」
〈〈逆ね、嬉しかったのヨ〉〉
光の精霊とサヴィアンヌの言葉が重なる。
〈好みの色と匂いの魂を持った愛し子に名前を与えられて、喜ばない精霊がいるかしら?〉
〈あの喜びよう、ちょっと羨ましいわ。私もどんな感じなのか、一度誰かに名前をもらってみようかしら?〉
光の精霊がチラッとこちらを見るが、私は慌てて視線を反らした。
呼び名を、渾名とか通り名くらいのつもりで軽い気持ちで、一応気をつけて魔力も乗せずにつけただけなのに、どうやら、アリアンロッドと同じで、名付けの契約とか個性の安定化と近い効果を出してしまったらしい。
光の精霊によると、元々、私のオーラ的なものに一度感染して、その色や匂いが好み過ぎて自然と彼女から望んでの、従属の仮契約に近い形だったのだという。
そこで私が彼女の存在を認め、名を与えたことで、彼女が自身で、喜び受け入れたことで、魔力を乗せようが乗せまいが関係なく、「仮」契約でなくなってしまったのだとか。
〈元々あなたの一部を核に創られたアリアンロッドほどの絆はまだ無いでしょうけど、今後はあの子も、あなたの感情や体調に影響されるわ。気をつけてね〉
今でも、ふとした時に、意図なく精霊達を動かしてしまった事があったけど、今後は、フィリシアも私の気持ちを察して先回りしたり、強く共感したりと、感情の同調などをしていく事だろうと言われた。
とにかく、フィリシアも、アリアンロッドと同じように、意図せずとは言え呼べば応じる私の「力となる精霊」として、存在値を固定してしまったのだった。
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