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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
98.収穫祭⑧踊
しおりを挟むいろんな果物を試食させてもらって、手も口のまわりも少しペタペタするくらいに食べたので、そこかしこに浮いてる水霊を集めて手を洗ってから、サヴィアンヌとロイスさんに勧められて、踊りの輪に加わる。
フォークダンスと盆踊りの間くらいの、リズムにあわせて体を動かすだけの特に決まった法則性のない踊りの輪で、でもとても楽しかった。
ワンピースと花冠とストールで揃った新成人の娘達と、素朴な楽器と思い思いの歌声にあわせて、アルプスやロマなんかの民族舞踊みたいな感じだった。
スカートの裾を摘んでタップダンスに似たステップでつま先と踵で打ち鳴らしたり、隣り合わせた人と肘で腕を組んでくるくる回ってスキップしたり。踵を交互に蹴り出して跳ねるように踊ったり、周りの手拍子に合わせたり。
疲れたりのどが渇いたら、奉納品から振る舞われるカットフルーツや搾りたてジュースで潤す。
こんなに楽しいお祭りは初めてだった。
中学校の文化祭や運動会、小学校の学芸会なんてメじゃない。
盆踊りや花火大会も殆ど行ったことないけれど、絶対こちらが楽しいと思う。
ロイスさんやキーシンさんと、何度も向かい合わせて踊った。腕を組んでまわったり、向かい合って左右対称に体をひねり合わせたり手を打ち合ったり。
「セル坊も、お嬢ちゃんと踊って来ないのか?」
「だから坊やは⋯⋯ いいですよ、別に。わたしは、領主として労う立場ですから。皆が楽しんでるのを見て、今年もいい年だったと思うだけで、なんでも美味しくなりますし」
「しかし、ロイスとキーシン、ついでに粉屋のハンス。あれはどうなのよ?」
「どう、とは?」
「そのまんまの意味だが?」
「若いですね」
「お前も変わんねぇだろ。ったく」
制服を着ているのに、お仕事中なのに、祭りの期間は無礼講ルールなのか、ドルトスさんはカインハウザー様との会話に、体面を気にせず、馴染みの父親の友人と友人の息子としての気安い会話をしていた。
カインハウザー様も特に気にした風もないので、やはりお祭りの間は特別なのかもしれない。
その後、ちょっと果実酒に頰を染めたリリティスさんが乱入してきて、ロイスさんを押し退けて私と向き合って踊り出した。
いつものタイトな軽装軍服姿ではなく、フレアロングスカートとゆったりしたブラウスにウールのストールで、とても綺麗な普通のお姉さんだった。
「カインハウザー様も踊りませんか?」
「領主だからね。この一週間はハメを外すわけには行かないかな。君は楽しんでおいで」
秋の陽は釣瓶落しとはよく言ったもので、七の刻(17時半)の鐘が鳴らない内に日が暮れ始める。
踊り疲れて火照った身体に、夕方の風と搾りたてジュースが心地よく、祭りの熱気と果物やジュースや野菜スープで、夕飯は食べられそうにないし、少し疲れから眠くなって来た気もする。
「すみません、ちょっと疲れたみたいです。先に帰りますね」
「ああ、わたしも帰るよ」
カインハウザー様と並んで会場の、人だかりの中を泳ぐように出口へ向かって進んでいく。
日が傾いても、精霊が多くいるこの街では、誰かが灯りをいろんな方法でつけていく。
松明であったり、獣脂のランタンだったり。光の精霊や小妖精を入れた燈籠なんかもあった。
お祭り用の篝火には火霊が踊っていた。
野菜や果物を使ったパイやスープ、デザートやドリンクなどを飲み食いし、楽しむ人達。実は、この街の人ってこんなにいたのね。
空の色が朱から藍色に変わりだすと、フォークダンスや民族舞踊っぽいテンポのいいバタバタした踊りだったのが、音楽も落ち着いた弦楽器になり、新郎新婦を中心に、ソシアルダンスとかチーク的な、ムードのあるものに変わる。
それを遠巻きながらじーっと見ていると、
「ああいうダンスもしてみたいのかい?」
と、カインハウザー様に顔をのぞき込まれた。
「い、いえ、ああいうのは踊ったことがなくて、無理です。⋯⋯ただ、みんな幸せそうだなあって思って」
うん。今は、まだ15歳の小娘でフォークダンスだけど、何年かしたら、シーグとああいうダンスを踊るのもいいかもしれない。
「簡単だよ? 貴族の社交ダンスほど決まったステップやターンがある訳じゃない。ただ音楽にあわせて身体を揺らしながら前後に足を踏み動かすだけだよ」
そう言って、手を引かれ、背から腰に手を添えられる。
「え、え⋯⋯と、前後?」
「そう。深く考えずに、わたしの進む方向について歩くだけでいい。無理に踊ろうとしなくても大丈夫だよ」
あれ? 家に帰るはずだったんだけど、なんで、カインハウザー様と踊ってるの?
しかも、さっきまでの祭りの踊りと、このしっとりした感じの踊り、全然違うんですけどぉ!?
さすがにチークダンスほどぴったりくっついて踊る訳じゃないけれど、なんだか気恥ずかしい。
ソシアルダンスなんか、テレビでなんとなく見たことがあるくらいで、もちろん学校で習ったりする訳じゃないし、まわりの見様見真似だったけど、それでもついていくのに必死だった。
カインハウザー様は、将軍時代に、お城の舞踏会とかに出た事あるのかな、凄くスマートで、最初こそ足を踏まないように動かすのに全神経集中くらいのテンパりようだったけど、だんだん周りを見る余裕が少しだけ出て来る。
「そう。上手じゃないか」
「いえ、カインハウザー様のリードがお上手なんだと思います。足を踏まないように、もつれないようにするのが精一杯です」
そう。本当にリードが上手い。そして、私の動きに合わせてくれてるんだ。ステップを踏めば踏むほど動きが滑らかに、動きやすくなっていく。
足運びは、体育の時間にジャズダンスや軽体操を習った時の基本ボックスと言われる四拍子──一歩下がって、クロスに避けて、一歩前へ出して揃える──を、下がるバージョンと前進バージョンで繰り返せばなんとかなった。
余裕が出て来て、カインハウザー様の顔を見れるようになったら、今度は眼があったのが気恥ずかしくなり、ステップが乱れる。なんとか立て直そうとした時、一曲が終わった。
周りの人は、挨拶をして新婚カップル以外パートナーを替えているようで、私はカインハウザー様の手に添えた自分のそれを引っ込め、「ありがとうございました」とだけ言って、ダンスの輪から外れる。
「すっかり暗くなってしまったね」
カインハウザー様がそう言うと、その辺を浮遊していた精霊が光を放ち、大きめの蛍のように揺れながら、低空飛行で私達の前を先導していく。
「祭りの日は、精霊たちもサービスがいいね」
カインハウザー様はそう言って、微笑みながら領主館のある丘へ向かって進んでいく。
蛍のように光る精霊の灯りは、意外と明るかった。
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