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第41話 強者の裁き
しおりを挟む「本来、騎士として一番に守らなければいけないのは誰だ? 婚約者だったルイーザ嬢だろう?」
「っ!? そ、それは。ですが彼女は俺が守らなくても強い、から……」
ここまで諭されても、自分が責められる理由が分からないらしい。
戸惑いながらも答えたクレイブの理解していない返答に、何ともやりきれない気持ちになる。
こんな男が恋のライバルだったとは、と……。
「見苦しい言い訳だな。君は長年、自分の為に尽くしてくれた誠実な彼女を守ることもせず、それどころか、その小娘の虚言に惑わされ何度も責め立てた。挙げ句の果てには理不尽な理由で一方的に婚約破棄して捨てた後に不貞まで疑うとは……最低だ」
「虚言などっ。サリーナ嬢は優しい女性なんです。相手を貶めるような嘘がつける訳がありません。ルイーザ嬢と違って、一人では生きていけない、守ってあげなければ生きていけないような、そんなか弱い人なんですよ!」
「……話にならない」
必死に訴えても、尊敬する剣聖は冷めた視線を向けてくる。
そのことに戦き、挫けそうになりながらも、クレイブは尚も自らの正当性を主張する。
「剣聖様こそ、ルイーザ嬢から彼女について何か良くないことを吹き込まれて誤解なさっているのでは?」
「……私まで侮辱するというのか?」
「そ、そんなつもりはありません!」
「はっ、どうだか。不貞を働く男の言葉など、信用出来ないな」
「お、俺は不貞など働いてはっ」
「黙れ。これ以上、醜態を晒すな」
「ひぃっ」
圧倒的な強者に金の瞳で強く睨まれ、上がりそうになった悲鳴を飲み込んだ。
「ルイーザ嬢が不貞を働いていないことは私が保証する。彼女とは辺境伯領での魔物討伐の際に会ったきりだ。何しろ、私は戦場に身を置いている時の方が多く、王都にいた彼女とはどうやっても会える距離にはいなかったのだからな」
「そ、それは……」
「物理的に不可能だ。疑う方がどうかしている。そうではないか?」
「は、はい。申し訳ございません。彼女に裏切られたと思ってつい、頭に血がのぼってしまい……その件に関しては軽率な発言でした」
騎士としても男としても格上の存在である剣聖が、男勝りで女性としての魅力もないと思っていた婚約者を求めた事が信じられなかったらしい。
ショックで、咄嗟に疑いの言葉を放ってしまったと言い訳する。
「ふんっ。今回の私の求婚についてもそうだ。正式な作法に則ったもので、君が彼女との婚約を破棄しなければあり得なかった。非難される謂れはないな」
「うっ」
少しは冷静になってきたのだろう。
正論を述べられたクレイブは、言葉に詰まってしまう。
「不満か? ならば私とルイーザ嬢をかけて決闘し、再び彼女を得るために闘ってみるか?」
どこまでもルイーザを軽く扱う男に、剣聖の機嫌は下がりっぱなしだ。怒気を込めて挑発する。
「……そんな無茶な……」
勝てっこないとボソッと呟き、視線を外して項垂れた。
憧れの剣聖から侮蔑を含んだ叱責と怒気を浴びせかけられ、魂が抜けたような状態になっている。
立っていることさえやっとな状態の元婚約者と、真っ青な顔で震え気絶寸前のサリーナの醜態を見たルイーザは、ようやく溜飲を下げたのだった。
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