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竜王国って、竜の国?
🚷29 手荷物検査
しおりを挟む持ち物検査。昨夜の内にしなくてよかったのかな。今頃、ポケットの中味を確認している。
もっとも、キュロット風のレーヨンワイドパンツのポケットのハンカチ以外何も入ってな⋯⋯
「これはなあに? これも伸び縮みするのね」
愛唯に水濠に突き落とされた時に買い物袋は手放してしまったし、パーカーのポケットに入れてた財布とスマホはどのタイミングでか落としてしまっていたので、本当に着の身着のままの筈だった。それは、美土里や愛唯も同じである。夏休みの課題を入れたショルダーバッグやポケットのスマホなどは、こちらで目覚めた時には持っていなかったと言っていた。
確かに何もなかったと思ってたけど、なぜか、アディライトさんがパーカーの右のポケットから、絞り染めの折りたたまれたエコバッグを掘り出してきた。
なんで、空っぽで、折り畳まれてるの? 誰が畳んだの?
三つとも、最大限伸びきってパンパンに買い物を入れていたはず。
「これは、絞り染めと言って、生地を摘まんで糸で絞ったのをいっぱい作ってから染めるんです。染め付けが済んだら糸を解いて。糸で縛っていた所だけ染め残ってこんなフジツボの形に縮んでるんです。私の生まれ故郷の伝統工芸のひとつですね」
絞った跡がアポロチョコ型に突き出た部分を摘まんで、説明をする。
「面白いわね。これはシルクなの?」
「残念ながら、シルクだと高価すぎるしレーヨンだと荷物を入れるのには生地が弱いので、ポリエステル繊維と少しのポリウレタンですね。たぶん、この世界にはない、或いはまだ合成されたことのない素材だと思います」
ポリウレタンは、経年劣化の激しい素材だ。使っても保管していても、合成された瞬間から、経年劣化は始まる。
つまり、早ければ2~3年後にはウレタン繊維はボロボロの脆い古ゴム状態になってしまうだろう。この世界に来てしまった以上、買い換えられないのは残念だ。お気に入りなのに。
「そう。可愛いし綺麗だし、便利そうなのに、耐久力が数年なのね⋯⋯」
「ウレタン繊維は脆くなって抜け落ちるとは思いますが、洗濯に気をつけていれば、多少伸びはよくなくなっても暫くは使い続けられると思います。ただ、プラスチックやポリエステル繊維の精製方法を識りませんので、この世界で再現は⋯⋯ごめんなさい」
「いいのよ。ただ、『絞り染め』は面白そうだから、染織工芸協会に相談してもいいかしら?」
「はい。こちらでも流行ってくれたら嬉しいです」
「最初は物珍しさに流行るだろう。よかったな、特許料が入るぞ?」
異世界人の特例措置のひとつに、持ち込んだ技術によって、持ち込んだ人物の名義で特許を取得出来る事があるらしい。
軍事力に影響が大きい技術や、禁呪になるような魔法など、危険な物でなければ国内で公表し、その技術を使われる度に特許料が、保護した国と折半で貰える。
これは、異世界から来た人物が、生活に馴染めなかったり、何らかの理由で働けない場合の、救済措置なのだという。
次話
🚷30 エコバッグ
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