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第59話 自慢の容貌
しおりを挟むと言うのも、一時ほどではないにしろ、魔力が吸いとられる苦痛にまだ、喘いでいるからだ。
つまり、表面上は目に見える変化がなくとも生命力は奪われ続けており、老化の進行も完全には止まっていないと思われる。じわり、じわりと進んでいるのだろう。
「うぅっ。はぁ、はぁあっ、あぅ……助けて……」
話せるまでになった途端、サリーナはこの中で唯一、解決法を知っていそうなランドルフを縋るように見つめて懇願する。
「助けて、ランドルフ様……わたしまだ、死にたくないの。何でもするからぁ。だから、サリーナを助けてよぉ……お願い!」
痛々しい姿の彼女を見ていられず、ジョナスも一縷の望みを託し、プライドを捨てて叫ぶ。
「ランドルフ、僕からも頼みますっ。君なら何とか出来るのでしょう? どうか彼女を助けてあげてください!」
「ふむ……まぁ、他でもないジョナス殿の頼みですしね。いいでしょう」
「おぉっ、本当ですか! では今すぐ……」
「その前に言うことがありますわよね?」
「アンジュリーナ嬢?」
色よい返事に勢い込むジョナスだったが、アンジュリーナに言葉を遮られて苛立った視線を向ける。だが彼女もここで譲るつもりはなかった。
サリーナを冷たく見つめながら言う。
「ボートン子爵令嬢、貴女には殿下やジョナス殿、その他諸々の殿方に、魅了魔法を使って彼らの精神を操っていた疑いがかかっています。己の罪を認めますか?」
「え……な、なんのこと。サリーナ、よく分からないと言うか……?」
この期に及んでもまだ言い逃れしようというのか、目を泳がせ言い淀む。
「……悠長に迷っている時間はないと思いますわよ? 魅了返しの魔道具を装着した後、術が破れた反動があなたに今、どう影響しているのか……本当に理解していまして?」
「え?」
彼女はまだ、知らないのだ。生命力を吸い取られる以上に、サリーナにとっては衝撃的であろう事実を……。
――自分の容姿が急激に萎びて、老け込んでしまっていることを。
先程まで術の反動が酷く苦しんでいたため、周りの会話は耳に入ってこない状態だったのだから仕方ないのかもしれないが……。
ポカンとする彼女に、今度はランドルフが丁寧に詳細を教えてやった。
「君のご自慢だった容姿が大分と変化したんだ。そうだな……分かりやすく言うと、一気に干からび、目に見えて老け込んだんだよ」
「う、嘘!? わ、わたしの顔が、醜くなっているですって!?」
告げられた内容に激しい衝撃を受け、絶叫するサリーナ。
若くて可愛らしい容姿は彼女の自慢で、自分の思い通りに男達を操るための一番の武器だ。それが損なわれていると言うのか……?
(嘘よ! 嘘、嘘っ、嘘嘘嘘嘘! そんなの信じない!! 反動があるなんて知らないっ。一言も聞いてないわ!)
もしかして自分は手をとんでもないものに手を染めていたのか……?
恐ろしくなってきたサリーナは、両手で体を掻き抱いた。
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