死神と恐れられた俺、転生したら平和な時代だったので自由気ままな人生を享受する

オカさん

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魔物討伐試験

36話 消えない過去

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「ッ――――!」

 気絶していたラビスは静かに目を開ける。

「おっ、起きたか」

「ここは……?」

 無理やり意識を絶たれたせいで記憶が混濁しているようだった。 

「王都から南東の森の中だ、って言ってもライタードの結界の中だから分からないよな」

 黒き空牢ローブ・ジエルドの結界内外は真っ黒な障壁によって覆われているため、そとの状況は出なければ知ることは出来ない。

「ライタード……アルムの結界かぁ――――って、アルムはどこ行ったの⁉」

 目を擦りながら徐々に意識を取り戻していくと、慌てた様子で男子生徒に問い詰めた。

「……私を騙し討ちするなんて、絶対許さない!」

 事の顛末てんまつを全て聞いたラビスは勢い良く立ち上がる。

「どこ行く気だ?」

「決まってるでしょ、アルムのところだよ」

「待ってくれ! 君の事は彼に任されているんだ、この結界から出させる訳にはいかない」 

 力づくでも止める、と言って男子生徒も立ち上がった。

「ライタード君が戻ってくるまでここで待って居ようよ」

 ラビスを心配、というよりアルムの報復を恐れて生徒たちは引き留めた。

「……分かった」

 彼らにさとされて座り込もうとした瞬間、地面に突風を放って結界の外へ走り出した。

「ちょっと待て、ゴホッゴホ――――!」

「目ェいったぁ!」

 追いかけようと試みるが砂埃に阻まれ、ラビスを結界の外へ逃がしてしまう。
 追いかけなければ命が危ぶまれるが、一度出てしまったら再び入ることは叶わないため生徒たちは潔く諦めた。

「待っててね、アルム!」

 自分に出来ることを精いっぱい考えながら設営地に向けて走りだした。

 ***

「いてぇなクソが……!」

 リーゼンに殴られた俺は木をへし折って数十メートルほど吹き飛び、地面に横たわっていた。
 脳震盪のうしんとうで一時行動不能の状態に陥り絶体絶命のピンチ、にもかかわらず追撃するような素振りは無かった。
 その場から動けないのか、はたまた追撃しなくても倒せる自信があるのか……。

「さっきとは比べ物にならねえのは確か――――だな!」

 徐々に視界が戻って来た俺はゆっくり起き上がる。
 まだ耳鳴りや吐き気が収まっていないから休憩したかったけど、あの場にはフェルンやオリバーたちがいる。黒き空牢ローブ・ジエルドが破られるのは考えにくいが今のリーゼンは何をするか分かったものではない。
 他の対象に目移りする前にさっさと移動しよう。
 しかしそんな予想とは裏腹にリーゼンらしき人物は仁王立ちで待っていた。 

「思っていたよりも早いな。もう少し回復に時間が掛かると思っていたのに」

 彼の声と酷似こくじしていると俺の耳が伝えてくれる。
 というのもその男の肌は黒く変色しており、額に小さなつのが二本も生えていているのだ。そしてその男がリーゼンなら貫いたはずの傷まで修復している始末だ。
 先程まで仲良くしのぎを削っていた男の姿とはあまりに違う。

「……一応聞くがリーゼン、で良いんだな?」

「勿論だよアルム。しかし姿形が変わったとはいえ、俺だと確信してくれないのは悲しいね」

 正体を偽る意味はない、俺は異形の存在をリーゼンとして扱うことにしよう。

「そんな姿になったら分からねえよ。お前が飲んだ黒玉は一体なんだ?」

「……『死神教』にくにするというのなら教えてもやっても良いぜ」 

「死神教……⁉」

 俺はほんの一瞬、呼吸が止まった。

「死神って死累戦争しるいせんそうに言い伝えられた人間のことか……?」

 もしそんな宗教が実在しているのなら、崇められているその神は前世の俺という事になるが……。

「そうだ! 俺は『シニガミ』様の教えによって価値観や考え、人生そのものが大きく変わったんだ! お前も死神教に入れば分かるぞ!」

 意気揚々と死神教について語り出す彼から嘘や冗談を言っている様子は見受けられない。

「本当に、実在するのか……!」

 あまりの衝撃に視界が歪み、収まりかけていた脳震盪がぶり返したのかと錯覚すら覚える。

「信仰できるのがそんなに嬉しいか! アルム!」

「グオォ……⁉」

 すっかり集中力を乱した俺はリーゼンの接近に気付かず、ノーガードで腹部に拳を撃ち込まれてしまう。
 体が宙に浮き、凄まじい衝撃波が体を突き抜けた。

「ゴホッゴホ――――【黒棘ブラックパレス】」

 何とか受け身を取った俺は即座に黒棘を展開してリーゼンの追撃を阻止する。

「しっかりしろよアルム! 俺は勧誘したからって攻撃しねえとは言ってねぇぞ」

「ゴホッ、ゴホ……勧誘とは関係ねぇ、油断しただけだ」

 息を整えてからリーゼンの勘違いを正す。
 でもアイツの言う通り目の前の敵に集中しろ、俺の手にフェルンたちの命が掛かってんだぞ! 
 
「死神なんてくだらない!」

「……『シニガミ』様の話をしてから調子が悪そうだな。言いたい事があるなら信徒として懺悔を聞いてやる」 
 
 リーゼンは耳に手を当てて懺悔を聞く素振りを見せる。

「そりゃあ懺悔したい事なんて山ほどあるけどな……」
 
 懺悔したい大罪を犯した死神ちょうほんにんに許しを請うなんてあまりに身勝手でおかしな話だ。
 まあ、どんな存在であろうと関係ない。

「許して貰おうだなんて思ったことも無い。何をしても過去は消えないからな」

 だから『アルム=ライタード』として生を受けるこの瞬間はせめて人の為に生きよう。
 そしてかつての俺のように無意味に人の命を奪うようなやからは俺が始末する。

「……そうか、野暮なことを言って悪かったな」

 俺の心情を察したわけでは無いだろうがリーゼンなりに理解を得たようだった。

「俺に謝罪するぐらいならせめて殺した仲間たち言ってやれ」

「それは無理な相談だ。俺は悪いことをしたと微塵も思っていない、それに『何をしても過去は消えない』、しなっ!」

 場の流れで提案するも即座に拒否し、微笑みながら俺の言葉を復唱した。
 そんな彼を見ても怒りや呆れといった感情は湧かない。
 そういう人種なのは知っていたし、すでに身も心も普通の人間とは程遠い。

「……せめてこの手で引導を渡してやる」

 俺は長剣を生成し、静かに柄を握りしめる。

「来い、アルム!」

 対するリーゼンは闘気を発しながら拳を握りしめた。
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