257 / 294
Ⅲ.女神の祝福を持つ少女たち
95.収穫祭⑤晴
しおりを挟むこの街でずっと暮らす。お嫁に行っても? ここに?
私は、この世界のことに慣れて、シーグと仲良くなれたら、サヴィアンヌに静かな人里離れた場所を見繕ってもらって、二人で遠くへ行くつもりだった。
少なくとも、美弥子の話が耳に届いたり、大神官達の目に入らない所へ行くつもりだった。今も。
「いつものように、即答で「勿論です」とは言ってくれないんだね」
ギクリとした。見透かされている気がする。いや、本当に見抜かれているのかも。
「この国の習慣に慣れて、人前に出ても目立たなくなったら、シーグを連れて、もっと人目につかない場所に行くつもりでした」
「うん。必死に溶け込むために色々頑張ってたね」
「ここは、大神殿から歩いても一日の距離で、美弥子達からも大神官からも、何かあれば目につく場所です」
「そうだね」
「それでなくても、異国から来たと判る日常的なことの認識の違いや、明らかに目立つ髪は、どうしたって隠せませんし、昨日みたいに、何かあれば僧兵に追われたり睨まれるんです」
「わたし達では頼りにならないかな」
「そんなこと! ⋯⋯そんなことないです。昨日だって皆さんに助けてもらいました」
「シオリちゃん、申し訳ないとか迷惑かけてるとか、そんなこと考えて遠慮する事はないのよ?」
「リリティスさん⋯⋯」
いつの間にか、ここで暮らすことを楽しいと、幸せだと感じていた。最初は、あんなに帰りたいと思っていたのに。
もっとも、帰ったところで両親もいないし、美弥子とあと五年は気まずい生活をしなくてはならないけど。
「ここでの暮らしが楽しいと、幸せだと少しでも思ってくれるなら、それが、生まれ育った地に帰りたいと願う気持ちより大きくなっているのなら、帰らなくても誰にも支障がないのなら、知る人のいない遠くへひとりで行くよりもここで、私の領民になってくれないかな?」
「その、主が発行した割り札は本物だから今も領民だし、もちろん、どこかへ引っ越しても有効よ。でも、出来れば、ここで今まで通り暮らして欲しいわ」
カインハウザー様も、リリティスさんも、無理して言ってる訳でもないだろうし、私の精霊に好かれる体質を利用したくて言ってるのでもないとも思う。
判るけれど、ここは、大神殿に近すぎる。
「おそらく、ミヤコ達は近い内に王都に行くことになるだろう。この参道とハウザーを浄化して、慣れてきたのもあるだろうし、公表しても大丈夫だと確信も持っただろうからね」
今後は、王宮で饗され、懐柔されて、王都を中心に、人の多いところと主要都市から順に、浄化してまわる事になるだろう。
カインハウザー様はそう言って、私道から街に出ると、収穫祭を祝う領民たちに笑顔を振りまき、気さくな若き領主になった。
街の中心にある大広場に人がたくさんいて、ちょっと低めで大きな、盆踊りの太鼓櫓に似たお立ち台が設置されていて、若い男女が数人立っていた。
男性は全員空色のスカーフを首に巻き、女性も肩にストールのように広げてかけていた。
また、全員が、月桂樹に似た葉の冠を被っており、ところどころ白絹草や姫鈴草をあしらっていて、とても誇らしげにしていた。彼らが、今年成人する若者なのだろう。
「玻璃梼薬樹に似てるけれど、あれはリンドの木だよ。例の花畑のそばの林にいくつか生えていただろう?」
リンドの木は、葉の形や色合い、木全体的な佇まいも、玻璃梼薬樹に似ているけれど、エルバレオに比べると、リンドの方がギザギザの切れ込みが細かく入っていて、葉の縁取りや形も似ていながら、大きさや柔らかさ、匂いなどが微妙に違う。
「フィオリーナ嬢!」
んん? どこのお嬢さんを探しているの?って思ったけど、私のことだよね。キーシンさんとロイスさんが駆け寄ってきた。
「フィオリーナ嬢、成人おめでとうございます」
「本当はあと八日あるけれどね。ありがとうございます」
「フィオリーナちゃん、これ⋯⋯」
ロイスさんが差し出したのは、三鈴が棲んている、私の編んだ白絹草の花冠! それをカインハウザー様が受け取り、私の頭にのせた。
《シオリ!! ワタシもう元気になったノヨ。一鈴も二鈴もヨ。シオリのおかげダワ》
花畑の瘴気を祓ったのも、闇落ちの残骸を滅したのも美弥子だし、その後、傷ついた三鈴達を癒やしたのは、領主館の花畑の花や土や水、光や風と、それらの元素精霊や精霊達と、花畑を提供してくれたカインハウザー様だろう。
《それらが助けてくれる機会をもらえたノハ、シオリが瘴気の成長と行動を著しく低下させ、縫い付けたおかげで、それが間に合ってなければ、自分たちはこうしてここにいないから、シオリのおかげナノヨ》
そう言って眩しい笑顔で喜んでくれる。
《15度目の秋、おめでとう! 成人してもよろしくね》
カインハウザー様が台に上がり、隣に立っていたわたしも背を押されて台に上がらされる。リリティスさんが、空色の大判スカーフを持ってきて私の肩にかけてくれた。
「親愛なる、ハウザーの領民達! 本日は素晴らしい天気に恵まれて、皆の働きに精霊達も喜んでいることと思う」
カインハウザー様の、高過ぎず低くない、柔らかい伸びのある声が、拡声器も使わずに、高らかに宣言した。
34
あなたにおすすめの小説
異世界で目覚めたら、もふもふ騎士団に保護されてました ~ちびっ子だけど、獣人たちの平穏のためお世話係がんばります!!~
ありぽん
ファンタジー
神のミスで命を落とした芽依は、お詫びとして大好きな異世界へ転生させてもらえることに。だが転生の際、またしても神のミスで、森の奥地に幼女の姿で送られてしまい。転生の反動で眠っていた瞳は、気づかないうちに魔獣たちに囲まれてしまう。
しかしそんな危機的状況の中、森を巡回していた、獣人だけで構成された獣騎士団が駆け付けてくれ、芽依はどうにかこの窮地を切り抜けることができたのだった。
やがて目を覚ました芽依は、初めは混乱したものの、すぐに現状を受け入れ。またその後、同じ種族の人間側で保護する案も出たが、ある事情により、芽依はそのまま獣騎士団の宿舎で暮らすことに。
そこで芽依は、助けてくれた獣騎士たちに恩を返すため、そして日々厳しい任務に向かう獣人たちが少しでも平穏に過ごせるようにと、お世話係を買って出る。
そんな芽依に、当初は不安だった獣人たちだったが、元気で明るい瞳の存在は、次第に獣人たちの力となっていくのだった。
これはちびっ子転生者の芽依が、獣人や魔獣たちのために奮闘し、癒しとなっていく。そんな、ほっこりまったり? な物語。
幻獣保護センター廃棄処理係の私、ボロ雑巾のような「ゴミ幻獣」をこっそり洗ってモフっていたら、実は世界を喰らう「終焉の獣」だった件について
いぬがみとうま🐾
ファンタジー
「魔力なしの穀潰し」――そう蔑まれ、幻獣保護センターの地下で廃棄幻獣の掃除に明け暮れる少女・ミヤコ。
実のところ、その施設は「価値のない命」を無慈悲に殺処分する地獄だった。
ある日、ミヤコの前に運ばれてきたのは、泥と油にまみれた「ボロ雑巾」のような正体不明の幻獣。
誰の目にもゴミとしか映らないその塊を、ミヤコは放っておけなかった。
「こんなに汚れたままなんて、かわいそう」
彼女が生活魔法を込めたブラシで丹念に汚れを落とした瞬間、世界を縛る最凶の封印が汚れと一緒に「流されてしまう。
現れたのは、月光を纏ったような美しい銀狼。
それは世界を喰らうと恐れられる伝説の災厄級幻獣『フェンリル・ヴォイド』だった……。
家族に捨てられたけど、もふもふ最強従魔に愛されました
朔夜
ファンタジー
この世界は「アステルシア」。
魔法と魔物、そして“従魔契約”という特殊な力が存在する世界。代々、強大な魔力と優れた従魔を持つ“英雄の血筋”。
でも、生まれたばかりの私は、そんな期待を知らず、ただ両親と兄姉の愛に包まれて育っていった。
身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜
しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」
魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。
鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。
(な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?)
実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。
レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。
「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」
冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。
一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。
「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」
これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
莫大な遺産を相続したら異世界でスローライフを楽しむ
翔千
ファンタジー
小鳥遊 紅音は働く28歳OL
十八歳の時に両親を事故で亡くし、引き取り手がなく天涯孤独に。
高校卒業後就職し、仕事に明け暮れる日々。
そんなある日、1人の弁護士が紅音の元を訪ねて来た。
要件は、紅音の母方の曾祖叔父が亡くなったと言うものだった。
曾祖叔父は若い頃に単身外国で会社を立ち上げ生涯独身を貫いき、血縁者が紅音だけだと知り、曾祖叔父の遺産を一部を紅音に譲ると遺言を遺した。
その額なんと、50億円。
あまりの巨額に驚くがなんとか手続きを終える事が出来たが、巨額な遺産の事を何処からか聞きつけ、金の無心に来る輩が次々に紅音の元を訪れ、疲弊した紅音は、誰も知らない土地で一人暮らしをすると決意。
だが、引っ越しを決めた直後、突然、異世界に召喚されてしまった。
だが、持っていた遺産はそのまま異世界でも使えたので、遺産を使って、スローライフを楽しむことにしました。
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる