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Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
96.収穫祭⑥花
しおりを挟む以前、カインハウザー様は、たくさんの部下に大声を張り上げることが多くて枯れたけど、前はもう少しだけ高い声だったと言っていた。
出会った頃より高いかと言われればそんなに変わった訳でもないと思うけれど、確かに柔らかく伸びのいい声にはなった気がする。
うん。見た目が、すごい美形!って事はなくても(失礼)ハリウッドスターにいてもおかしくない程度には整っているのに合わせて、声まで、主人公の吹き替えに当てられてもいいような声優にありそうな声かもしれない。耳障りな高さでもなく、聴き取りにくい低さでもない。どちらかといえば通りの良い伸びやかな声だ。
シーグもそんなに低くなくて、会話しやすい若々しい声だけど。
カインハウザー様が、台の上に並ぶ新成人達の顔をひとりひとり見て祝いの言葉を述べ、感激した青年が、カインハウザー様の手を取り謝意を返す。
娘達も、頰を染めてカインハウザー様に挨拶をし、さすがに手は取らなかったけど、隣り合った女子同士で手を取り合ってキャーキャー言っている。ちょっと気持ちはわかるけど、はしゃぐのは、私には無理。
「フィオリーナ。この街に来たばかりで慣れないことも多い中、ここまでよく頑張ったね。これからは、この国では一般社会人と同等にみなされ、言動にも責任がついてまわることになる」
「はい。よろしくご指導お願いいたします」
慌てて頭を下げると、なぜか苦笑された。
「かたいなぁ。君たち新成人は、祭りの主役でもあるのだから、今日はまだ素直に受け止めてくれるだけでもいいのに。まあ、君らしいけどね。
改めて、成人、おめでとう」
苦笑混じりに祝ってもらい、肩に手を置かれると、朝のあの祝いの言葉は夢じゃなかったのか、ぼぅっとして観た予知夢だったのか、カインハウザー様は人前だというのに、私の左頰に顔を寄せた。
柔らかくて温かいものが一瞬だけ触れる。
背後で、おおっとかどよめきやキャーッとか黄色い声があがる。けど、私は、今、それどころではなかった。
私とカインハウザー様は、霊気の循環や魔力操作の訓練の師弟であり、何度かのやりとりから霊的に流れを繋げやすいようになっている。
カインハウザー様から温かな霊気と感情の余波が私の背を流れ下り、足から大地の地精を吸い上げて練り上げられ、私の肩から手へと循環していく。身体が熱いほどに温まり、魔力霊気共に溢れ出ていきそうになる。
「祝ってくださり、ありがとうございます。この地で私が無事に成人の日を迎えられるのも、カインハウザー様の庇護下にあったからです。感謝しています。この地とカインハウザー様に、幸せがたくさん訪れますように」
狙った訳でもないけれど、高揚した気分が自然と口からまろび出て、私の霊気と魔力と感謝の気持ちと地精が混ざり合い、あたりに伝播していく。
それを受け取った精霊たちが、一度身の内に収め、祝福の力に換えて、街中を満たしていく。
私の本心からの感謝が、過去に感じたことのない幸福感が、精霊たちを活発にさせた。
祝砲で打ち上げられる風霊達も混ざり、光の精霊が祝福の光を降り注ぎ、感情を司る精霊達も風も水も大地も⋯⋯八葉の精霊に限らずこの街にいる精霊たちが、歓喜と祝福を振り撒いて飛び回っていた。
この街の人たちは、王都や他の地の人達に比べ、視る人も聴く人も、加護を受ける人も多くいる。私の感情の高揚に応えた精霊たちの姿も、祝福の魔法も、その殆どが可視化していた。
精霊の歓びに沸いた妖精たちまで踊りだし、空から花をたくさんまいていく。
「これはまた、派手にやったね」
朝から何度か苦笑されたけど、本日一番の困った顔だった。でも、カインハウザー様は咎めたりしなかった。
「明日からはちゃんと制御するように」
「はい。でも、カインハウザー様の祝福が恥ずかしくて動揺したせいですから、責任は半分です」
「⋯⋯なるほど。大人になったはずだったけれど、やはり8日まではまだ『お子様』だったんだね? 淑女ならあれくらい焦ったりせず受け止めないとね?」
この人は誰?ってくらい、イタズラが成功したような顔で微笑まれたけど、うまく返せるはずもなく。
「さて、次は、新婚生活を始める若者達の祝いなんだけど、せっかくだから、花嫁たちも花と光でわかりやすく祝福してあげてくれるかい? どうやら、女性にはウケがいいようだ」
それはそうだろう。結婚式は一生に一度の大イベントで、大切なセレモニーだ。精霊に祝福され、妖精の歓喜の花のシャワーを浴びれれば、幸せが続くと誰もが信じられるはず。
花嫁達は、薄桃色のワンピースとショールを被り、白に近い空色のシャツを着た新郎に寄り添って立っている。
成人たちのように櫓台には上がらず、噴水の近くに集まって、親戚や友人達から祝いの言葉を受けている。
カインハウザー様の祝辞のあと、花婿から花嫁にブーケを手渡されたタイミングで、私は、カインハウザー様に背後から肩を支えられ、先ほどと同じように、素敵な花嫁達を祝う言葉を紡ぐ。
精霊の降り注ぐ祝福の光は、花嫁のワンピースやショール、髪などに留まって燦めき、妖精の歓喜の花のシャワーは、感極まった花嫁達を泣かせていく。
「シオリのおかげで、過去にない祝福の儀礼となったよ」
──毎年やれって言いませんよね?
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