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Ⅳ.幸せに忍び寄る悪夢
6.精霊力を込めた剣
しおりを挟むドルトスさんの剣は、黒翼隊のみんなのものよりもどっしりしていて、肉厚でよく斬れそう。
柄頭の宝石のような飾りと、刀身の樋の部分の周りに刻まれた紋様が青白い光を放っているのは、精霊の魔力を込めてあるから。
巫女が精霊を下ろし、精霊付与しないと魔怪や穢れを受けた魔獣は斃せない。というのが通説だけれど、このハウザーに限っては、少し違う。
完全に滅することは出来ないけれど、精霊力を付与された武器を持ち、穢れを削いだり魔怪の肉体を細切れに斬り捨てることが出来るのだ。
黒翼隊のみんなが特別だったのは、そのせいだという。
この国には真面な精霊術士は育たないそうだけれど、加護を受ける人は少なくない。精霊術の使い方を知らないだけなのだ。
ハウザー砦町の衛士隊の半分は、カインハウザー様の退役に追随して辞職し、町まで着いて来た黒翼隊の騎士達で、彼らは全員、何らかの精霊の加護を受けている。中には、複数の精霊から守護されている人もいて、巫女の使う精霊付与に似た効果を得られるのだという。
ドルトスさんは黒翼隊の騎士ではないけれど、カインハウザー様のお父様と共にこの砦を守ってきた、国境警備隊の隊長さんで、その前は王都の近衛騎士だったそう。
今のお酒が大好きで、無精ひげの娘大好きお父さんなドルトスさんからは想像がつかない。
近衛騎士って、王族とお城を守っているエリートだよね?
でも、今、悪魔族と対峙しているドルトスさんは、キリリとして、若い頃はモテたんだろうなという頼もしさを醸し出していた。
「いいか、お嬢ちゃん。俺がアイツを追い払えたらいいが、もしやられてもどうにかしようとは思わずに、そこの狼犬に乗って、国境まで逃げろ」
「ええ?」
「いつかの花畑の穢れた山犬の比じゃねぇんだ。アリアンが何人もいて束になってかかっても、斃せるもんじゃねぇ。
解ったな? 俺がやられても、構わず逃げろ。この国のどこに逃げてもダメだ。国境を目指せ。隣のアルファリテ皇国なら巫女が三人いるし、聖騎士もまともに戦える。悪魔が出たと言って、亡命しろ」
「そんな、みんなを置いてなんて行けない」
悪魔から目を離さず、半身をこちらに向けて、ドルトスさんは私に叱りつけた。
「聞き分けろ! 本当に、どうしようもないんだ。そして、この町の住民で、救助すべき最優先は、女子供達でも老人でもなく、ウチの娘よりもセル坊よりも、何よりもお嬢ちゃん、お前さんが最優先なんだよ」
そんな!?
《効率の問題ね?》
「そうだ」
サヴィアンヌは、なぜドルトスさんがそう言うのかが解るらしい。
《町で怯える子供達を助けに行っても共倒れになる可能性がアルシ、助かっても、それダケ。その後魔族や闇落ちの襲来を受けた時に同じ事が起こるダケ》
『シオリだと、違うと言うことか』
《ソウヨ。シオリだと、光の精霊達と、闇に落ちた町を救えるようになる可能性がアル。今は護られるダケの少女デモ、巫女以上の役目を果たせる可能性がアルノ。だかラ、ただの子供よりも、精霊に好かれても魔力が少ないセルティックよりモ、シオリ、アンタが優先ナノヨ》
非情なようだけど、聞き分けてくれ。
そういうドルトスさんが、苦しそうなのが解る。
サヴィアンヌの言う、効率の問題だと理解していても、それが重要事項なのだと理性が選択していても、町のみんなを護りたい、娘さんを一番に助けに行きたいと、感情は叫んでいるのだ。
魔力や霊力を、剣に上乗せして噴出しているせいか、周りの地精や霊気と共に感情が伝わってくる。
「仕方ねぇな、そうなったら、女王陛下が眠らせて、そこのわんこが国境⋯⋯いっそ皇国内まで連れ出せ。いいな?」
《⋯⋯任せてちょうだい。ワタシの守護するシオリを死なせやしないワ》
「勝手に約束しないで!!」
《この場合は、アンタの意志は関係ないワ。世界の大義のためヨ》
精霊ほど厳格ではないにせよ、妖精も世界の調和を保つための魔法機構の1つである。
普段はイタズラやお喋りばかりの妖精も、世界の存亡をかけた事態には、女神の教えや世界の理に従うのだろう。
私を狙っているのか、ただ魔力が高い地点に寄ってくるだけなのか、感情の起伏が激しい人の多いところを好んでいるのか。
シーグの鬣を撫でながら、一歩、二歩、下がる。
魔力防御の高い集会所から少しづつ離れてみる。
あちらこちらを見ていた悪魔族の一匹が、目玉もないのに真っ黒で虚ろな洞のような目をこちらに向ける。
ドルトスさんには関心を向けず、こちらへゆっくりと滑るように、音もなく近寄ってくる。
《チッ ワタシの遅滞魔法の効きがよくないワ。瘴気を捲き散らかすだけデモ困ったちゃんナノニ。闇魔法を使わないだけまだましカシラ》
ドルトスさんが、剣を大きく振りかぶった⋯⋯!!
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