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第一章 目覚めた記憶
第8話 彼の事情
しおりを挟む「君のことに気づいたのだって、本当に偶然なんだ。あの入園式の日、僕はたまたまヴィヴィアン嬢の姿がよく見える席に座っていたんですよ。殿下のご挨拶が始まる前でしたか……貴女の笑顔が剥がれ落ちる瞬間を見てしまって」
ああ、あの時ですか……。それなら仕方がありませんわね。
前世の記憶が怒濤のように押し寄せてきていたあの瞬間に平常心を保つことなど、いくら日頃から表情筋を鍛えている私であってもとても無理だったでしょうから。
「まあ、そうゆう訳だったんですの」
「うん。その時は少し気になったくらいだったんです。 単に具合でも悪くなったのかなぁって思っていて。その後は何も言わずに、貴女は学園に来なくなってしまったでしょう? 確かめようもなくて困っているうちに僕の方も記憶が戻ってね。それで、もしかしたらって……」
それだけのヒントで関連付けられるなんて、さすがは前世持ちでハイスペックの攻略対象者。
簡単に見破られてしまっていたようです……。
「そんなに前からお見通しでしたのね」
「うん。まあ、ヴィヴィアン嬢って素直だから、表情が顔に出やすいですし」
「え」
「え?」
「……フレデリック様、わ、私ってそんなに分かりやすいんですの?」
「えっと……。い、いやあの、それは幼馴染みだからこそ、分かってしまっただけ……かもしれません!?」
「……フォローしてくださってありがとう」
「ど、どういたしまして?」
でも全然嬉しくないですわ!
どんな時でも薄く笑みを張り付け、素の表情を読み取られないように崩さないこと……。そう教育されて来ましたのに、恥ですわ。
貴族令嬢として身につけた筈の嗜みが、社交術が、全く身についてないと言われているのと同じですものね。
私的には完璧にマスターしたと思っておりましたのにっ。
残念ですが、気合いをいれて一から勉強し直さなくてはいけませんっ。
多分ですけれど、残念ながらここら辺は、乙女ゲームから悪役令嬢の猪突猛進型の性格を引き継いでしまっているのでしょう。 長年の努力があまり実っていないようですし。
軽く落ち込んだが、今はそんなことを言っていられない状況なのだ。
――続けて別の疑問を口にすることにした。
「……ところで気になっていたのですが。貴方は何故、学院に逃げて来られたのです?」
乙女ゲームの知識があるなら、同じ学園にいてもヒロインさんから逃れられるのではなくって?
「いやぁ、それがですね。僕、妹から少し聞いているだけでゲームの内容には詳しくはないんです」
「え?」
「つまり、ほぼ何も分からないに等しい……というか?」
「……それは本当ですの?」
「ええ、残念ながら」
「……と言うことは、二人共に乙女ゲームのシナリオが曖昧なまま、闇雲に挑まなければいけない、と?」
「そうなりますね」
にっこり笑うと、愛らしくコクリと頷いた。
――何てこと!?
フレデリック様、それって、そんなに満面の笑みでお認めになることではございませんことよっ。
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