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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
99.騎士とリボン
しおりを挟むお祭りのメイン会場になっている広場の、通りに面した端に設置された荷物預かり所で、預けていた花束とお祝いの品を受け取り、会場から離れると、てきめん薄暗さが迫ってくる。
現代日本と違って電灯がないので、早く帰らないと、私とカインハウザー様の前を先導していく小さな精霊の灯りだけなので、足元は見えても背景が暗がりなのは心許ない。
「色々とたくさん貰ったんだね。足元が見づらいだろう? 邸まで持ってあげるよ」
なんでもスマートに行動できるのかしら、カインハウザー様は、何一つ取りこぼすことなく、私の両手で抱えた花束と、果物や焼き菓子などを入れた籠を攫って持ってくれた。
「ありがとうございます」
私の手には、リリティスさんに貰った、花を彫った可愛らしい貝細工の髪飾りと、新成人に配られるリンドの若葉のリースだけになる。
リースは、頭には三鈴の花冠が乗っていたので腕に通していたのと、髪飾りは踊っても落とさないようにポケットに入れていたのだけど、やっぱり髪につけてみようって気になって、手に取っていたのだ。
バレッタやヘアクリップはない世界なので、本体に通したリボンで縛ったあとに、飾りの向きを整えるだけの簡単なものだ。リボンは毛足が長めの滑りにくい素材を使われていて、櫛や簪のように挿すだけの物よりかは実用的で、失くさなくて済む。
カインハウザー様が私の手から飾りを取りあげ、首の後ろで髪をすくって纏めると、手早くリボンを縛っていく。時々首にカインハウザー様の手が掠めていくのが擽ったい。
それにしても、手慣れてる? 籠は腕に通していても、花束を片手で抱えたまま、流れるような動きで髪留めを整えてくださった。身長差があるので、腕をあまり上げずに済んだのもあるだろうけれど、手早すぎる。
「ありがとうございます。これ、お花の細工がとても可愛いし、どんな服でも違和感なく合いそうですね」
「そうだね。リリティスは、昔からさりげないおしゃれが得意だからね。
⋯⋯わたしが髪を纏めるのが慣れてるのが不思議かい?」
お礼を言ったあとに見上げた私の視線に、思った事が出ていたらしい。頷くだけで肯定すると、ちょっと自嘲が入ったような苦笑をこぼされる。
「わたしは比較的早くに、騎士見習いとして士官学校に上がったからね」
騎士と髪飾りに関係が?
そう思ったのも透けて見えていたらしい。
「シオリには馴染みのない世界だろうけどね、騎士にも階級があってね。わたしは母が、貴族の出なのと王宮で上位貴族の子息達の世話をしていたのもあって、5つまでは後宮で暮らしていたんだよ」
初めて聞く、カインハウザー様の幼い頃の話。
お父様はこの領地を預かる前は爵位はない上級騎士で、お母様は下位貴族の次女ながら教養が高く、後宮で、側妃様のお子様や、王子の遊び相手の子息達のお世話を任されていた女官だったと言う。
そこで、貴族子息や王子たちと一緒に、五歳まで育ったカインハウザー様は、後宮にあがる子息達と似た格好をさせられていたらしい。
女児に間違われる事もあったのが不満だったそうだけれど、それでも背中半ばまで髪を伸ばし、家紋の刺繍の入ったリボンで纏めるのがルールだとかで、お母様のご実家の家紋を背に、貴族子息に混じって教育された。
道理で洗練された動きをされるはずだ。
三つ子の魂百までと言うように、幼少時に貴族子息と同等の教育を受けたのだから、身に染み付いているのだろう。
お父様と同じ騎士になるために、一般的な年齢よりも早く騎士の士官学校に入学されたものの、軍隊や騎士団というものは、形骸化している貴族階級よりも、明確な武勲階級が優先される。縦社会だ。
成人儀礼のひとつでもある元服式までは一定の長さで伸ばされる髪は、家紋入りのリボンで纏められるのがルール故に、前髪や横髪は訓練に邪魔だと切る人がいても、後髪だけは伸ばされる。(モヒカンや辮髪みたいなのも少なくなかったみたい)
縦社会である故に、小姓、従者といった制度もある。
見習い騎士は、上官の側に付き、側仕えしながら、技を盗んだり、マナーや団内のルール、騎士道などの教育指導をしてもらったりする。
「わたしは幸い、父やドルトスさんのツテで、真っ当な騎士の従騎士をさせてもらえて幸運だったよ」
中には親が上位貴族の笠に着て、威張り散らしたり不当に暴力をふるったり、雑用ばかりさせて指導や面倒をみたりしない、ハズレと言われる騎士らしくない人もいるのだとか。
「親が上位貴族だからといって、その子供が国に貢献して爵位を受けた訳ではないし、騎士になるのは大抵、後継ぎから外れた三男以降の、成人後は野に下る輩だ。勘違いも甚だしい」
とは、カインハウザー様のいつもの貴族嫌いのお言葉。
従騎士とはいえ、騎士階級として国王の前で宣誓し剣を授かって叙階されるまでは、剣や槍の得意な戦闘職見習いの少年青年というだけ。
縦社会の中で、側仕えする主人に奉公することも仕事のひとつである。
「朝、主人より先に起きて支度を整え、彼らの世話をする事も仕事の内でね、髪を整え、曲がりなく夜まで解けないように縛るのも、わたしの役目だったんだよ。解けないようにと硬く縛りすぎると、引き攣れて動きを妨げるし、弛めると夜までに解けてしまう。その加減が、コツをつかむまでみんな苦労するんだよ」
ウインクを投げて寄越すカインハウザー様。
それで、納得がいった。衛士隊の多くは武人らしく短めの髪をしているけれど、キーシンさんは後ろに流すくらい伸ばしているし、ロイスさんのように襟足が長めで、中にはリボンや編み紐で結わえている人もいるのは、元騎士団の人たちなんだ。個人的なおしゃれじゃなかったのね。
成人後、あるいは騎士や軍人として階位を貰うと、髪は切ってしまう人もいるけれど、貴族の子息達は、家紋入のリボンで結うのが一種のステイタスや貴族の証のようなもので、大人になってもそのままの人も少なくないらしい。
女児に間違われるほど可愛らしい、髪を伸ばした子供の頃のカインハウザー様や、お母様のご実家の家紋が刺繍されたリボンで髪を纏めた、騎士姿のカインハウザー様も見てみたかったな、と思ったけれど、言うと悪い気がして、口には出さなかった。
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