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第一章 目覚めた記憶
第9話 曖昧すぎる記憶
しおりを挟む――でも、無い物ねだりをしても仕方がありません。
あの乙女ゲームをフレデリック様もご存じだと伺って期待してしまった分、少しがっかりしてしまった感は否めませんが……。
「残念です。是非、詳しい情報を教えていただきたかった……」
「う~ん、困りましたねぇ。あははははっ……」
……私は全く笑えませんわ。
「こうなったらせめて、貴方だけでも今からあちらの学園に戻って……」
「嫌です」
やけにキッパリと断られた。
「僕はリリーを愛してる。だからこそ、ここへ転校してきたんです。シナリオの強制力がどこまでのものかまだ分かりませんし、ヒロインちゃんにたぶらかされて、逆ハーレム要員にされては堪りません。可愛いリリーを悲しませないためにも、何としても回避しなくちゃいけないんです!」
「それくらいなんですの!? 私が割り振られた役は悪役令嬢でしてよっ。攻略対象の貴方と違って生死がかかっておりますのっ」
「……分かっています」
「い・い・え、分かっていらっしゃいませんわっ。貴方がこちらの学院にいらっしゃると、ヒロインさんが来てしまう可能性が上がってしまうではありませんか!」
「う~ん。それは不味いですよね? ごめんなさい?」
「全く誠意が感じられません!」
美少年に可愛いく謝られて、またしても反射的に許してしまいそうになりましたけれど、ここは譲れないところですわっ。逃げて来た意味が無くなってしまいますもの。
「まあまあ落ち着いて。それよりも気になっていることがあって……早く伝えなきゃと思っていたんです」
「……なんですの?」
「うん。何かさ……乙女ゲームのシナリオが変わってきている気がするんですよね」
「……え? 本当に?」
――それは一大事ではありませんか!?
「僕の記憶が正しければだけどね」
フレデリック様の話によると、彼のルートで起こるヒロインとの出合いイベント…… 彼が前世を思い出すきっかけとなったその場面は、シナリオ通りだったらしい。
では何がおかしいのかというと、ゲームでのフレデリックはその出会いイベントまでの間、ヒロインの存在を全く知らないという設定だったはずだという。なのに、前からよく校内で見かけていたというのだ。
その時は疑問に思わなかったが、記憶が戻ってから振り返ってみて、どうにも変だと気がついたんだとか。
「おかしいですね? 本人的には隠れてこっそり見ているつもりのようだったけど。あんな目立つピンクの髪だし、近くでうろちょろされたら否応なしに気づきますって」
「……そう、ですわね?」
「あ、そこら辺の記憶は持ってない感じです?」
「ええ。私自身ではプレイしていないものですから。友人が一時期嵌まっていまして。毎日飽きるほど聞かされましたので、攻略対象の名前とかはよく覚えていますが、個別のストーリーは片寄っていると言いますか……貴方のルートはよく存じ上げませんの」
友人のイチオシは第二王子だったので、それ以外の攻略対象の情報は曖昧なのだ。
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