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【萌々香 Ⅱ】
📵15 憔悴(21/12/4 一部加筆)
しおりを挟むのっぽのほっそり魔法士のクセに、案外しっかり筋肉がついている、これが細マッチョかという腕と胸の感触を、背中や頰に感じながら、魔力が自分の体の中で巡り作用していくのをじわりと感知している。
馴れとは恐ろしいもので、男の人に抱き締められてる、キャ♡なんて乙女心は死にました。
今では、この時間が一番落ち着ける。
この人の腕の中にいる間は、誰も構ってこないし、魔物に囲まれることもない。
眠っていても、高笑いをした愛唯に火球を投げつけられたり(たぶん妄想)、性的興奮状態の魔物に囲まれていたり、獲物を狙って舌舐めずりする魔獣に押さえつけられたり(防御魔法のおかげで直接触れられたことはない)、悪夢ばかり見るのだ。
「終わったよ、モモカ。もうい⋯⋯ぃよ。モモカ、大丈夫かい?」
恐らく、暗い目をしてボーッとしているに違いない私の顔を覗き込み、マクロンさんが心配してくれる。
お父さん抱っこで抱き上げ、みんなが待つ宿屋のエントランスへ下りる。
そう。最近は、わりと遠出して、宿に泊まり込みで魔物を退治して廻っているのだ。
マクロンさんが言っていた、草原と荒野が手付かずの広いだけの国といっていたのが実感できる。
「なあ、今日は止めにしないか?」
「何を言う。魔物や魔獣に苦しめられる民のために、討伐を行うのは、我々の務めであろう。一日たりともサボる訳にはいかん」
民の犠牲を防ぐために、私が生贄なのだと、改めて思った。
馬車に乗り込み、巨岩が転がる山道を進む。
今日は、この岩山の魔獣を狩るらしい。
私達の毎日の行動は、国民のための尊い行為だと言うけれど、もう、どうでもいいよ。そもそも私はこの国の人間じゃないし。
疲れたとか止めたいと言っても、聞き入れて貰えないのだから。
「モモカ。いいかい? よく聞いて」
マクロンさんが、同乗者である愛唯に聴こえないように、耳元に口をつけるように、息を吐くだけほどに小さな声で話し掛ける。目には見えないけれど、少し風の精霊がチラチラ周りを飛んでいるので、もしかしたら音声を遮断する魔法も使っているのかもしれない。
「僕が毎日掛けている防御魔法の流れは、体に染みついているね?」
マクロンさんの温かな魔力が自分の体の中で巡るのを毎日感じている。そして、それらがマクロンさんの意思を帯びて、私を包み込む魔力の膜のように、力強い防御魔法になっていくのも。
声に出さず、ただ頷く。
「たぶん、イメージするだけで自分でも使えるようになってるかもしれないよ。一度試してみて? それから、君が声を聞くことの出来る精霊達は、君のことが大好きだから、少しだけ力を分けてあげる事で、友達になれる。精霊の居るところでは、君は、精霊に任せれば、身を守ることが出来るはずだよ。覚えておいて」
なんだろう、お別れの最後の確認のように、優しく教えてくれる。
なんだか泣きそうになる。
マクロンさんの膝の上で、涙が一粒落ちると、支える彼の腕の力が少しだけ強くなって、「大丈夫だよ、きっと上手くいくから」と囁きながら、頭に顎を乗せて宥めてくれる。
愛唯にはその一連のやりとりが、恋人の抱き寄せたり、耳やこめかみに唇を寄せたり、抱き締めたりに見えたのか、眉根を寄せてやや低めの声で訊いてきた。
「だから、アンタ達、付き合ってんの?」
「「付き合ってない」」
次話
📵16 ゴブリン襲来
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