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今日から冒険者(仮)
🚯10 ぴちょんの水球
しおりを挟む贋マクロンさんの放った火球は、愛唯のそれほどには、強烈な火力はない。
試験だから全力の攻撃力を投入していないのか、マクロンさんは攻撃魔法を使わないという先入観が影響しているのか、愛唯が異世界からの御遣い聖女で規格外なのか。
比較対象が、火の精霊の守護を得た異世界チートの愛唯だけなので、判断しにくい。
「モモカ!!」
ガヴィルさんの焦った声が聴こえるけど、私は鼻で笑い飛ばした。
ガヴィルさんの心配を、ではなく、この贋マクロンさんの火球魔法を、だ。
ガヴィルさんの得意な風魔法では火魔法を防ぐことは出来ない。回復魔法と水霊の守護は、共に少なく強い魔法は行えないと言っていたから、手助けにならない分、心配なのだろう。
でも判る。この火球は、ぴちょんの敵じゃない。
さっき、贋マクロンさんが現れるきっかけになったのだろう『衝撃緩和保護魔素分解吸収』は、マクロンさんの調整で纏った時よりも、今精霊達の助けを借りて自分で張ったものの方がより強固な防御膜なのだと、魔力の操作と感知に慣れた今なら解る。
私の確信が幻影魔法に効くのか、幻影だから影響はないのか、単純に魔力差なのか、贋マクロンさんの放った火球は、一㎜たりとも私を燃やすこともなく、ぴちょんによって鎮火されてしまう。
いや、勢いを鎮めて消火したのではなく、火球を作り出す魔法そのものをキャンセルしたのだろう。相剋関係の上位になるぴちょんだけでもキャンセルできるだろうし、同じ火の精霊でも名前持ちのメラなら力比べで打ち勝つかもしれない。
着弾したはずの火球魔法を顔色変えずにキャンセルした(ように見える)私に、贋マクロンさんの動揺が見える。
「なかなかどうして、やるじゃないか。モモカ、僕に逆らうなんて、悪い子だね?」
「その(マクロンさんの)声と顔で、そんな事、いうなあぁ!!」
私は魔法による戦闘への恐怖とは違った意味の涙をこぼしながら、右手の爪にぴちょんの霊気を借りて溜め、一気に人を包み込める大きさの水球を作り出して贋マクロンさんに投げつけた。
バケツで水をぶっかけたみたいになると思っていたのに、なぜか水球は贋マクロンさんの全身を覆ったまま保っている。なんでやねん。
そうなると当然、息は出来なくなる。えら呼吸が出来る魚類や両棲類でなければ。
予想通り、贋マクロンさんは喉元を掻き毟るように苦しみだした。
と言うことは、あれはリアルな人間だということ。
一番ありなのは、マクロンさんに見えるけど、試験官の剣士のお姉さんなのかな。
「ぴちょん、ありがとう。もういいよ。あのままじゃ窒息しちゃう」
──えー? つまんない
──モモカを泣かせた報いだよね? 償いはぁ?
「いや、いいから。きっと、精神攻撃にも耐えられるかの試験だったんじゃない?」
パシャン 水の弾ける音がして、贋マクロンさんを覆っていた水はすべて地面に落ち、贋マクロンさんも地面も濡れていないほどに、綺麗にお水は消えた。
ぴちょんは不承不承ながら、維持されていた水球を解除したようだった。
次話
🚯11 いいわけ?
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