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保護児童(ただ飯食い)から公爵様の愛妾に昇格?
目覚めて少しだけ変わった状況──それでもやはりお父さん抱っこは定番なのね?
しおりを挟むルーティーシアさんとお母様にとても喜ばれた。
「おはようございます」
ルーシェさんの腿と腿の間にすっぽり収まり、背中から抱き寄せられるように座った状態での挨拶はなんだかしまらない気がしたけど、私がちゃんと食べられるか心配だと、目が放せないと言うルーシェさんに逆らわずに、
「私は子供。ちっちゃな欠食児童」
と唱えて、居たたまれなさを堪える。
なんで、誰も、たとえ子供だと思ってても、その位置づけはおかしいと指摘しないのか。
公爵様のなさる事なら赦されるのか。
それとも、みんな本当に私をちびっ子だと信じてて、微笑ましい光景だと思っているのか。
「元気になってよかったわ」
お母様にも、添い寝してくれたルーティーシアさんにも、ご心配おかけしました。
お母様のにこにこ笑顔は、かつて見た事ないほど綺麗で嬉しそうだった。
「ヴァニラの好きな鶏肉とベリー尽くしにしてもらった。たくさん食べなさい。肥る瘠せるは気にせずに。後で運動の事は考えるから。今は、とりあえず食べなさい」
また、親鳥よろしくスプーンが幾度も行き来する。
「じ、自分で食べられます」
「遠慮しなくていい」
ち~が~う~!!
そうじゃない。遠慮じゃなくて、恥ずかしいんだよぅ。
お母様もルーティーシアさんもマーサさんも、執事や給仕のメイドさん達もみんなにこやかに見守ってくれてます。泣けてきた。
言葉が通じてる今が「子供ぢゃない!」と訴える好機だとは思う。……思うが、今は、無理!
美女のようにも見えるお綺麗な青年の、胸やお腹に密着して腿と腕に挟まれ、幼児のように収まっている私が、40代後半のオバハンです、もしかしたらお母様より年上かもしれません、なんて、どうしても言えないぃ。
「私は、子供は誰もが皆の宝だと思うのだ。
子供が幸せそうにしていれば、その姿を見る者も幸せな気分を分けてもらえる。子供が幸せなら、その領地は良い領地なのだと、皆が実感できる、と信じているのだ」
「はい。それは、解ります。とてもよい考えだと思います」
「だから、ヴァニラも、泣いてばかりいないで、もっと笑ってくれ」
デザートのベリー尽くしタルトを、口元に差し出される。
初日のように、欠片が零れないように、躊躇わずにサクッと囓る。
「美味しい」
恥ずかしいとかみんなが見てるとか忘れて、つい口元が弛み、声が軽くなる。
「もっと食べなさい。好きなだけ食べていいから」
両手で崩れないようにそっと持って、2つ目のタルトをあむあむ食べる私を、お父さんのような温かい眼で見て微笑み、ご馳走さまを言うと、横から目尻にちゅーをくれた後、首を上向けさせ「あーんして?」と口を開かせる。
まだ、なんかお菓子でもつっこまれるのかと思ったら、歯磨きでした。
ルーティーシアさんかメイドさんがしてくれるのより丁寧で、長い! ちょっと首が疲れる。
「う~、首が怠い」
終わった後、首の後ろを摩ってると、
「悪かった。次は、正面を向いてするようにしよう」
と宣った。
いえいえ、公爵様のお手を煩わせずとも、メイドさんがやってくださるのですが……
玄関ホールから階段裏へ回ると、扉が3つあり、その内の1つは、お庭に出るもので、1つは半地下の作業場に行くもの。洗濯や家具の修理など、下仕事をする人達の職場らしい。
そして、残りの1つは、地下の、代々の公爵家の魔術師の研究室があるそうで、その中の一部屋が、転移魔法陣が敷かれているらしい。
この魔法陣を使って、王宮や魔道省の地下と行き来するそうだ。設定された場所にしか行けないらしい。
ルーラみたいなもんかな?
「それじゃ、私は、局に戻るが、ちゃんと食べてちゃんと休みなさい」
「はい」
「なるべく帰るようにするが、留守の時、どうしても眠れなかったら、また、連絡しなさい。マリヴァが、連絡法を知っているから」
やはり、時々急に帰ってくるのは、ルーティーシアさんが呼び出してたんだ。
迷惑かけちゃったな……
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