138 / 162
魔導大会四日目
殺し合い
しおりを挟む
審判から正式に試合続行の判断が下され、アルムの止血や斬り落とされた腕の回収のため5分のインターバルが設けられた。
「まさか小休憩を挟めるだけとか何考えてんだ連盟はよっ!」
「お気持ちは分かりますが少し落ち着いてください」
苛立ちを見せるライザにカルティアは注意する。
「はっ、お前だって望んでない展開じゃないだろ?」
「……⁉」
「ライザさんっ!」
「……悪い、すこし頭冷やしてくる」
ライザは応援席から立ち上がり会場のどこかに消えていった。
「ありがとうございますテイバン。しかしライザ君の言う通りなのかもしれませんね」
「カルティア様が気に病む必要はありません。全てはアルムの意思によるものなんですから!」
フォローするテイバンだが彼女の曇った表情を拭うことは出来ない。
(没収試合にならなかったのは不幸中の幸いだが)
「そんな怪我を負ってまで応援なんてできねェよ……」
テイバンは痛々しい彼の姿を見て前向きな気持ちにはなれなかった。
「アルム選手、止血は出来ましたがやはりここは――――」
「ありがとうございました」
監督者の助言を感謝の言葉で遮り、アルムは歩み始める。
右肩から下をごっそり斬り落とされたせいで左右のバランス感覚が狂い、お世辞にもしっかりとした足取りとは言えない。
端から見ればひどく滑稽に見えるかもしれない、しかしそれを笑う者は誰一人としていなかった。
「あんな状態で戦いを続けるとかアルムもベレスもどうかしている」
「あんたがそういうなんて珍しいわね」
「タリオナっ! 寝てなくて平気なのか?」
観客席の渡り廊下から独り言を呟くライオス。
その隣には病室で療養していたはずの彼女が槍を片手に佇んでおり、魔法でこの会場まで来たことが伺えた。
「怪我は治療したから問題は無いわ。それにしても戦闘狂のあんたにしてはらしくないわね」
「だれが戦闘狂だ! 俺は全力で、かつ軽傷で済む戦いが好きなだけだ。腕を斬られたとか脚を貫かれるとか真っ平ごめんだね! そんなのは――――」
「『殺し合いの時だけで十分』、でしょ」
「……ああっ!」
言い当てられたことは面白くないが同時に否定はしない。
戦争孤児だった彼らにとって殺し合いは身近な存在であり、最も忌み嫌うもの。
「それは同感、二度も殺し合いで死にたくないわ」
タリオナは丸眼鏡をくいっと挙げ、彼らの戦いを見届ける準備をした。
「五分経過しました。双方、位置について下さい」
審判は気を取り直して職務を全うする。
「ここからは私も勝敗が決するまで介入は致しませんので、存分に戦い下さい」
本意ではない、しかし選手である彼らがそれを所望しているのだ。
(私が邪魔と言うのなら、潔く身を引きましょう……)
「双方、恥じない戦いを……戦闘開始!」
「【黒器創成】!」「【火炎付与】!」
再戦の合図が出されると飛び掛かる勢いで地面を蹴った。
アルムは魔力を纏わせた槍を突き立てベレスは炎を甲冑に纏わせた拳を突き出す。
ガァンッ!
結晶と歯牙が軋み、轟音がフィールド中に響き渡る。
拮抗すること一瞬、互いの思考がリンクするように押し合いを中断し、二撃三撃と繰り出した。
アルムは突きから左半身を後ろに反らして一回転。
遠心力で威力を高めた横振りでベレスの首を捉える。
「【手中抹消】」
首に触れる直前で右手を間に挟んで防御、消されまいと魔力を一層注ぐアルム。
しかしベレスの本命は防御ではなかった。
「――――【空裂破断】」
左手の爪先を横断し、鋭い一閃を空間に描く。
(上へ、いやそれだと間に合わない……)
「【黒棘】!」
針状の黒結晶がアルムの足元を中心に無差別に生成され、ベレスもまとめて巻き込んで吹っ飛ばす。
指向性が逸らされた一閃は明後日の方向に向かって放たれるとフィールドを覆う結界に激突、大きな裂け目を作り出した。
「「キャアァァ⁉」」
『結界魔法師20人で形成した完全なる障壁に裂け目ががァ⁉』
『会場の皆さま、すぐに修復しますので落ち着いてください』
エリアはすぐに混乱を収める。
激突した方向は観客席に当たる位置では無かったため怪我人はいない。
「狙った攻撃ですらないのにこの威力⁉」
「怖いよぉ、お姉ちゃん……」
テイバンは戦慄を覚え、マインはギュッとラビスに抱き着いた。
「大丈夫、大丈夫だよ……!」
「あんな魔法を撃って大丈夫なのか⁉ もしアルムが食らってたら……」
彼女は優しく慰め、ロイドはそんな息子の姿を容易に想像してしまった。
「やべェ、マジであの魔法だけは対処しねェと……」
(展開されたら回避は不可能、さっきのは奇跡みたいなもんだ。次は確実に……)
死が差し迫った彼の鼓動は早まり、包帯で塞いだはずの断面から血が染み出す。
「最低だけど、このやり方で攻めるか……!」
アルムは決死の作戦を思い付き、影の中に沈んで行った。
「まさか小休憩を挟めるだけとか何考えてんだ連盟はよっ!」
「お気持ちは分かりますが少し落ち着いてください」
苛立ちを見せるライザにカルティアは注意する。
「はっ、お前だって望んでない展開じゃないだろ?」
「……⁉」
「ライザさんっ!」
「……悪い、すこし頭冷やしてくる」
ライザは応援席から立ち上がり会場のどこかに消えていった。
「ありがとうございますテイバン。しかしライザ君の言う通りなのかもしれませんね」
「カルティア様が気に病む必要はありません。全てはアルムの意思によるものなんですから!」
フォローするテイバンだが彼女の曇った表情を拭うことは出来ない。
(没収試合にならなかったのは不幸中の幸いだが)
「そんな怪我を負ってまで応援なんてできねェよ……」
テイバンは痛々しい彼の姿を見て前向きな気持ちにはなれなかった。
「アルム選手、止血は出来ましたがやはりここは――――」
「ありがとうございました」
監督者の助言を感謝の言葉で遮り、アルムは歩み始める。
右肩から下をごっそり斬り落とされたせいで左右のバランス感覚が狂い、お世辞にもしっかりとした足取りとは言えない。
端から見ればひどく滑稽に見えるかもしれない、しかしそれを笑う者は誰一人としていなかった。
「あんな状態で戦いを続けるとかアルムもベレスもどうかしている」
「あんたがそういうなんて珍しいわね」
「タリオナっ! 寝てなくて平気なのか?」
観客席の渡り廊下から独り言を呟くライオス。
その隣には病室で療養していたはずの彼女が槍を片手に佇んでおり、魔法でこの会場まで来たことが伺えた。
「怪我は治療したから問題は無いわ。それにしても戦闘狂のあんたにしてはらしくないわね」
「だれが戦闘狂だ! 俺は全力で、かつ軽傷で済む戦いが好きなだけだ。腕を斬られたとか脚を貫かれるとか真っ平ごめんだね! そんなのは――――」
「『殺し合いの時だけで十分』、でしょ」
「……ああっ!」
言い当てられたことは面白くないが同時に否定はしない。
戦争孤児だった彼らにとって殺し合いは身近な存在であり、最も忌み嫌うもの。
「それは同感、二度も殺し合いで死にたくないわ」
タリオナは丸眼鏡をくいっと挙げ、彼らの戦いを見届ける準備をした。
「五分経過しました。双方、位置について下さい」
審判は気を取り直して職務を全うする。
「ここからは私も勝敗が決するまで介入は致しませんので、存分に戦い下さい」
本意ではない、しかし選手である彼らがそれを所望しているのだ。
(私が邪魔と言うのなら、潔く身を引きましょう……)
「双方、恥じない戦いを……戦闘開始!」
「【黒器創成】!」「【火炎付与】!」
再戦の合図が出されると飛び掛かる勢いで地面を蹴った。
アルムは魔力を纏わせた槍を突き立てベレスは炎を甲冑に纏わせた拳を突き出す。
ガァンッ!
結晶と歯牙が軋み、轟音がフィールド中に響き渡る。
拮抗すること一瞬、互いの思考がリンクするように押し合いを中断し、二撃三撃と繰り出した。
アルムは突きから左半身を後ろに反らして一回転。
遠心力で威力を高めた横振りでベレスの首を捉える。
「【手中抹消】」
首に触れる直前で右手を間に挟んで防御、消されまいと魔力を一層注ぐアルム。
しかしベレスの本命は防御ではなかった。
「――――【空裂破断】」
左手の爪先を横断し、鋭い一閃を空間に描く。
(上へ、いやそれだと間に合わない……)
「【黒棘】!」
針状の黒結晶がアルムの足元を中心に無差別に生成され、ベレスもまとめて巻き込んで吹っ飛ばす。
指向性が逸らされた一閃は明後日の方向に向かって放たれるとフィールドを覆う結界に激突、大きな裂け目を作り出した。
「「キャアァァ⁉」」
『結界魔法師20人で形成した完全なる障壁に裂け目ががァ⁉』
『会場の皆さま、すぐに修復しますので落ち着いてください』
エリアはすぐに混乱を収める。
激突した方向は観客席に当たる位置では無かったため怪我人はいない。
「狙った攻撃ですらないのにこの威力⁉」
「怖いよぉ、お姉ちゃん……」
テイバンは戦慄を覚え、マインはギュッとラビスに抱き着いた。
「大丈夫、大丈夫だよ……!」
「あんな魔法を撃って大丈夫なのか⁉ もしアルムが食らってたら……」
彼女は優しく慰め、ロイドはそんな息子の姿を容易に想像してしまった。
「やべェ、マジであの魔法だけは対処しねェと……」
(展開されたら回避は不可能、さっきのは奇跡みたいなもんだ。次は確実に……)
死が差し迫った彼の鼓動は早まり、包帯で塞いだはずの断面から血が染み出す。
「最低だけど、このやり方で攻めるか……!」
アルムは決死の作戦を思い付き、影の中に沈んで行った。
2
あなたにおすすめの小説
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
クラス全員が転生して俺と彼女だけが残された件
兵藤晴佳
ファンタジー
冬休みを目前にした田舎の高校に転校してきた美少女・綾見(あやみ)沙羅(さら)は、実は異世界から転生したお姫様だった!
異世界転生アプリでクラス全員をスマホの向こうに送り込もうとするが、ただひとり、抵抗した者がいた。
平凡に、平穏に暮らしたいだけの優等生、八十島(やそしま)栄(さかえ)。
そんな栄に惚れ込んだ沙羅は、クラス全員の魂を賭けた勝負を挑んでくる。
モブを操って転生メンバーを帰還に向けて誘導してみせろというのだ。
失敗すれば、品行方正な魂の抜け殻だけが現実世界に残される。
勝負を受ける栄だったが、沙羅は他クラスの男子の注目と、女子の嫉妬の的になる。
気になる沙羅を男子の誘惑と女子の攻撃から守り抜き、クラスの仲間を連れ戻せるか、栄!
異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件
fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。
チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。
しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。
気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。
笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!
暗殺者から始まる異世界満喫生活
暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。
流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。
しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。
同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。
ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。
新たな生活は異世界を満喫したい。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
近未来の魔法世界に転生して最強ハーレムを作る
こうたろ
ファンタジー
トラックの直撃で死亡。「君は選ばれた。異世界へ行く資格を得たのだ」とか言われてとりあえず転生させられたクルト。公爵家だけど四男だし魔術があるけど魔力量判定Eでほぼほぼ使い物にならないし……魔物1体倒すのも一苦労。俺の転生後生活、大丈夫か?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる