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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
97.収穫祭⑦求
しおりを挟む花と光のシャワーの中で泣く花嫁さんが、どの人も幸せそうで、とても綺麗に見えた。
あと数年したら、私もシーグと⋯⋯
「フィオリーナさん、成人おめでとうございます」
背後から呼び止められて振り返ると、粉屋のお兄さんが、小さなブーケを持って立っていた。
「ありがとうございます。まだまだ未熟者ですがよろしくお願いします」
《チョット、シオリ、アンタ、粉屋の彼に嫁入りする気?》
粉屋のお兄さんから、お祝いのブーケを受け取ると、サヴィアンヌから非難するような声が上がった。
「え?」
サヴィアンヌの言ってる意味がよくわからない。
お祝いを言われたくらいで、想像が飛躍しすぎよ。ブーケがそう連想させるのかしら。それとも、未熟者ですがって返しが変だった?
粉屋のお兄さんに続いて、ロイスさんが、キーシンさんが、祝賀会で手渡されるような豪華な花束を持って、粉屋のお兄さんを押し退けるようにして近づいて来た。いつもより余裕がないみたい? 急いでるのかしら。
「フィオちゃん、成人おめでとう。⋯⋯これ」
走ってきたのか、頰を真っ赤に染めたロイスさんは、まるで高校生くらいの少年みたいだった。小隊を率いる立派な騎士様なのに。
栄転する上司や寿退社する女子社員への祝いのような、重いほどの花束を手渡される。
「フィオリーナ様、成人され、淑女へと花開いていく貴女の側で迎えるこの日を待ちわびておりました。騎士としてこの剣を捧げる栄誉をお許しください」
ロイスさんのよりも更に重く大きな花束を持たされ、片膝をついて差し伸べられた手が、私の左手をとり、中指と薬指にそっと口を寄せる。
でええ!? なに? キーシンさん、どうしちゃったの!?
前から私の事レディとか呼んだり、貴族子息が他家の令嬢にするように丁寧な態度だったけど、ここまでするの? そりゃ、キーシンさんは貴族家のご子息だけども。
衛士隊として、街を民を護るお仕事を、新たに誓い直してるのはともかく、なんで今? 一年の節目の祝日だから?
私が精霊たちと収穫祭に祝福を与えられるのを見たから、私になにか言葉を貰おうとしてるのかしら?
なにか、気の利いた返事をしなきゃだめ?
傷ついた子犬に餌を上げたらついてきたみたいな、うるうるした瞳で見上げてくるの。女性めいて綺麗なお顔が、とても眩しい。
何か、私の言葉を期待してるんだとは思うんだけど、咄嗟に何も出てこない。
「面白そうなことしてるじゃねぇか? キーシン、ロイス?」
「ドルトスさん」
収穫祭で街中がお祭りでも、衛士隊の総隊長としてお仕事があるのだろう、ドルトスさんは、隊服姿だった。
「セル坊を差し置いてなあ?」
「そ、そういう訳では⋯⋯」
「婚姻儀礼にいらっしゃらなかったので、そういう事かと」
「何言ってんだよ、お嬢ちゃんは、今年成人する娘さんだが、実際には15歳になるのは8日後だろ? 気が早いんじゃねぇか?」
「ですから、予約だけでもと⋯⋯」
ん? なんか、変?
「ドルトスさん、お二人は制服を着てません。今日は非番なのですか?」
「ああ? そうだな。ロイスはきょうは午後からで、キーシンは明日の早朝から当番だな」
「なら、午後までは自由時間なのでしょう? お休みに、わざわざ私のお祝いを言いに来てくださったのですし、そんなに言わなくても。確かに私の誕生日は8日後ですが、ここではみんな一律で今日お祝いするのでしょう?」
ドルトスさんの後ろに立ってらっしゃるカインハウザー様に確認すると、また苦笑いで頷かれた。
「まあ、そうだね。家族や身内で当日に改めて祝う家庭もあるけれど、大抵は、この収穫祭の振る舞い酒で祝うかな?」
「ほ、ほら大丈夫ですよ。キーシンさんも、予約とか言わずに今ここで祝ってくださったのですから、改めて8日に貴重なお時間をとっていらっしゃらなくても、この花束だけでも十分嬉しいです。
それに、カインハウザー様には、朝早く館内と先ほど櫓台で、二度も先にお祝いを言っていただきました。差し置いてないからご心配なくです」
慌ててそう言ってとりなしたけれど、ロイスさんもキーシンさんも、ドルトスさんもポカーンと私の顔を見ているだけ。
粉屋のお兄さんは、いつの間にかいなくなってた。
ロイスさん達が叱られて、空気を読んで逃げたのね。悪いことしたわ。彼だってお店をサボってたわけじゃないのに。
「クッ ククク。フィオリーナ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。
ちゃんと、みんな解ってるさ、君がまだ15歳になったばかりの初々しい娘さんだということは。正確には8日後だけどね」
そう言って、カインハウザー様は私の背に軽く手を添え、広場の奥の天幕──人がたくさん集まっている方へ促す。
《あ~あセルティックが収めちゃッタ。せっかく面白くなって来てたノニ。ここにシーグがいたら、傑作だったワネ》
「いや、いなくてよかったよ。わたしでは収拾がつかなくなっていただろうからね」
《莫迦ネ、それが面白いんじゃないノ》
サヴィアンヌの何かを面白がる言葉に、カインハウザー様は肩をすくめるだけだった。
人の揉め事や諍いを面白いなんて言っちゃだめよ。妖精って好奇心旺盛で、ゴシップ好きだから困るわ。
「まずは新成人と新婚を祝ったけれど、これから、今年の豊作を祝うための催し物が毎日あるんだ。楽しみだろう?」
今日は、この後、北の国境へ向かう斜面に広がる農園から、果物がたくさん振る舞われるらしい。
「君は、新成人で今年の祭りの主役の一人だし、街の実りを豊かにしてくれる、精霊や妖精と懇意にしている豊穣の象徴だからね、どこも君を歓迎してくれるよ」
たくさんの簡易天幕の下に山積みにされた果物がとてもキラキラして見え、よく見ると、サヴィアと同じ花の親心の妖精や実りの妖精など、育成や祝福を得意とする妖精達がたくさんいた。
《フィオリーナ‼ これ、美味しいわヨ!》
《アンタもこっち来なさいヨ、コレおすすめヨ》
《これとこれを絞った汁を混ぜて飲んだら最高ナノヨ》
中には、まるでお酒でも飲んだかのように出来上がっている子もいた。
そこに積み上げられている分は、来週、王都へ納税品として運ばれる分で、ああして妖精が分け前として成分を少しだけ抜き取るらしい。
ウイスキーなどの蒸留酒の熟成樽から、天使の分け前と呼ばれる、蒸発して抜けた水分みたいなものかしら。樽が呼吸するからこそよく熟成するのよね?
「ああして妖精が味見したものは、残り滓ではなく、なぜか旨味が増しているんだよ」
《ソコが、ワタシ達妖精のいいところデショ? セルティック、ワタシもいただいていいわよネ?》
「勿論ですとも、女王陛下」
サヴィアンヌは、喜び勇んで、果物の山に飛び込んだ。
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