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心を守ってくれた優しい人
🚫4 返り討ち
しおりを挟む狩人らしき男が流れるように矢を番い、まるで矢の雨が降るように次々と飛ばしてくる。
魔法士サヌルは、何やら魔法の詠唱に入った。
斥候と格闘家が素早い動きで私達を囲む。
三方向を取り囲まれた中、唯一開いた方角、森への街道の先に立っていた剣士が、大きく振りかぶって、力を溜め、一気に振り下ろした。
あんな所から?
大刀の刃そのものは届かなくても、衝撃波が、解りやすく土や小石、草っぱなどの街道直線上の障害物を掘り返し抉って撒き散らしながらこちらへ迫って来る。
「あれ防護領域で跳ね返せる?『衝撃緩和保護魔素分解吸収』使わなきゃ⋯⋯」
──ん~、大丈夫じゃない?
──心配ないよ
なぜかのんびりした精霊達。
「マクロンさん、逃げ⋯⋯」
「大丈夫ですよ、竜妃さま」
「イサナに言ったんじゃない。萌々香は、私に言ったんだ」
さっきからマクロンさんが謎の張り合いを見せる。どうしたんだろう。
ガヴィルさんにもイサナさんにも、不思議な論理で突っかかる。
「髪の色が違うだけで、私が誰だか判らなくなるとは、魔法士としては二流だな。他の4人も、相手の力量を見極められないとは、死に急ぐようなもの。もっと、精進しろ」
私を抱える右腕はそのまま、左腕だけを迫ってくる衝撃波の方へ向けて伸ばす。
私を抱える右腕も地に立つ足もそのまま揺るがず、「愚かな」のひと言だけで、剣士の放った衝撃波を受け止め、どうやったのか相殺する。
「ええっ!? 何かの魔法? あれを受け止められるって、もはや人間業じゃな⋯⋯」
「萌々香にかすり傷でも負わせられないからね。危ないものは消しておいたよ」
当然とばかりに微笑んで、私と目を合わせ、衝撃波を摑んで相殺した左手で私の頰を撫でる。
「イサナ。その馬鹿者達をふん縛って、軍の治安部隊に突き出しといて」
「罪状は?」
「窃盗と、詐欺、ストーキングした挙げ句の振られた腹いせに暴力行為」
「ストーキングはあなたもでしょう。窃盗と詐欺の被害内容は?」
「ストーキングじゃない。見失ったから、霊気や魔力を追跡しただけ。
窃盗は未完遂だが、私の萌々香を不当に入手しようとした事。身の程を知れ。しかも振られたならさっさと引き上げればいいものを、脅迫してまで強引に連れ去ろうとするなど、笑止千万」
「なら、窃盗ではなく誘拐ですね。それと、暴行罪のうえ、脅迫罪も追加、と」
「詐欺は、自由民協会に嘘の依頼を出して、萌々香を誘い出して連れ去ろうとした事。恐らく、これまでも、他人の獲物を横取りしたり掠め取る行為で稼いで来たのだろう、馴れた手口のようだったから、追求するように」
「承りました。我が君」
「マクロンさん?」
「セフィル」
「え?」
「本当の名は、セフィル。風のようにという意味だよ」
「本当の、名前?」
「マクロンって言うのは、母の旧姓。イサナは叔父なんだけど、歳が近くて、子供の頃から傍にいた兄貴分なんだ」
「叔父さん⋯⋯ 私、あの人どこかで見た事が⋯⋯」
偽依頼主だったらしい五人組は、まだ捕まった訳じゃない。
私とマクロンさんが話している間にも、格闘家が気配を殺し(切れてないし見えてるけど)気配を絶ったつもりで飛びかかってくるし、その殺気に紛れて斥候も気配がダブる感じで溜めた腰にナイフを隠し持って襲ってくる。
「あ~もぉ、うるさいよ、君たち」
彼らの方を見もしないで振り下ろした左腕。それだけの行動で、何も変わったようには見えなかったけど、格闘家と斥候は後ろに吹き飛んでいった。
余波を受けたのか一呼吸遅れて魔法士が後転で転がっていく。杖は転がっているのを、イサナさんが拾い上げた。
「中々、彼らには勿体ない良物ですねぇ。これも誰かから搾取したものなんでしょうか?」
更に、街道の先に立っていた弓士と剣士も倒れていた。
何をしたのかな? マクロンさんっていったい⋯⋯
何もなかったように微笑んで、抱えたままの私を降ろすこともなく、
「さ、帰ろうか、萌々香。陽が落ちたらこの辺りはグッと寒くなるからね、冷えたら大変だよ」
と周りの様子には取り合わず、城門の方へ歩き出した。
次話
🚫5 眩しい笑顔の⋯⋯
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