異世界ってやっぱり異国よりも言葉が通じないよね!?

ピコっぴ

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保護児童(ただ飯食い)から公爵様の愛妾に昇格?

独り寝と添い寝と、抱き枕?

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 きらきら光る魔法陣の中で、だんだん消えていくルーシェさんを見送った後、暗い廊下に出て、階段を昇る。
 魔道具や素材など貴重品を運ぶ事もあるからか、一段一段が低い。私が上り下りしても低いと感じるくらいに。

 エントランスの階段の裏に出ると、スーッと今通ってきた扉は消えて見えなくなる。

 ぬ? もしかして、エレキシェルアルガッフェイル公爵家の秘密の1つを知った?

「ヴァニラ、午前中の習いご……ウェブマルガ(以下略)」
 ありり、また、通じなくなっちゃった。

 やっぱり、ルーシェさんがいないと効果出ないのかな?

 ルーティーシアさんはため息をついて、私の手を柔らかく握り、サンルームへ連れて行く。
 お母様となにか話した後、ソファに座り、私も座らされ、メイドさんが刺繍セットを持ってくる。
「ウィックルフバル、アンダーシュルヴィル」
 はあ、どの単語も初耳のような気もするし、聴き取れてないだけで、よく聞く言葉なのかもしれない。

 たぶん、心配そうな顔からして、無理ならしなくてもいい、みたいな事を言ってると思われる。

 まあ、この世界の基本的な刺繍は、無心に出来る単純なやつが多く、一週間以上泣き暮らしてたリハビリにはいいでしょう。

 てか、私が刺繍やパッチワークキルトを習う必要性ってなんなんだろう。次、言葉が通じたらぜひお聞かせ願おう。
 ただ、暇だから、とか、なんとなくって言われたらどうしよう。

 実は副業内職で、できの良いやつは町で売られているとか? だったら大人しくいっぱい造ります。

 躾や嗜みとかって、貴族の令嬢と同じように過ごすだけの意味なら、別のことがいいなぁ。


 ……無心に ……無心

 ちくちく刺す針を集中して見てると、近視が進みそうで怖い。

 ちくちく

 無心…… 無になれ…… 無に…… む……


「あーー!!」
 しまった! 不思議フィールドで言葉のイメージや感情が共有されて、会話が成り立つ間に、本が読めるか試したらよかった!! くーっ なんで、さっき、思いつかへんかってん。

 その私の考えは、不思議フィールドで心が繋がってなくても、手に取るように解ったらしい。ルーティーシアさんが肩を抱き寄せて、頭を撫でてくれた。

 その日は雨も降らず、午後からはテラスに出て、お茶会(お母様とルーティーシアさんしか出席者いないけど)で、マナーのお勉強も兼ねていた。

 小鳥さん達も来て、1人づつ頰擦りをしていく。
 更に、おやつに、蜜やクリームのついてないベリーを啄んでいく。

 丁寧に茶葉を蒸らし、シャンピングもさせて、温めていた茶器に淹れる。

 メイドさんやルーティーシアさんみたいに魔法が使えたら一瞬でも、魔道の使えない私は、カップを温める過程から始めなきゃならない。
 
 でも、元々こういうのは好きだから、もう慣れた。お母様の指導も入らなくなってきた。

 夕飯は、ルーシェさん抜きで、鶏の挽き肉をハンバーグのようにしたものが出て来てテンションあがった。(まるっきり子供?)


 夜、お風呂も済んで、ベッドの中でうとうとしつつ、またうまく眠れない事にウンザリしていると、寝室の扉が開き、のっぽの影が近づいてくる。

「ヴァニラ」
 ルーシェさん、今夜も帰宅されたのか。
 お月様はお風呂の前に中天して、少し傾いていたので、もうすぐ11時くらいだろう。

 ルーシェさんはマントをどこかに置いてきたか執事さんが持ち去ったのだろう、魔道省の制服?──厚手の綿や絹──の上着を脱ぎながら天蓋の内側へ入ってくる。
「ルーシェさん? おかえりなさい」
「ヴァニラ、トンダウヌーヴィルマ、ウィヒ」
 暗い部屋でも爛々と光るような、どこか剣呑とした眼でこちらを見つめ、ふらっとかしげると、片手をベッドに突いて、

 ギシッ

もう、片手を私の頰に滑らせる。
 ルーシェさんは、子供(今は私の事だけど)の頰を滑らせるのがお好きなようだ。だから、メイドさん達は、毎日私の頰と髪の手入れは欠かさない。

 二言三言、なにか囁いて、鼻のてっぺんと額にちゅーすると、ごそごそと掛布の内側に入って来て、横向きに躰を沈め、下になった右腕を私の枕に、左腕で背を押して私を引き寄せる。

 完璧な抱き枕設定だ。

 ここまでは、まだいい。私の安眠のために、私がルーシェさんの、ルーシェさんが私の、生きた温かい抱き枕に、お互いなるのだ。

 だが、ルーシェさんはそれにオマケをつけた。別になくていいのに……

 逃げられないくらいガッチリ抱き込むと、額とこめかみと頰に、しっとりとしたちゅーをくれて、私の平常心を乱しておいて、自分はいちにのさん、ですやすやと眠りに落ちた。
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