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点滅信号
過去編 高校一年生
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二年前。
████が「梓月蓮」と出会ったのは、高校一年生の始業式。梓月は、ごく普通の高校生男子のように見えた。しかし、数日すればこのクラスの違和感に気づいた。人を寄せつけない孤高で強気な態度が同級生からは煙たがられていることに。それでも、周りを気にしないように振舞う姿は美しかった。
████は、誰にでも優しかった。優しすぎた。愛嬌のある笑顔は自然と人を惹きつけた。そして、どこか抜けたところがあり、からかわれることがよくあった。人を疑うことをしないので、よく騙されては都合のいいように搾取されている。しかし、八方美人の癖がついていた彼は、気丈に振舞ってはそのことを隠そうとした。愛される才能と、愛されるための自己犠牲が表裏一体であった。
ある時、見かねた梓月は████が物を盗まれているところを助けようとした。案の定、周囲の梓月への辺りは酷くなっていくばかりで、彼は毎晩罪悪感で押し潰されていた。居てもたってもいられず、放課後に梓月と話すことに決めた。
「梓月くん」
二人以外居ない、冬の凍てついた空気だけが残る教室。落書きや彫り込みでボロになった勉強机三つを挟んだ、対角線上の席へ████は声を投げた。優柔不断な性格だったもので、タイミングを伺っていると彼が帰ろうと席を立ったので、慌てて声をかけた。思ったよりも声が響いてしまい驚かせてしまったようで、わかりやすく彼の身体が跳ねた。
「話しかけられると思わなくて……どうしたの?」
彼は、振り返ると少し心配そうな顔をする。
「どうして梓月くんは僕を守ってくれたの」
少しの間が空く。挨拶程度の会話はしたことがあるが、きちんと面と向かって話すのは初めてだ。そう考えると、████は緊張してきてしまい、まっすぐこちらの目を見据える目から視線を落として赤い鼻を見る。
「俺も、君の気持ちがわかるから」
そう言って彼は控えめな笑顔を向けてくれた。いつも遠くから眺めていたものの、彼の笑顔はこんなに儚いものだったかと心を揺さぶられた。黙っている████を見て眉を下げて話す。
「余計なお世話だったか」
「……っ! そんなことない。梓月くんには感謝をしてもしきれない。そして、あの時は助けてくれて本当にありがとう」
頭を下げる。背負っていた鞄ががつんと後頭部に当たる。
かつりかつりと響く足音は████の前で止まり、そっと肩に手が触れた。そのまま身体を起こそうとしてきたけれど、より一層頭を落とした。
「思ったよりも頑固なんだね。嫌いじゃない」
突然、梓月が座り込んだと思えば目の前に顔を付き合わせてくる。████は、人と顔を合わすのが元来苦手だったため大袈裟なほど思い切り仰け反り、背後にあった自分の席に背負い鞄をぶつけると、その衝撃で机が滑りどすんと冷たい木製の床に座り込んでしまった。
最初は梓月も笑って見ていたものの、想像以上だった彼の暴れっぷりに慌てはじめ、最後には、ぽかんとした様子だった。
「いた、たた……」
「怪我してない?」
男子にしては、やけに細く骨ばった腕が見えた。色白よりも、血の気が悪い肌色だと思った。差し伸べられた手を掴んで、先程の醜態を誤魔化すように飛び上がって直ぐに姿勢を正す。
初めて至近距離に立つ梓月を見ると、████よりも頭がひとつ分くらい低い。どんどん彼のことがわかっていくのが、なんだか楽しかった。
「████くんって、本よく読んでるよね。オススメとか教えてよ」
「えっ、本とか読むの?」
「いや、全然」
「うーん、どうしよう、文学小説しか詳しくないんだけど興味ある?」
「へえ、ファンタジー以外ならいいよ」
「ホ、ホント? じゃあ、入りやすいこの作者の本とかどうかな」
梓月は文学小説と相性が良かったようで、勧めたものをゆっくりだが読破しては感想を伝えてくれる日々が続いた。強かでありながら人を大切にしてくれる。
そんな人と出会ったのが初めてだった友は、梓月にとても心を許していた。学校では共に過ごすようになり、放課後も空き教室で集まるようになった。
「お前ら最近仲良いじゃん」
クラスメイトからそう言われるのも遅くはなかった。
「弱いもの同士で傷舐め合ってんの?」
確かにお互いに被害者側ではあるが、そんな浅はかな関係じゃない。
「守ってもらったからって犬みたいに引っ付いてるだけじゃねえの」
違う。でもここで反抗したら相手の思うつぼになってしまう。感情を抑えて、黙って、ただ黙って。しばらくすれば飽きたのかそのまま彼らは去って行った。
でも、きっと、彼も同じようなことを言われているのだろうと思う。
「関わらない方がいいのかな」
友は、整頓されているが、物の多い自室に寝転んでいた。積み重なった本たちを見て独り言を零す。今までは、からっぽな人生を埋めるために、様々な本を読んでいた。しかし彼が、この本を全て読破したら自分そのものになってしまうのか、とボンヤリ考えて有り得ないと笑った。
でも、学校での立場としても彼の人生をこれ以上崩してしまうのなら、彼から離れるべきだ。
それからは、帰りは真っ先に家に向かい始めた。次第にクラスメイトからも二人の話題が減り平穏が訪れた。
しかしある日、友が帰っていると帰り道に梓月が見えた。でも彼だけじゃない、クラスメイトも一緒だ。嫌な予感がする。話し合いをしているだけだったものが段々と激しさを増して口論から取っ組み合いの喧嘩に悪化した。流石に見ているだけではいられない。唯一の取り柄である、生まれつき恵まれた身長と体格を駆使して梓月を引き抜き駆け出す。
「なんで████くんが……!」
「今はいいから! とにかく走って!!」
何処に行けばいいのかわからずひたすらに走る。入り組んだ路地裏を回っていれば彼らを撒いたようで、立ち止まった途端、普段走らない反動で息切れが酷かった。言いたいことは沢山あるのに喉が焼けるように痛いせいでまともに音にならず、ひたすら口を不自然に動かしながら、なんとか彼の無事を確認する。
「だいじょ、ひぃ……」
「落ち着いて、深呼吸、はい」
助けられたのがどっちかわからないなあ、と苦笑いをしながら呼吸を整える。
「梓月くん、あんなところで何してたの」
「……その、████くんがあいつらになにかされたのかと思って、問い詰めようとしてたんだ」
「え?」
「いや、何かされたんじゃないの? 最近早く帰ってるし。そのせいで学校に居づらいのかと思ってて……」
「えっ、それは、その、ああっ」
とんでもない誤解が生まれていたことに気づき、髪を両手で掻き乱しながら蹲る。
「ごめん、違う、違うんだ……梓月くんのためにと思ったのに逆に傷つけてしまうなんて……うう……」
空振り空回りだ。事の顛末を彼に伝えると、真っ先に怒られた。
「そんな心配してたの!? 俺のことなんだと思ってるの」
「お人好しの馬鹿!! 自分のことなんか考えない間抜けぇ……!」
「そういうことじゃないってば!」
傷心してしまい、起き上がる気力もなく地面にへばりついたまま、力のない八つ当たりをする。穴を掘って埋まりたい。
「だからって友達から離れることはないだろ」
「でも迷惑かけちゃうかもしれないよ」
大きなため息が聞こえる。
「迷惑かかってもいいって言ってるんだ。何より友達が離れていってしまう方が辛い」
友がゆっくり顔を上げると頬をつねられた。
「いふぁい!」
「もうこれからはこんなことしないで。はい、これ借りた本」
本をしっかりと握り締める。もう絶対に離さないように落とさないように。
「うん」
そう言って安心した柔らかい笑顔を見せてくれた。
それからというもの、今までのように共に過ごすことはもちろん、深夜に学校に忍び込んで遊ぶことが二人だけの遊びとなり、全てが楽しかった。とても。
それからは、友の性格も明るくなっていき、友達も次第と増えていった。元々の性格が人と関わることが好きで快活なのだろうと、そばに居て梓月は感じていた。
自分と過ごす時間は短くなってしまうが、他人に愛されては眩しく笑う友を見るのが梓月は好きだった。
████が「梓月蓮」と出会ったのは、高校一年生の始業式。梓月は、ごく普通の高校生男子のように見えた。しかし、数日すればこのクラスの違和感に気づいた。人を寄せつけない孤高で強気な態度が同級生からは煙たがられていることに。それでも、周りを気にしないように振舞う姿は美しかった。
████は、誰にでも優しかった。優しすぎた。愛嬌のある笑顔は自然と人を惹きつけた。そして、どこか抜けたところがあり、からかわれることがよくあった。人を疑うことをしないので、よく騙されては都合のいいように搾取されている。しかし、八方美人の癖がついていた彼は、気丈に振舞ってはそのことを隠そうとした。愛される才能と、愛されるための自己犠牲が表裏一体であった。
ある時、見かねた梓月は████が物を盗まれているところを助けようとした。案の定、周囲の梓月への辺りは酷くなっていくばかりで、彼は毎晩罪悪感で押し潰されていた。居てもたってもいられず、放課後に梓月と話すことに決めた。
「梓月くん」
二人以外居ない、冬の凍てついた空気だけが残る教室。落書きや彫り込みでボロになった勉強机三つを挟んだ、対角線上の席へ████は声を投げた。優柔不断な性格だったもので、タイミングを伺っていると彼が帰ろうと席を立ったので、慌てて声をかけた。思ったよりも声が響いてしまい驚かせてしまったようで、わかりやすく彼の身体が跳ねた。
「話しかけられると思わなくて……どうしたの?」
彼は、振り返ると少し心配そうな顔をする。
「どうして梓月くんは僕を守ってくれたの」
少しの間が空く。挨拶程度の会話はしたことがあるが、きちんと面と向かって話すのは初めてだ。そう考えると、████は緊張してきてしまい、まっすぐこちらの目を見据える目から視線を落として赤い鼻を見る。
「俺も、君の気持ちがわかるから」
そう言って彼は控えめな笑顔を向けてくれた。いつも遠くから眺めていたものの、彼の笑顔はこんなに儚いものだったかと心を揺さぶられた。黙っている████を見て眉を下げて話す。
「余計なお世話だったか」
「……っ! そんなことない。梓月くんには感謝をしてもしきれない。そして、あの時は助けてくれて本当にありがとう」
頭を下げる。背負っていた鞄ががつんと後頭部に当たる。
かつりかつりと響く足音は████の前で止まり、そっと肩に手が触れた。そのまま身体を起こそうとしてきたけれど、より一層頭を落とした。
「思ったよりも頑固なんだね。嫌いじゃない」
突然、梓月が座り込んだと思えば目の前に顔を付き合わせてくる。████は、人と顔を合わすのが元来苦手だったため大袈裟なほど思い切り仰け反り、背後にあった自分の席に背負い鞄をぶつけると、その衝撃で机が滑りどすんと冷たい木製の床に座り込んでしまった。
最初は梓月も笑って見ていたものの、想像以上だった彼の暴れっぷりに慌てはじめ、最後には、ぽかんとした様子だった。
「いた、たた……」
「怪我してない?」
男子にしては、やけに細く骨ばった腕が見えた。色白よりも、血の気が悪い肌色だと思った。差し伸べられた手を掴んで、先程の醜態を誤魔化すように飛び上がって直ぐに姿勢を正す。
初めて至近距離に立つ梓月を見ると、████よりも頭がひとつ分くらい低い。どんどん彼のことがわかっていくのが、なんだか楽しかった。
「████くんって、本よく読んでるよね。オススメとか教えてよ」
「えっ、本とか読むの?」
「いや、全然」
「うーん、どうしよう、文学小説しか詳しくないんだけど興味ある?」
「へえ、ファンタジー以外ならいいよ」
「ホ、ホント? じゃあ、入りやすいこの作者の本とかどうかな」
梓月は文学小説と相性が良かったようで、勧めたものをゆっくりだが読破しては感想を伝えてくれる日々が続いた。強かでありながら人を大切にしてくれる。
そんな人と出会ったのが初めてだった友は、梓月にとても心を許していた。学校では共に過ごすようになり、放課後も空き教室で集まるようになった。
「お前ら最近仲良いじゃん」
クラスメイトからそう言われるのも遅くはなかった。
「弱いもの同士で傷舐め合ってんの?」
確かにお互いに被害者側ではあるが、そんな浅はかな関係じゃない。
「守ってもらったからって犬みたいに引っ付いてるだけじゃねえの」
違う。でもここで反抗したら相手の思うつぼになってしまう。感情を抑えて、黙って、ただ黙って。しばらくすれば飽きたのかそのまま彼らは去って行った。
でも、きっと、彼も同じようなことを言われているのだろうと思う。
「関わらない方がいいのかな」
友は、整頓されているが、物の多い自室に寝転んでいた。積み重なった本たちを見て独り言を零す。今までは、からっぽな人生を埋めるために、様々な本を読んでいた。しかし彼が、この本を全て読破したら自分そのものになってしまうのか、とボンヤリ考えて有り得ないと笑った。
でも、学校での立場としても彼の人生をこれ以上崩してしまうのなら、彼から離れるべきだ。
それからは、帰りは真っ先に家に向かい始めた。次第にクラスメイトからも二人の話題が減り平穏が訪れた。
しかしある日、友が帰っていると帰り道に梓月が見えた。でも彼だけじゃない、クラスメイトも一緒だ。嫌な予感がする。話し合いをしているだけだったものが段々と激しさを増して口論から取っ組み合いの喧嘩に悪化した。流石に見ているだけではいられない。唯一の取り柄である、生まれつき恵まれた身長と体格を駆使して梓月を引き抜き駆け出す。
「なんで████くんが……!」
「今はいいから! とにかく走って!!」
何処に行けばいいのかわからずひたすらに走る。入り組んだ路地裏を回っていれば彼らを撒いたようで、立ち止まった途端、普段走らない反動で息切れが酷かった。言いたいことは沢山あるのに喉が焼けるように痛いせいでまともに音にならず、ひたすら口を不自然に動かしながら、なんとか彼の無事を確認する。
「だいじょ、ひぃ……」
「落ち着いて、深呼吸、はい」
助けられたのがどっちかわからないなあ、と苦笑いをしながら呼吸を整える。
「梓月くん、あんなところで何してたの」
「……その、████くんがあいつらになにかされたのかと思って、問い詰めようとしてたんだ」
「え?」
「いや、何かされたんじゃないの? 最近早く帰ってるし。そのせいで学校に居づらいのかと思ってて……」
「えっ、それは、その、ああっ」
とんでもない誤解が生まれていたことに気づき、髪を両手で掻き乱しながら蹲る。
「ごめん、違う、違うんだ……梓月くんのためにと思ったのに逆に傷つけてしまうなんて……うう……」
空振り空回りだ。事の顛末を彼に伝えると、真っ先に怒られた。
「そんな心配してたの!? 俺のことなんだと思ってるの」
「お人好しの馬鹿!! 自分のことなんか考えない間抜けぇ……!」
「そういうことじゃないってば!」
傷心してしまい、起き上がる気力もなく地面にへばりついたまま、力のない八つ当たりをする。穴を掘って埋まりたい。
「だからって友達から離れることはないだろ」
「でも迷惑かけちゃうかもしれないよ」
大きなため息が聞こえる。
「迷惑かかってもいいって言ってるんだ。何より友達が離れていってしまう方が辛い」
友がゆっくり顔を上げると頬をつねられた。
「いふぁい!」
「もうこれからはこんなことしないで。はい、これ借りた本」
本をしっかりと握り締める。もう絶対に離さないように落とさないように。
「うん」
そう言って安心した柔らかい笑顔を見せてくれた。
それからというもの、今までのように共に過ごすことはもちろん、深夜に学校に忍び込んで遊ぶことが二人だけの遊びとなり、全てが楽しかった。とても。
それからは、友の性格も明るくなっていき、友達も次第と増えていった。元々の性格が人と関わることが好きで快活なのだろうと、そばに居て梓月は感じていた。
自分と過ごす時間は短くなってしまうが、他人に愛されては眩しく笑う友を見るのが梓月は好きだった。
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